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02.きっといい人見つかるよ

ボロボロだ。

俺の心が、ここ最近の度重なる心労で、使い古されて擦り切れた古い雑巾のように。


一方的に彼女と別れてから一週間が経とうとしている。あの日から、毎日毎日彼女からメールや電話が掛かってきている。しかし、気持ちの整理が出来ないのか、大学で会っても悲しげに微笑みかけてくれるだけで、決して話し掛けてはこなかった。


自分がそうさせたというのに、彼女のよそよそしい態度に心に激しい痛みが走る。


バイトから帰ってきた深夜。靴を脱ぎ、安いアパートの小さな小さな住まいに入る。パチリと照明をつけると、案の定今日も彼女からの電話があった事を知らせる留守番電話のランプが点灯していた。

冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して口に含みながら、いつものようにオレンジ色に光っている留守番電話のボタンを押した。


「今日は、大学楽しかった?」


「全然。君と話せたなら、もっと楽しいだろうけどね」


「ねぇ、私何がいけなかったのかな。どうしたら良いの?」


「君に足りないものなんて無いよ。」


「私だけなのかもしれないけど……まだ私、あなたの事が好きなの」


「もちろん、俺もだよ」


電話から次々と流れてくる彼女からのメッセージに、一人きりなのを良いことにいちいち返事を返す。


料理が出来ない俺が毎食コンビニ弁当で済ますのを見かねた彼女は、三日に一回ほどのペースで俺に手料理を振る舞ってくれていた。その都度冷凍庫に料理を何種類も作り置きしてくれていたのだが、それも昨日で食べ尽くした。


久しぶりの冷たいコンビニ弁当に、溜め息がもれる。


「ひ…っく……別れたくないよっ……」


留守番電話の向こうで嗚咽をもらしながら泣く彼女。泣かしているのが自分だと自覚している分、堪らない程に心が痛む。


メールだって留守番電話だって、彼女には辛いはずだ。こんな風に彼女からのメッセージを聞きながら過ごす毎日も、そう長くは続かないのだろう。


「ごめん。……でも、きっといい人見つかるよ」


いや、違う。見つけてもらわないと困るのだ。彼女に幸せになって貰わないと、俺が困る。


ケースから薬を取り出し、近くにあったお茶で嚥下する。一人きりの部屋に、彼女からのメッセージが終わったことを告げる、無感情な機械の音声が響いた。



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