ゴー・ナッツ
再誕歴7663年ジューンε日
ベネルクス王国首都国王直轄領ブリュッセル。
内側エリアにある教会。
そこにやって来たセルデンとジョン、 そしてお付きの執事ファンク。
ジョンはまだ幼くセルデンに連れられている。
「父上、 何で私が知らない人の結婚式に出なくちゃならないの?」
「ジョン、 お前も貴族の子だ、 セルデン家は武門の家柄故に武術に秀でているが
武術のみをするのは良くない、 貴族としての礼節が無ければ貴族として認められない
今日は退屈かもしれないが式典に参加する練習としてこの結婚式に参加して貰う」
「でも父上、 練習だからと参加しても良いの? 先方に失礼では?」
「全く問題無い、 今日結婚するのは私と離婚した女の娘だからほぼ身内だ」
「たんな様、 それはこへいがあると思いますよ」
ファンクは歯抜けの様な言葉で訂正する。
彼はもう若くないのだ。
「香典はたっぷり持って来てある」
「たんな様、 こしゅうきてす」
「あぁ、 そうだったな」
受付に御祝儀に大金の入った袋を置いて先に進むセルデン一行。
「さてと控え室に挨拶に行くからジョンは待ってろ
ファンク、 ジョンを見ていろ」
「はい」
「了解しました」
セルデンは新婦の控え室に向かった。
「結婚式かぁ・・・ファンク、 父上が母上と結婚した時はどんな感じだった?」
「書類たけ書いて式は無してす、 たんな様は3回目の結婚なのて・・・」
「そっか・・・今日結婚する人の母親が最初の父上のお嫁さんなの?」
「えぇ・・・大層仲良かったのてすか・・・あの女が浮気をして・・・
大層たんな様も怒り狂いましたか、 間男か腹を切って許されました
更にたんな様はあの女の娘に養育費まて払って・・・」
「意外だね、 真っ二つにするのかと思った」
「ははは・・・」
バァン!!! と大きな音が響く。
「?」
ジョンとファンクが音のした方向を見ると女の髪を掴んで引き摺るセルデンの姿が!!
「たんな様、 とうしました? 浮気して離婚した女が何かしました?」
「この女!! 事も有ろうに養育費を使い込んでやがった!!!」
「まぁ、 それはそれは、 とうします? 手打ちにします?」
「このまま豚箱にぶち込んでやる!! ほら!! 来い!!」
「分かった!! 分かったから一回放して!!」
「ちょ、 ちょっと待ちなさいよ!!」
花嫁姿のジェーンがやって来る。
「貴様もタダで済むと思うなよ!!」
ジェーンに指を指すセルデン。
「え、 な、 何「セルデン侯爵家に喧嘩を売ったんだ!! 二度と表通りを歩けると思うなよ!!」
「ち「だまらっしゃい!! 子供であろうがなかろうが平民が貴族に喧嘩を売って
平穏に暮らせる訳がねぇだろうがこの脳足らず!!」
「あ、 あの・・・すみません、 恐れながら発言の許可を頂いても宜しいでしょうか?」
おずおずと新郎がセルデンに尋ねる。
「許す、 何だ?」
「一体何がどうなっているのか訳が分からないので説明をして頂いても・・・」
「良いだろう、 この娘はこの浮気女から
離婚の原因は俺の浮気だと吹き込まれ、 俺に結婚式に参加するなとほざいた!!
更にこの浮気女は私が振り込んだ養育費を使い込んでやがった!!」
「違う!! 1ユーロも使っていないわ!! 全部銀行口座に置いたままよ!!」
「銀行口座にあるだけでも問題だ!!※1」
※1:ローンを組む時等の審査において銀行預金口座は重要視される。
銀行口座に高額預金が有るだけでも利点があるのだから
預金しているだけでも養育費を悪用しているとセルデンは言いたいのだ。
「この女を豚箱にぶち込んでから抹縁※2 をする!!」
※2:婚姻関係を解消するが離縁ならば婚姻関係を抹消するが抹縁。
結婚自体を無かった事にする、 離縁と違い著しい問題が有る相手にしか抹縁は使えない。
抹縁をした時、 相手との間の子供が抹縁との整合性を取る為に戸籍が消滅するので
普通子供が居る相手との抹縁はしないのが人情とされる。
「ちょ、 ちょっと待って下さい!! それじゃあジェーンの戸籍が無くなって
彼女が露頭に迷いますよ!!」
「貴族に楯突いたんだからこれ位が妥当!! 寧ろ命が有るだけマシと言えるだろう!!
それよりもお前、 新郎だがどうしようもない娘との婚姻を続けるのか?
言っておくがこれから私は浮気女を豚箱に叩き込んでから
徹底的にコイツの生活基盤を破壊するつもりだ」
「え・・・な、 何故? さっきの話だと彼女は母親に騙されていたと言う事じゃないですか
いわば被害者では?」
「いい大人が事実確認も無しに貴族に喧嘩売っている時点でアウトだろうが!!
こんな輩が社会に出て結婚して子供を産む事を見過ごせるか!!
ベネルクス王国民としてこんな輩は社会から排斥するべきだし
私は喧嘩を売られたら餓鬼でも容赦無く叩き潰す主義だ
手を出した瞬間に叩き殺す主義だが、 今回は手は出されていないし
明確に法で裁ける範疇なので法を使って叩き潰す
で、 君は如何する? この娘と一緒に路頭に迷うか?
それとも婚姻を辞めておくか?」
「・・・・・」
新郎は悲痛な顔をして結婚式を取り止めたのだった。
再誕歴7701年マーチ10日。
セルデン侯爵のブリュッセルハウスの応接室でジョンとジェーンは対峙していた。
「要するに貴女が父上に喧嘩を売って落伍者になったんでしょう?」
「否定はしないよ、 確かに、 もっと良く調べるべきだった」
「その通り、 父上は貴女を認知する訳が無い
さっさと出て行った方が良い、 父上が帰って来たら貴女は死ぬ」
「いや、 強ちそうとも言えないと思う、 私もただ来た訳じゃないわ」
「・・・?」




