アキュート・アルコール・イントクシケイション
聖剣の間合いに詰めようとするカケル。
走ろうとしたが・・・
「っ!?」
突然、 地面が揺れた、 否、 地面だけではない。
建物も空も視界すらも揺れて、 否、 歪んでいる。
「こ、 これは・・・」
「気が付くのおせぇよヴァアアアアアカ、 俺は酒飲みだから
酒を自在に操る事が出来る、 霧状に散布してお前に大量に摂取させた
急性アルコール中毒で殺せると思ったが・・・ケチり過ぎたか・・・」
R・To・Youは酒瓶を取り出した。
「あ、 これもう全部飲んでたか」
ぽいと酒瓶を投げ捨てて別の酒瓶を取り出す。
「あ、 これも飲んじゃったか」
スキットル※1 を取り出す。
※1:主にウイスキーなどアルコール濃度の高い蒸留酒を入れる携帯用の小型水筒。
「これも呑んでたかぁ・・・くぅー・・・」
「・・・・・」
ふらふらとだが起き上がりR・To・Youに近付くカケル。
「う、 うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
聖剣を振り下ろすカケル。
しかしR・To・Youは最小の動きで回避し、 カケルの喉笛に拳を叩き込む。
カケルの喉は破壊されカケルは呼吸すら困難になった。
「か、 かひゅ、 かひ・・・ひ」
「!!」
だがカケルはそれでも倒れなかった。
諦めずに攻撃を仕掛ける、 しかしカケルは吹き飛ばされた。
「がは!?」
余りにも速い拳による打撃。
酒により反応が遅れたとはいえそれを加味しても速い。
「らぁ!!」
更に追いかけて追い打ちの拳。
(これは・・・崩拳※2!!)
※2:崩拳とは中国武術の基本の打法である。
日本空手の正拳中段突きに相当する。
無い方の腕でガードする、 骨が折れる音が響くが幸いにも
カケルにはもう痛覚すらない。
(舐めるな!!)
カケルは蹴りを放つも回避される。
「かひ・・・かひ・・・」
(まずい息が・・・)
カケルの視界がブラックアウトする。
「っ!!」
暗転しかけた意識を無理矢理引き戻すカケル。
何の為にここまでやって来たんだ、 せめて相打ちに持ち込む!!
その意気でカケルは全力を持ってR・To・Youに近付く。
カケルの命は1分あるかどうかである。
呼吸と血が無くては勝っても負けても死だろう。
だがカケルはこれまでの人生の全てを総動員した。
父に叩き込まれた剣道の足運び、 剣道の奥義とも言えるその技法は
R・To・Youの眼にまるで地面その物がカケルを運んでいる様に見えた。
「っべぇ!!」
R・To・Youは自分の手を杯に見立てて飲み干す動作を行った。
規定振舞だ!!
「優生侵攻!!
酔っぱらいの檻!!」
ずううと音ならぬ音が響き個体空間が展開された。
そしてR・To・Youとカケルの周囲が木材で覆われた。
「!?」
カケルはまるで樽の中に閉じ込められたと感じた。
そして意識が暗黒に堕ちて行ったのだった。
「やばかったぁー・・・はぁー・・・」
個体空間を解除するR・To・You。
R・To・Youの個体空間である酔っぱらいの檻は
空間内に居る対象を空間内に満たされた濃度の大気中アルコールを操り
急性アルコール中毒で死に至らしめる事が出来る技である。
モスキートの個体空間と比べ洗練され
文字通りの必殺技だが消耗も激しい。
「貴方の勝ちだ、 おめでとう」
「ありがとよ」
立会人№966が祝う。
「じゃあ俺は帰って寝るわ・・・めっちゃ疲れたし・・・」
「そうですか、 ではこちらも仕事を終わらせますか」
「仕事ぉ? アンタ決闘の立会人以外に仕事あるのかよ?」
「えぇ、 八百長やった腐れ爺を始末しに」
「? そうか・・・じゃあ俺は行く・・・あぁー疲れたぁ・・・」
とぼとぼと歩いて帰るR・To・You。
そして立会人№966がその場から消える。
老体に鞭を打って走るテラー。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」
立会人、 テラーにとっては見慣れた存在だった。
テラー自体は決闘はしないが、 武門の師範ともなると門下生が決闘を行い
立会人として彼女達がやって来た。
だがしかしテラーが八百長を行ったあの日
立会人によるベネルクス二刀流の粛清により立会人に強い恐怖を覚えた。
文字通りの心的外傷である。
そして立会人はテラーを探し回り、 彼は地下社会に落ちたのだった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「止まれ」
立会人№966が急に現れテラーの行く手を塞いだ。
「この恥知らずが、 往生際は良くしろ」
「っ・・・仕方ないだろうが!! 八百長を飲まなければ」
立会人№966はテラーの言葉を無視してテラーの胸を貫いた。
「がは・・・」
口から血を吐き出すテラー。
倒れたテラーの頭を踏み潰す立会人№966。
そして持っていた黒いポリ袋を取り出してテラーの死体を
袋に入る様に丁寧に折り畳み引き裂いていったのだった。
「うん?」
テラーの懐から手紙が落ちた。
が、 そんな物は気にせず立会人№966はそれも死体袋に入れたのだった。




