カケルズ・ライフ・ストーリー
勇者カケルこと本宮カケルの人生は順風満帆だったと言って良かった。
元検事で正義感が強い祖父、 剣道の達人の父と料理上手の母。
6歳から始めた剣道は高校二年には三段になった。
幼馴染には美人な剣道少女と家が隣の愛らしい少女。
更には熱血野球少年やライバルと言える同年代の少年もいた。
とても素晴らしい家庭環境だったし交友関係も広かった。
カケルも正義感が強く、 いじめを許さない立派な少年だった。
彼の人生に陰りが見え始めたのは中学1年生の時だった。
ライバルだった少年が赤門の付属中学に進学し引越してしまった。
小学6年生の時には中学受験の為に剣道を一時的に辞めてしまったライバルに対し
カケルは剣道を辞めない様に言ったが
『剣道よりも勉強して良い学校に入った方が人生が安定する』とライバルは拒否した。
カケルは大いに荒れたが剣道に打ち込む事で平静を保ち
剣道一級を獲得、 中学二年の時には初段を獲得したのだった。
父は『他人の事なんて気にするな』と言った。
ライバルは居なくなったが親友の熱血野球少年は野球を続けていた。
彼は甲子園を目指しており、 必死になって努力していた。
方向性は違えど、 彼等はとても仲が良く互いに切磋琢磨していた。
だが高校生になった際に野球少年はスランプに陥っていた。
一年生でもレギュラーが居るのに彼はレギュラーにも入れていなかった。
カケルは野球部顧問に頼み込んだ、 野球少年をレギュラーに入れてくれと。
彼は誰よりも努力をしてきた努力家だと。
結果として野球少年からは『余計な事をするな』とやんわりと拒絶された。
しかしカケルは野球少年の為にやったのにこんな事を言われるのは酷いと激怒した。
自分の善意を踏み躙ったとして野球少年を闇討ちした。
返り討ちにあった、 結果としてカケルは祖父と父のお陰で示談に出来たが
改めて父は『他人の事なんて気にするな』と言った。
高校二年の頃には所属している剣道部の生徒による非行により全国大会に進めなくなった。
カケルは先輩である三年生が嫌いで嫌いでしょうがなかったが
必死に努力をして来たのは充分に認めており非行を働いた生徒を闇討ちした。
今度は無事に成功し、 二度と剣道どころか立てない体にしてやった。
カケルは正義を行えた事に充足感を感じたのだった。
カケルも思春期で恋愛に興味が出て来た。
そこで幼馴染の自宅の隣に住む愛らしい少女に告白をした。
既に彼女には恋人が居たのだった、 ショックだった。
何故自分にその事を伝えなかったのかと聞くと『あまり仲良く無かったから』と答えられた。
幼馴染だからとこっちは思っていたが向こうはそう思って無かった。
少女の恋人に『自分の方が彼女の事を理解しているし
彼女の隣に住んでいるから彼女と別れてくれ』と言った。
恋人は自分のお向かいに住んでいた男だった。
父には『他人の事は気にするなと言ったが御近所付き合いはしておけ』と怒られた。
剣道少女にも告白をしたが普通に断られた。
隣人への告白は既に周知の事実だった為、 流石に了承する奴は居ない。
友人関係は滅茶苦茶になり孤独になったカケルだったが
それでも剣道の腕は冴え剣道三段になり、 三年生の頃には全国大会に進出した。
全国大会にはライバルと言える同年代の少年もいた。
カケルは彼に『決勝で会おう!!』と言った。
少年はカケルに『誰?』と言った。
完全に忘れ去られていた、 その割には剣道少女の事は覚えていた。
カケルは決勝で戦って思い出させると誓った。
カケルは準決勝で負けた。
ライバルは決勝で負けた。
カケルは相当に落ち込んだ、 何故だか自分の人生が思い通りになっていない気がする。
カケルは考えた、 そして閃いた。
『自分は間違っていない筈、 ならば周囲に問題がある
環境を変える為に大学は遠くの大学にしよう』と
そしてカケルはライバルが通っている中学の付属先の赤門を受験したのだった。
父からは『全国ベスト4には入っているんだから
剣道に力を入れた大学に入った方が良いんじゃないか?』と言った。
しかしながら日本最高学府の誘惑には勝てず結局家族は受験を支持したのだった。
結果として補欠合格※1にはなれたが進学は出来なかった。
※1:正規の合格者が辞退した場合に入学が認められる補欠として合格する事。
しかしカケルは諦めなかった、 自分には実力が有るのだから
本気で挑めば行けるだろう、 予備校に通えば何とかなる筈だ。
しかし剣道は如何すれば良い?
父は『剣道は筋力じゃなく技術で行う物、 技術は衰えない』と言った。
カケルは泣く泣く剣道を一時的に断ち勉強に集中したのだった。
浪人生になり、 二度目の受験も補欠合格で進学出来なかった。
もう一年浪人したかったが家族に猛反対された。
カケルは激怒して家を飛び出し、 そこで記憶が途絶えた。
気が付くとベネルクス王国に居て、 自分が勇者だと言う事が分かった。
カケルはその時、 自分の人生が如何しようも無かったのは
ここで正義の剣を振う為だ、 と思い込んだ。
赤門には未練が有ったが、 それで良いと思い込んだのだった。
そしてカケルは現在、 聖剣を振るっている。
体が聖剣で蝕まれ、 血を流し、 まさに幽鬼の如き姿となっていた。
地面には斬り伏せた躯の山が出来ていた。
「う~・・・頭いて~・・・」
アルコールの匂いと共にふらふらと歩いて来たのはR・To・You。
騎士団詰め所に向かったモーント・ズンディカーズ構成員が死んだ事を聞かされ
派遣されたのだった。
「何だお前は!? お前もこいつ等の仲間か!!」
「うるせぇ・・・俺は二日酔いで頭いてぇんだよ・・・」
ふらふらとその場に倒れ、 むくりと起き上がり座ったR・To・You。
「んじゃ、 さっさと終わらせるか」
「やる気か!! 来い!!」
「それでは立会人は立会人№966が務めます」
唐突に現れる立会人。
「・・・決闘する気か?」
「あぁ・・・これなら不意打ちで別の奴が出張る事は無いしな」
「・・・好きにしろ」
「ルールは見せ合い無し無制限のデスマッチ」
「こっちには聖剣がある、 好きにしろ」
「双方同意しましたね、 では両者名乗りを」
「悪党に名乗る名前等ない!!」
「餓鬼に名乗りたくねぇ・・・」
「では始め!!」




