ランニング・ギャングズ
N5の往来を出歩くカボチャとヨランダ。
「ねー、 かぼちゃん、 教会を出る必要が有ったのかしら?」
「教会は騎士団が来たからな、 揉め事が起こっているかもしれん
逃げておくのが無難だ、 リスクヘッジ※1 はしておこう」
※1:起こりうるリスクの程度を予測しリスクに対応できる体制を取って備えること。
「かぼちゃんは賢いね」
「だろー、 経営学の本を見て勉強した」
「意識たかーい」
「ふふふ」
「将来は起業家だね!!」
「いや、 それは嫌だな、 1000万あれば文字通り一生遊んで暮らしていける
もう働く必要はない、 FIRE※2だ」
※2:Financial Independence, Retire Early(経済的自立と早期リタイア)の事。
主に資産運用で形勢を立てると言う内容だが
カボチャは大金を手にすれば働く必要が無いと考えている。
「なるほどねぇーかぼちゃんは頭いい!!」
「( ・´ー・`)ドヤァ、 ん?」
目の前からモーント・ズンディカーズの構成員達が走って来た。
「うお!?」
「ひぃ!!」
慌てて道を開けるカボチャとヨランダ。
モーント・ズンディカーズ達は当然と言わんばかりに横を走って行った。
「な、 なんだぁ?」
通り過ぎた後にぽつりと呟いたカボチャ。
「さ、 さぁ・・・」
「良く分からんが・・・早急に離れた方が良いな」
「そ、 そうね」
一方その頃、 N5の建物内のとあるカフェ。
デビットとルーはコーヒーとクラブハウスサンドイッチ※3 を食べていた。
※3:アメリカのサンドイッチの一形態。
三枚のパンを用いた三段重ねした物を三角形に切ったうえで
崩れないように上から爪楊枝を刺して留たりする具沢山のサンドイッチである。
アメリカはサンドイッチの種類が多い為、 洗練、 淘汰され
クオリティが高いサンドイッチが揃っている。
その為、 各国のサンドイッチはアメリカのサンドイッチに押され気味である。
「まぁまぁだな」
「ビールが欲しいな」
「だなぁ・・・呑むか?」
「マジで?」
「クワス※4 なら大丈夫だろ」
※4:東欧の伝統的なノンアルコールビール。
「ならもう少し頼もう唐揚げとか」
「そのルビで合っているのか不安だが、 まぁ頼む・・・うん?」
デビットがふと窓の外を見ると大勢のモーント・ズンディカーズの構成員達が走っていた。
「・・・おいおいおいおい・・・騎士団の方に走って行ってるぞ・・・」
「マジで? どうする?」
「騎士団とギャングの揉め事が終わったら様子を見に行こう
争っている最中だと俺達が怪我しかねない」
「うーん・・・男爵に怒られれない?」
「我が身の方が大事だ
流石にギャング一つと殺し合えなんて無茶も男爵も言わねぇだろうさ
とは言えあのギャングも俺達を狙って来ているかもしれねぇ
飯を喰ったら身を隠した方が賢いかもな」
「でも1000万の仕事・・・
放置するのはヤバくない?」
「心配するな、 騎士団連中は生きていても死んでいてもどっちにせよOKだ
連中には死亡保険がかけてあるからな!! 死んだら男爵様に保険金が入る!!」
ジース!! 何と言う卑劣!!
生きても死んでもどちらでもいいと言う悍ましいまでの自己中心性か!!
だが皆さんはこう思っているだろう。
『いやいや、 何で男爵に保険金が入るんだよ
幾ら何でも変だろう』と、 無論、 マーナガルム男爵は悪知恵が働く男。
当然ながら死んだ騎士から直接男爵、 という方法では無く。
騎士の身内、 と言う名目の男爵の部下が保険金を受け取り
部下を経由して男爵に金が入ると言う完璧なリスクヘッジも管理している。
尚、 デビットとルーが知らないことだが傷痍騎士手当※5
退役騎士恩給※6 もピンハネすると言う徹底ぶりである。
元々はチンピラの者が多いので搾取しても問題無いという理屈だろうか!?
何れにせよ正に骨までしゃぶる所業である!!
※5:大怪我を負った騎士に対して国が支払う見舞金の事。
※6:騎士団を退役した際に毎月支払われる恩給。
勤続年数と功績から恩給の額は変動し、 この恩給で生計を立てる元騎士も居る。
「真面目に仕事して強くなって良かったー」
「だな、 今の時代、 ちゃんと地力をつけなきゃならん」
ぎゃあ、 ぎゃああああああ、 と悲鳴が聞こえる。
「・・・・・」
「・・・見に行く?」
「いや、 良い、 逃げよう、 おい勘定は置いておく、 裏口使わせてくれ」
そう言ってデビットとルーは店の奥から裏口を通って逃げ出すのだった
「ぶっ殺してやる社会のゴミ共がああああああああああ!!」
聖剣を振り回してモーント・ズンディカーズの構成員を虐殺するカケル。
N5の悪評を彼は知り、 こうしてギャングを殲滅する事で実績を作ろうとしているのだ。
次々とモーント・ズンディカーズの構成員達は血煙に消えて行った。
「何と悍ましい・・・死にかけの男が虐殺するとは・・・」
物陰からテラーが眺めている。
「強い・・・しかし所詮は偽りの強さよ、 血を流していて顔が白い
死人が踊っている様だ」
テラーは眺める事にした、 狂人の相手なんてしたくもない。
武人としてのプライドもある、 しかしカケルが持っているのは聖剣。
放置する訳に行かない、 とは言え腕の失血から失血死するのは確実だろう。
死ぬまで待つか、 とテラーは腰を下ろして眺める事にしたのだった。




