コメディ・オブ・ディスカウント
テラーは息を切らしてN5を走り回っていた。
「無い、 無い無い無い!! 一体何処に行った!?」
無くした刀を探して走る回るも見つからない。
テラーはスラれた事に気が付いていないのだ。
当然地面を探し回っても見つからない。
「くっ・・・このままでは暴漢に襲われたら・・・死ぬ!!」
嘗ては刀無しでも素手で人間を撲殺する位の膂力は有ったが
流石に老体ではキツイ。
「しかたない・・・ひとまず急場を凌ごう」
テラーはN5唯一のディスカウントショップに向かった。
この店は騎士団の管理下に有り
N5で唯一武器の取引も行っている店である。
当然ながら武器の取引は騎士団関係者のみに限定される。
「さてとここがディスカウントショップか・・・とりあえず刀が有れば良いか・・・」
ウィーン※1。
※1:自動ドアの開閉の音。
自動ドアは紀元前100年には開発されていたらしい。
「いらっしゃいませー、 こんにちはー
いらっしゃいませー、 こんにちはー
いらっしゃいませー、 こんにちはー」
カウンターで店員が挨拶を何故か三回した。
「・・・・・刀は有るか?」
「あ、 丁度良い所に
先程査定が終わった刀が有って今から店頭に並べる所だったんですよぉー」
「ふむ、 それは興奮して来たな、 早速見せてくれ」
「こちらですねー」
ごろんと取り出したのは先程テラーがすられた二本の刀である。
「齧玄!? 零余子丸!?」
「この刀に名前が有るとは驚きですね」
「ワシの刀じゃ!!」
「盗難品だったのか・・・」
「持って帰るぞ!!」
二本の刀を取ろうとするテラーだったが店員に取り上げられる。
「おい!! それはワシの刀だ!!」
「すみません、 私は盗難品だと知らなかったので・・・
もう買い取ってしまったので買い直してください」
「貴様ッ!!」
「ごちゃごちゃうっせーぞジジイ!!」
奥から用心棒が現れた。
「あん? テラーの爺さんじゃねぇか」
「お知り合い?」
「あぁ、 騎士団所属の人だ」
「ならば話は早いな!! 刀は持って帰るぞ!!」
「待ちな、 この店は騎士団が管理してる店だ
この刀を買ってその分の利益を出さないと
後々面倒な事になる」
「盗難品を売って儲けるつもりか!!」
「俺達は善意の第三者※2 だ、 そんな事は知らん」
※2:法律上関わりのある当事者間に存在する特定の事情を知らない第三者。
つまり盗品の売買を行ったからと言って罪には問えないのだ。
「そもそも上納金を治める為なら盗品の売買をしても良いって騎士団から言われているからな
領収書を切って後から経費として計上すればいい」
「無理じゃ!! その刀は一体いくらすると思う!?」
「・・・1本100ユーロ?」
「否!! その刀は我が流派に代々伝わる名刀!!
10万ユーロは下らない代物じゃ!! そんな物が経費で落ちるか!!」
「な、 何ィ!? そんな凄い代物なのか!?」
「あー・・・すみませんが・・・うーん・・・」
困惑する店員。
「如何した?」
「その刀、 言う程高くないですよ」
「何ィ? どういう事だ?」
「昨今、 刀は日本から続々と輸入して来ているので値崩れを起こしているんですよ
更にKATANAも有りますから」
「ふん、 物の価値が分からん小僧じゃ、 これは本当に名刀だ
とは言え安く買えれば経費で落ちるだろうて、 幾らじゃ?」
「二本セットで100ユーロになります」
「「やっすいなおい!!」」
用心棒とハモるテラー。
「値崩れって・・・ちょっと値崩れし過ぎじゃない?
テラーの爺さんは落ちぶれたけどもスゲー流派の師範だったんだぞ?
その流派が受け継いだ名刀が100ユーロ?」
「安く買えるのは良いが・・・幾ら何でも安すぎるじゃろう」
「手入れを殆どしていない様で、 状態が悪く・・・」
「状態が悪い・・・」
テラーには心当たりが有った。
滅多に実戦を行わない為、 齧玄と零余子丸は普段は封印しているのだ。
本物の齧玄と零余子丸がすられたのは実戦後の話である。
まぁ今ここにあるのは安物の刀なので品質と状態が悪いのは当然である。
「そうか・・・だがワシにはこの刀しかない、 この刀、 買おう
騎士団所属だから割引とかは無いか?」
「無いです」
「そうか、 まぁ100ユーロ位・・・待て」
刀を手に取るテラー。
「お前・・・これ・・・お前ぇ!!」
「な、 何ですか急に」
「これ鞘が逆ぅ!! 鞘が違う刀に付けとる!!」
「あ・・・そ、 それは失礼しました」
「全く、 一体何処に目を付けとるんじゃ」
偽物とすり替わっている事に気が付かない節穴の目の癖に文句を言いながら
100ユーロを置いて刀を持って去って行くテラー。
「・・・・・あ、 御客さん、 ポイントカードは作りますか!?」
「要らん!!」




