ドリーム・イン・ザ・ボックス
シンゲツ・バロッグがまだ生きていた頃
ヴォイドがヘント大学※1 を飛び級で卒業し実家の邸に戻って来た。
※1:ベネルクス王国最高学府。
「お帰りなさい若」
後にブラック・シンゲツ・コーポレーションで警備員をする事になるコルがヴォイドを出迎えた。
「爺さん、 アンタまだ働いていたのか」
「まぁ体が動くまでは・・・」
「そうか、 それより父さんは?」
「客間に居ます、 ツゴモリの御嬢さん、 いや今は御当主様でしたかな
彼女の付き人と一緒に居ます」
「ミソカも居るのか!! 丁度良かった!!」
「帰宅の挨拶ですか?」
「それだけじゃない、 これだ」
二つの書類を拡げて見せるヴォイド。
【ヘント大学首席卒業生証書】と【税理士資格合格の報せの手紙】である。
「おぉー、 何だか凄いですね」
「歴代最年少首席卒業生だ、 税理士資格も一発合格だ」
「流石ですね」
「あぁ、 これでフェザーを超えたよ、 父さんにも顔向け出来る」
「あ、 フェザーですけども・・・」
コルが言い終わる前に走るヴォイド。
そして客間の前に立つ。
「やっとだ、 これで漸くフェザーよりも上に立てる・・・」
ヴォイドは客間のドアに手をかけた。
「ところで」
客間の中からツゴモリの声がする。
「ヴォイドもそろそろ卒業の季節じゃないですか?」
「確かにそうだな」
「・・・・・」
ツゴモリとバロッグが話をしている、 咄嗟に聞き耳を立てるヴォイド。
「ヘント大学を卒業とは・・・
これはブラック・シンゲツ・デュエルエージェンシーも世代交代も近いですかね」
「馬鹿を言うなよ、 世襲するのはこの家名だけだ
会社はフェザーに継がせる」
「大胆な人事ですね、 ヘント大学卒業ってだけでも将来的には
大企業家に慣れると思いますよ」
「そうでもない、 フェザーはS級決闘者になっている
ヘント大学とタメを貼れる所か、 既に追い越していると言って良い
そしてアキレスは亀に追い付けない※2」
※2:古代ギリシアの哲学者ゼノンの定義したゼノンのパラドックス
一般的にはアキレスと亀の事を言っている。
アキレスと亀とは、 アキレスが走っても亀はその分前に進むんだから
アキレスは追い付けないとする矛盾の事である。
「フェザーだってどんどん成長している
ヴォイドはそこまで上昇志向が無いから多分社長は無理だろう」
「そうですかねぇ、 ヴォイドは頭が良いですし
社長でもやっていけるんじゃないかと」
「いや、 アイツは正直に言うと人付き合いが苦手だから人の上に立つ器じゃない
やはりここは決闘者として経験豊富なフェザーが良いと思う」
そこまで聞いてヴォイドは走り出した。
幼い頃から父の傍に居たフェザーを妬んでいた。
フェザーよりも強くなる事は出来なかったが、 その分真面目に勉強をした。
勉強をしても意味が無かった自分よりフェザーを重んじていた
結局ヴォイドは大学を卒業してから放浪した。
何かやりたい事が有ったのか、 と聞かれれば分からないとしか言えないが
放浪の末に二人の決闘者と出会った
一人はフロッグ・タッドポラ
もう一人は
「!!」
ここまで夢を見てヴォイドは目覚めたのだった。
「お目覚めですか?」
ドォルオタが髑髏を撫でながら尋ねる。
「・・・・・」
ヴォイドは現在、 モーント・ズンディカーズに保護されている。
オークションの高額商品出品者は身の安全の為に
モーント・ズンディカーズの所有する一室に身を寄せる事が出来る。
ヨハンの気遣いの一つである。
「・・・せめてシャワーでも浴びさせてくれ
この部屋トイレしかないじゃないか」
「この部屋には水回りの工事が出来ない立地なので我慢して下さい」
「立地? そもそもここは何処だよ」
ヴォイドは目隠しをされて連れて来られたのでここが何処だかわからない。
「何で見張りと一緒なんだよ」
「私は護衛ですよ、 額が額ですから警戒はしておいて損は無いでしょう」
「どうだかな・・・・そもそも何だその骸骨は」
「息子です、 可愛い我が子です」
「息子か・・・下らん」
「そんな事言わないの、 貴方だって誰かの息子でしょう?
親子関係が悪いのかしら?」
「・・・・・」
顔をそむけるヴォイド。
「どうせ、 オークションが始まる迄ここから出られないんだし
お喋りしましょうよ」
「そうだな・・・・・俺は父親に愛されていなかったんだ
必死に頑張った、 ヘント大学の首席卒業生まで選ばれた
だが父親は俺の事を認めてくれなかった」
「そんなに頭良かったのか、 吃驚だわぁ」
「ほっとけ」
「でも親が子を愛さないなんて事は私には信じられないわ
私は今まで色んな親を見て来たけど、 私の子の父親以外の親は
みんな自分の子供に愛情をあげていたわ
そもそも父親が居なくても母親が居るでしょ」
「母さんはとっくに死んでいる」
「あ・・・・・」
気まずそうにするドォルオタ。
「・・・・・じゃ、 じゃあヴォイドさん」
「何だ?」
「私が貴方のママになります!!」
「・・・・・いや、 それは良い」
「遠慮しなくても・・・」




