イガリ・アンド・アリ・コンディション
一人が立った状態で相手が寝ている
または脚を相手につきだして座ったまま膠着している状態をさして
【猪木アリ状態】と呼ぶ。
書いてみるとこれだけの話だが異種格闘技をする場合
強調するとボクシングVSプロレスの場合
互いに立ち技寝技に持ち込みたいのでこの体勢のまま動かなくなるというケースが存在する。
こうなってしまうと超持久戦になってしまう
そうなると客としては見ごたえが無くなるつまらない試合になる。
過去にこの状態を最初に引き起こしてしまった二人のボクサーとレスラー
アリと猪狩はそれぞれ凄まじい力量を持っていた。
アリはアメリカのボクサーでその圧倒的なパンチの強さは
当時アメリカで猛威を振るっていた外来種である雀蜂の大群を一撃で壊滅させ
雀蜂によって制圧されていたノースカロライナ州の奪還に成功させた。
『蝶のように舞い、 蜂のように刺す』
誰が相手でも一切のガードをしなかったと言われればその実力の程は分かるだろう。
猪狩は日本のレスラーであり日本トップクラスのレスラーである。
時の権力者に召し抱えられずに新団体を設立する等精力的に活動して来た。
その団体が潰される事もあったがそれでもくじけなかった。
『いつ何時、誰の挑戦でも受ける』『プロレスこそ最強の格闘技』
と標榜する彼の『ストロングスタイル』はまさに最強。
無敗、 とまでは行かなかったが彼の姿勢からは常に名勝負が生まれていた。
そんなビックスター二人の世紀の対決。
盛り上がらない筈は無い、 試合開始前から会場は所か日本は大盛り上がりで有った。
その熱気は日本観測史上最高温度を記録し、 田畑は焼滅し
税金の取り立てを一時止める騒ぎになった。
開催が真冬だった為にこの程度で済んだが真夏だった場合
日本を中心としたアジア一帯は地球上から消滅していただろう。
またこの熱波によりリングに火が点き火事になった板橋事件が発生したのだが
それは別の話。
さて本題の【猪木アリ状態】だが
先程の二人の対決により会場は一気に盛り上がった。
アリは前々から莫大なファイトマネーを用意し
『自分に勝ったらファイトマネーを払う』と公言していた。
それに猪狩が受けて立った形である。
だがしかし蓋を開ければ座る猪狩にアリが『起きてこい!!』と叫ぶだけと言う
世紀の糞試合だった。
つまらない試合を見せられた観客の怒りは最高潮に達し暴動が発生。
勝負会場だった江戸は時の将軍が逃走する事になるも殺されかける。
後にこの惨状はアリ側がファイトマネーを出し渋りから
アリ側に有利なルールの元に行われていたという事が発覚。
猪狩とアリは元々アリが提示していたファイトマネーの数倍の金を出し合い
若しくは借金をしてこの暴動で起こった損害の補填にしたのだった。
これ以降【猪木アリ状態】は全格闘技から忌避される事になり
格闘技の試合に置いては【猪木アリ状態】が起こらない様にルールの徹底。
もしも【猪木アリ状態】が起こってしまった場合
厳しいペナルティが課せられる。
一番厳しい判例では関係者一同と関係者の2等親※1 まで処刑された。
※1:親兄弟と子供。
「【猪木アリ状態】は恥ずべき行為だ、 殺されても文句は家ねぇ
だがこれは格闘技の試合じゃねぇ、 決闘だ
そしてこれは不慮の事故により渋々こうなっている
全ての責任はお前にある」
スペルエストレージャは見上げながらサリバンに言い放った。
「上等だ、 カス、 こりゃあもう殺されても文句は言えねぇぞ」
「言わないよ、 寧ろ【猪木アリ状態】と言う格闘技至上最悪の状態を
打破できるなら命を賭ける価値はある」
「ふん・・・まぁ殺したら負けだから殺しはしねぇよ
ただ・・・」
ボクシンググローブを外すサリバン。
抜き身の拳が解き放たれる。
「再起不能にはなって貰うぞ」
「上等だ、 来い」
殴りかかるサリバン。
回避し組み技に持ち込むスペルエストレージャ。
組まれながらもスペルエストレージャに短くパンチを撃つ。
当然威力は半減以下にまで下がるが素手のサリバンの拳は1割以下の力でも
当たれば重傷である。
「ぎっ!」
スペルエストレージャの頭に拳が入る。
だがスペルエストレージャはホールドを止めない、 寧ろ強める。
「ぐぐぐぐぐ・・・」
サリバンの体がみしみしと嫌な音が立ち始める。
「くたばれえええええええええええええええええ!!!!!」
「てめぇがくたばれええええええええええええええええ!!!!!」
尚も殴り、 締め合いが続いたがバキッ、 と骨が折れる音がした。
「あ・・・」
「・・・ヴァカ野郎・・・」
スペルエストレージャが力を入れ過ぎて自らの骨を折ってしまったのだった。
流石にこの状況では力を籠められずスペルエストレージャはホールドを放し
サリバンに殴り飛ばされるのだった。
画してこの凡戦は終わった。




