ノー・クリアニング・ノー・ウィナー
再誕歴7701年ジュニアリー10日。
マーナガルム男爵領トコトン。
この街はマーナガルム男爵領のみならず各領にも運送を行う
運送業者の街である、 乗合馬車のターミナルの様な事もしているので
マーナガルム男爵領に来る時はこの街を経由する事が多い。
「ここで乗り換えか・・・」
マモルが馬車から出て来た。
彼はカケルを追う為にこの街にやって来た。
カケルが一時滞在していたらしい。
「マモル様!」
EHUCの諜報員がやって来た。
「良く来てくれました!!」
「い、 いえ、 それよりも・・・」
涙を流す諜報員。
「まさか・・・カケルがやらかしたのですか!?」
「・・・・・イヤトゥーハ様が・・・」
「!!」
EHUCの出張所に向かうマモル。
出張所の中は荒らされておりそこには金の刺繍が入った遺体袋※1 が鎮座していた。
※1:EHUCでは遺体袋は二種類に分けられている。
通常の黒い袋と金の刺繍が入った袋である、 金の刺繍は勇者の遺体用である。
「馬鹿な・・・イヤトゥーハさんが・・・」
「来たか、 マモル坊」
ソファに座っていたのは勇者マーン。
太り過ぎてでぶ妖精※2 の様な体型になっている中年女性である。
※2:丸い胴体に(´ω`)の様な間の抜けた顔と棒の様な手足を持つ妖精を自称する何か。
斬られても分裂したりと大体の事では死なない頑丈さから
別の世界からやって来たという説も大真面目に称されている謎の存在。
「マーンさん・・・イヤトゥーハさんは・・・」
「一足遅かったよ、 残念だ」
「そんな・・・一体何が・・・」
「・・・説明してやりな」
「はい・・・」
諜報員が説明を始めた。
再誕歴7701年ジュニアリー6日。
その日もEHUC出張所では職員達は何時も通り働いていた。
「わいわい運輸さんの所を辞めて一般就労になるんですか」
「えぇ・・・」
所長のシュガーは社会復帰を目指す魔族ラザニルと話をしていた。
EHUCは反社会的魔族を討伐するのが仕事だが
魔族の就労支援等の社会参加も行っている。
今だに魔族に対する偏見の根は深いのだ。
「マーナガルム男爵領に越してきて勤めて12年でしたっけ?」
「えぇ、 マーナガルム男爵は黒い噂が有るので最初は不安でしたが
何とかやっていけてます」
「そうですね、 マーナガルム男爵は魔族に対する偏見どころか
魔族の身体能力を活かして積極的に雇用している風に見受けられます」
「えぇ、 この度一般就労が出来て生活も楽になります」
「えぇ、 これからも頑張って下さい
念の為、 半年に一度様子を見に行きます」
「今後ともよろしくお願いします」
バァン!! と出張所のドアが乱暴に蹴破られた。
「・・・・・」
剣を肩に担いだ金髪の勇者カケルが現れた。
「騎士団呼んで!!」
「はい!!」
「勇者だよ!!!!!」
職員の叫びに叫びで返す勇者カケル。
「・・・証明出来る物は有りますか?」
舌打ちをしながら身分証明書を見せるカケル。
「・・・確かに、 何故ドアを蹴破ったのですか?」
「あぁ!!!?」
「ドアには鍵がかかっていません」
「・・・・・・・・・・」
急に黙るカケル。
「あの、 如何しました?」
「いや、 とりあえずここで一番偉い奴を連れて来い」
「はいシュガーさーん」
「今行くわ、 じゃあラザニルさん、 今日はこの辺で
勇者殿が興奮している様だし、 裏口からお帰り下さい」
「は、 はい」
立ち上がるシュガーとラザニル。
そしてシュガーはカケルの元へ、 ラザニルは裏口へ向かった。
「どうも初めまして所長のシュガーです、 何の御用でしょうか」
「カケルだ」
手を差し出すカケル。
「・・・・・?」
「握手だよ握手!! これだから異世界人は!!」
「あぁ・・・」
握手をするカケルとシュガー。
そして手を放す。
「それで本日は何の御用でしょうか」
「動かせる兵隊はどれ位居る?」
「・・・・・ここは出張所ですので勇者殿の支援や
魔族の方の社会参加支援等しか行っていません、 兵力は無いです」
「魔族の社会参加!!!? かっー!!!! 馬鹿じゃねぇの!?
何でそんな事する!!!? まずはネルよりもまずはそいつ等だな!!!!!
ここで支援している魔族共のリストを出せ!!!! 皆殺しにしてくる!!!!」
「・・・・・貴方は何を言っているんですか?」
カケルの言葉に本気で困惑しているシュガー。
「魔族を殺すのが勇者だろうが!!!!!」
「気でも触れましたか? 一旦落ち着いて下さい」
「黙れ!!!!!」
シュガーを殴るカケル。
「何するんですか!!」
カケルを取り押さえようとする職員達。
「来るんじゃねぇ!!」
聖剣を抜いて振り回すカケル。
「うわ!! あぶねぇ!!」
「騎士団呼べ!!」
「逃げろ!! 逃げろ!!」
職員達は全員逃げて出張所の外に出た。
「何なんだあの人!?」
「ヤバい人だとは聞いていたがここまでとは!!」
「騎士団はまだか!?」
「・・・・・奴が来たのか」
職員達の背後からやって来た長身の男。
彼は勇者イヤトゥーハ。
歴戦の強者であり、 数々の武功を上げ信頼の厚い男である。
「イヤトゥーハ様!! 何故ここに!?」
「マーンとグルメ旅をしてたら携帯用通信モノリス※3 に
カケルが聖剣を持ち出して逃げたって報せが届いてな
最悪殺してでも取り返さないとならない」
※3:携帯出来る位小さいモノリス。
通信用モノリスの意識を飛ばして話す様な会話では無く
文字での通話のみ可能と言う代物。
「え、 えぇ・・・マーン様とご一緒だったのですか?
マーン様は何方に?」
「アイツはカケルが乗合馬車に乗っていないかの確認の為に
馬車駅に問い合わせに行っている
俺も一応通達しようと思ってここに来たのだが・・・中に外に人は?」
「え、 いえ、 誰も居ません」
「なら下がってろ」
「は・・・はい」
イヤトゥーハは隠し持っていた薙刀を取り出して出張所の扉の横に立つ。
そしてカケルが出ると同時に薙刀を突き出す。
「ぎっ!!!?」
カケルは右手を薙刀で突かれ落とされる。
カケルは咄嗟に出張所に戻る。
「クリアリング※4 はしろと何時も言っているだろう愚か者が!!」
※4:奇襲を防ぐために敵がいそうな場所を確認をすること。
イヤトゥーハは叫ぶ。
「武器を捨て投降しろ!! お前では俺には勝てん!!」
「ざっけんな馬鹿野郎!!!!! 何時も何時も偉そうに説教して来て何様のつもりだ!!!!!」
「お前こそ何様のつもりだ!! 何時も人様に迷惑かけやがって!!
同期のマモルは魔王を倒せる位になっているっていうのに
お前は人様のタンスを勝手に漁って俺達がどれだけ迷惑してると思っている!!
「勇者ってそういうもんだろうがあああああああああああああああああああ!!!!!」
叫ぶカケル。
しかし飛び出る気配がない。
「・・・・・ここ裏口は?」
「あります」
「っち」
中に入るイヤトゥーハだった。




