トゥー・キャリッジ
再誕歴7703年ディセンバー31日。
フランスの決闘代行業【ライトニング】の馬車はルーマニアの国境を越えた。
『むぅ・・・これは不味いんじゃないのか?』
アイゼンクォーポが重苦しい口調で言う。
「何が不味いんだ?」
『ご婦人、 我々はここまで敵の襲撃を受けていない、 つまり考えられるパターンは3つ
①先の襲撃で戦力を使い果たしてしまった
②ルーマニアのVHOで大勢待ち構えている
③タルパを作った術者がやられてしまった』
「①と③は無い、 あれほど莫大な数のタルパを作り出せたんだ
練度も相当な筈だ、 そんな人間がペース配分をミスするなんて愚行を犯すとは思えない
よって①は無い、 本体は厳重にガードしているだろうから③も無い
即ち・・・」
『やはり大勢で待ち構えている、 と言う事か・・・アッポー殿、 タルパはお任せします』
「アンタも頑張るんだよ」
『それは勿論そうだが・・・』
ガッ、 と馬車のドアが開いた。
「何者!?」
「社長!!」
『・・・・・見た顔だな』
「・・・・・」
ドアの外から入って来たのは
【ベネルクス・ゴールド・ライオン】社内序列2位のカタパルト・ベネングウェイ。
血塗れになっており、 右手がひしゃげていた。
どさり、 と倒れるカタパルト。
「お、 おいおい、 誰だよコイツ」
『ベネルクスの老舗決闘代行業の【ベネルクス・ゴールド・ライオン】S級決闘者
カタパルト・ベネングウェ・・・なんだっけ』
「イだよ、 何で一文字だけ忘れるんだ」
カタパルトはくるりとアイゼンクォーポに振り返って言う。
「アンタ等・・・如何やら決闘者か・・・ルーマニア関係か?」
「そうよ、 私はフランスの決闘代行業【ライトニング】社長のマリー
アンタも決闘者みたいね、 何処かの村に置いて行くわ」
「いや、 俺もVHOに連れてってくれ」
「その傷じゃあ無理よ」
「・・・・・」
カタパルトは仰向けになって胸を開く。
胸の中心に大きな傷跡が有った。
「舐めんな、 もっとデカイ怪我でも俺は戦えた」
『カタパルト、 君の戦い方は知っている
投擲を極めた戦い方だ、 物を投げると言う事に特化したスタイル
君の黄金の右手の噂は遠くドイツにも響いていた
だが今の君の右手では・・・・・』
「ふん、 右手ね、 偽造だよ、 俺は投擲が上手いと思わせている
実際はこれだ」
カタパルトはコインを取り出して弾く。
カタパルトの体の上に落ちる、 と見せかけて弾かれた。
『斥力※1 か!!』
※1:弾く力、 引力の逆。
「そうだ、 この力で投擲を偽装していたって訳だ」
『なるほど、 地面を斥力で押して自らを高速移動させてこの馬車に捕まった
と言う事か』
「そう言う事だ、 今はちょっと疲れているが役に立てるつもりだ」
『・・・御婦人、 如何する? 連れていくか?』
「連れて行くわ、 さっきアイゼンさんが『アイゼンクォーポな』
アイゼンクォーポさんが言った様に向こうで
敵さんが大挙して待ち構えている可能性もあるわ
戦力は大いに越した事はない」
「すまないな・・・着いたら起こしてくれ」
と言うなりいびきをかいて寝始めるカタパルト。
「マジかよ、 寝やがったぞ」
「肝が太すぎる、 フォアグラ※2 か?」
※2:世界三大珍味として有名な食材の一つ。
ガチョウやアヒルに莫大な量の餌を与えることにより肝臓を肥えさせて作る。
フランスではクリスマスや祝い事の伝統料理およびご馳走として食される。
その旨さは嘗て起こったフランス革命時に王党派だったガチョウ農家が
革命政府にフォアグラを献上した結果、 命を長らえたほどである。
『いや!!! この図太さは学ばねばならん!!!!! 確かに警戒は必須だろうが
休息をとって万全の状態にしなければならん!!!!! 我々も寝よう!!!!!』
「いや、 寝ないよ」
『じゃあ私だけ寝よう!!!!! 見習い!!!!! 何か有ったら頼むぞ!!!!! ( ˘ω˘)スヤァ!!!!!』
そういって背もたれに寄り掛かるアイゼンクォーポ。
「・・・え? 寝た?」
「マジで? あのテンションから眠れるの?」
驚くアッポーとペン。
「・・・寝る、 とはいかずとも休息は取りなよ2人共」
「あ、 はい」
「分かりました」
こうして【ライトニング】の馬車は様々な思惑と人々を連れて走って行った。
一方その頃、 【ブラック・シンゲツ・コーポレーション】の馬車もルーマニアに入った。
馬車の中はネヨーとビースト、 そしてマカロニだけだった。
「生き残りはこれだけか・・・」
ネヨーが重苦しく
「ダゴンは死んでねェ、 倒れているだけだ、 死体が見つかってねぇ連中も
生きているかもしれねぇだろうが」
ビーストが訂正する。
「何れにせよ、 戦力はこれだけだ、 2人共覚悟は?」
「問題無い」
「やったろうじゃねぇか!! 俺達に喧嘩売った事を思い知らせてやる!!」
こうして3人はルーマニアに入った。




