アサルト・デュエル
再誕歴7703年ディセンバー29日。
サン伯爵令嬢領の邸にて
悲痛な面持ちのベネルクス95世、 リヒャルトがやって来たのだった。
「また、 揉め事ですが」
流石にそろそろ年越しなのに何で来たと憤るサン。
「年の瀬で本当に申し訳無いが今回はヨーロッパ連合全体での事だ
私でも如何にも出来ない」
「如何にも出来ない? となるとリヒャルト議長が?」
「・・・・・サン伯爵令嬢、 私が用が有るのはフェザー君なんだ
君まで知ると問題がある」
「問題?」
「巻き込ませたくないんだ」
リヒャルトの口調も真面目になっている。
「彼だけを死地に追いやる訳には行きません」
「何の為に彼が剣を握っている? 貴女を守る為でしょう」
「!!」
リヒャルトの言葉に目を見開くサン。
そうだ、 彼は・・・
「と、 なると思うでしょうが生憎初めて会った人間に絆される程
甘い女じゃないですよ」
「情報ではフェザーとは初対面から関係が有ったらしいが・・・」
「彼は街を救ったのだから当然ですよ」
「・・・・・しょうがないですね、 ベネルクス95世陛下、 構いませんね」
「本人が良いというのならば・・・」
「分かりました、 実はVHO本部を武装グループが占拠
彼等はVHOの身柄を賭けての決闘を要求しています」
「テロリストが身柄を賭けての決闘・・・無くは無いのでは?※1」
※1:武装勢力が決闘を要求して要望を叶えるという事は多々起こって居る。
但し、 |ヨーロッパ連合決闘責任者組織《EUDMO》が妥当性を認められない限り
ただの妄言として処理される。
「だけどEUDMOが認めるんですか? 流石に難しいのでは?」
「いや、 そうじゃない、 現在EUDMOは機能停止している」
「「!?」」
現実世界で言えば裁判所が機能しなくなったというレベルの話である。
「何故!?」
「通信モノリスの不調による混乱だ
先日、 ヨーロッパ連合を中心に通信モノリスが一斉に不調になるという事件が起きた
原因は調査中だが・・・この通信不調によりEUDMOは一時的に機能停止となった」
「それは・・・アリなんですか? ヤバイでしょう?
もっと救援を要請するなりして一時的にも各国のバックアップを入れて
何とか体裁を整えた方が良いのでは?」
「EUDMOは国とは関係無い組織でなければならない
決闘に対し国の思惑は入ってはならない
EUDMOの基本原則をS級決闘者の君が知らんわけでは無いだろう」
「ですが・・・この場合、 決闘を行う事は出来るのですか?」
「EUDMOが結果の確定を行ってくれたが今回はそうも言ってられない
VHOは色々黒い噂もある組織、 昨今の活動家排斥運動にかこつけて
無視する、 と言う事も可能なのだが・・・問題は相手側が勝った時の要求だ」
「要求? 何を要求して来たんですか?」
「・・・・・此方が確保しているエメラルドタブレットだ」
「「!!?」」
驚愕するサンとフェザー。
「ど、 どういう事ですか!?」
「分からない、 分からないが・・・」
様々な新聞を見せるリヒャルト。
そこにはエメラルドタブレットの事が詳細に書かれていた。
「各国の新聞だ、 何処かの口の軽い奴等がエメラルドタブレットの事をリークして
それを報道し始めた!! これで世界中がエメラルドタブレットの事を知ってしまった!!」
リヒャルトは机を叩く。
「連中はエメラルドタブレットを確保しているとも言っている!!
このまま見過ごす訳には行かない!!
何としても連中を捕縛してエメラルドタブレットを回収しなければならない!!」
「・・・・・リヒャルト議長、 この公爵門閥で起こった出来事は御存じですか?」
「陛下から伺った、 前衛芸術なオブジェの如くに殺された死体・・・
恐らくは彼等の仕業なんだろう」
※2:フランス語で前衛部隊を指す語であり
芸術の文脈においては革新的な試みや実験的な試みと称される物
「あんな事が出来るとは・・・私では自信が有りません・・・
そもそもアレが人間に出来るとは思えません」
「出来ますよ」
リヒャルトは断言した。
「・・・・・リヒャルト議長、 幾ら何でもそれはあり得ないでしょう」
ベネルクス95世が断言する。
「陛下はウィルパワーについての見識がおありで?」
「勿論、 教養の範囲内です、 教養の範囲内ですし
我が国最高の決闘者が不可能と言っているのに出来るとは思えません」
「決闘者には不可能ですね」
「・・・・・決闘者には? それは如何言う事ですか?」
フェザーが尋ねた。
「いえ、 事は単純な話です
ヘルヴェティア共和国ではウィルパワーを束ねて大勢が組み合わさる事で
巨人の様な戦闘形態をとる事が可能です※3」
※3:チャプター6:ぺドルズ・クライミング・ゼアー・シェア、 スパム・ヒューマンを参照。
「・・・要するに大勢の人間がウィルパワーを束ねて一つの能力を発現させた、 と?」
「大勢でやれば出来ない事では無いかと・・・」
「・・・・・」
確かに基本一人の決闘者では出ない発想だ、 と思うフェザーだった。




