ディザスター・ミーツ・ケノン
再誕歴7703年ディセンバー10日。
ルーマニア、 VHO本部。
VHOはガーリックの信奉者達が吸血鬼の脅威を信じ
吸血鬼を駆逐する為に作られた機関が原型になっている。
だが今は吸血鬼の名を借り恐怖を煽り
吸血鬼を真に受けた連中から金を騙し取っている団体に成り下がっている。
そのVHO本部の本部長室で会談が行われていた。
「足りん」
ダブルプラスディザスターは不満気にVHO本部長ブラムに端的にそう伝えた。
ダブルプラスディザスターは不遜な態度でソファーに座り机に脚を乗せている。
周囲にはブラムの護衛が数人待機しており、 向かい側にはブラムが座っていた。
「これが出せる限度でして・・・」
「10億フランとは私達を舐めてくれる」
「妥当な金額だと思いますか・・・」
「エメラルド・タブレットって言うのは
全部集めて解読すると無限のエーテルを操作できるんだろう?
それならばもっと出すべきじゃないか?」
「6つ集めなければ唯の板ですよ」
「6つ集める必要が有るからこそ値を上げてるんだ」
「足元を見ているのですか、 しかしディザスターさん」
「ダブルプラスディザスター、 ベネルクス王国を王国と略すか?」
「それは失礼、 ですが貴女は私達の足元を見る前に回りを見るべきでは?」
「うん?」
護衛達が武器を取り出していた。
銃や槍、 中には聖剣を持って居る者すらいる。
「ふん、 お前はヴァカか? 神代の時代から生きて来た武人相手に
この程度の手勢で如何にかなると?」
「申し訳ありませんが、 此方も後には引けないのです・・・」
「あ、 そ」
ふぅ、 と軽く溜息を吐くダブルプラスディザスター。
「じゃあ始めるか」
「それは困りますね」
ガチャとドアが開く、 そこに居たのは栗色のショートカットの女性だった。
「・・・・・」
温度が下がった。
それ位、 濃い殺気を放つダブルプラスディザスター。
「怖いですね、 落ち着いて下さいよ
私はただ、 手駒を失いたくないだけですから」
「手駒? アンタ何者?」
「この詐欺師共のスポンサーの一人ですよ
30億フラン出します」
「!?」
ブラムが目を見開く。
「30億? それならばうれしい事この上ないが
一体何処にそんな金が有る?」
パンパンと女が手を叩くと女の手下が大きな金貨袋を持って来た。
そして中身をぶちまけた
「・・・・・マジか」
大量の金貨、 30億は充分にある。
「何処からこんな金を?」
「モーント・ズンディカーズの隠し財産の一部だ」
「・・・アンタ、 モーント・ズンディカーズの奴か?」
殺気が強まる。
「おいおい止してくれ、 モーント・ズンディカーズはもう壊滅したんだ
この金はモーント・ズンディカーズのどさくさに紛れて奪ったものだ」
「・・・・・良いだろう、 売ってやる、 金を袋に入れて
私の馬車に乗せろ」
「あぁ、 分かった」
部下達に指示して金を運ばせ、 エメラルド・タブレットを手に入れるのだった。
「お前、 名前は?」
「トリチェリです、 ダブルプラスディザスターさん
出来れば貴女方の組織にも助力を頂けると嬉しいのですが・・・」
「お断りだ、 当座の金は手に入ったし、 何よりお前はヤバそうだ」
女はにこり、 と笑ってダブルプラスディザスターを見送った。
「・・・良いんですか無呼吸さん、 あんなに大金使って」
ブラムが女に尋ねる、 女の正体はモーント・ズンディカーズの患者、無呼吸。
モーント・ズンディカーズ崩壊後、 構成員を束ねて資材や金をかき集め
実質的な後継に座った女だ。
「心配要らない、 無限のエーテルに比べればこの程度必要経費だ
「しかし」
「問題提起するなら私の金遣いよりも君の人遣いの方が問題だ」
「人遣い?」
「彼等はA級決闘者クラスの精鋭だ
表社会を歩けないのにこれ程の実力者はとても珍しい
そうやすやすと使ってくれるな」
「いや、 これ程の実力者なら「勝てないよダブルプラスディザスターには」
断言する無呼吸。
「絶対に勝てない」
「・・・そこまでの強いんですか」
「まさに嵐だよ
しかしこれで集まったエメラルド・タブレットが4つ
1つは場所が分かっているが残り1つは何処か分からない・・・・」
「一体誰が隠し持ってるんでしょうか?」
「私はアルベドだと思う」
「アルベド? 件の民間刑務所の?」
「そう、 私の調査ではモーント・ズンディカーズとアルベドに協力している
ツゴモリ・コングロマリットとジュウサンヤ・ブラックスミス・ギルドとは
過去に付き合いが有ったらしい」
「あの大企業と付き合いが有るとは・・・これはビックニュースでは?」
「過去と言っても数千年単位の昔よ、 そんな大昔の事をとやかく言えないわ
しかし法では何も言えなくても心情的にはそうも言ってられない
二つの企業に不義理を働いての別れだったから連中は根に持って居るかも」
「数千年前の事を恨んでいると? それは荒唐無稽では?」
「君達だって数千年物の組織じゃないか」




