オン・トップ・オブ・ザ・トゥライアンファル・アーチ
再誕歴7703年ディセンバー7日。
ヨーロッパ連合本部脇サンカントネール公園、 凱旋門上。
「歴代のリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーも草葉の陰で泣いている※1 だろう
私だって泣きたいくらいだ」
※1:草の下=土の中ということから、 墓の下・あの世・黄泉の国を指している。
この世の人の非行・非運を悲しんで、 あの世で故人が泣いているという事である。
ヨーロッパで使う場合は地面の下は地獄行と言う意味合いなので
あまり良い故人には使われない。
そう真顔で喋るリヒャルト。
凱旋門のふちで一人の男が立っていた。
彼はトマン、 リヒャルトからヨーロッパ連合が保管する貴重品の管理を任されていた。
「こちらが回収していたエメラルドタブレットを売り払っていたとはね
二つの意味でヴァカだ、 1つ、 大金を手に入れたから一気に使えば調査されるに決まっている
2つ、 こんな事したら殺されるに決まっているだろう
ヨーロッパ連合で働くなら学歴はある程度有ると思っていたのだが
替え玉受験でもしていたのか?」
「~っ!!! ~っ!!!」
彼は喋れない、 彼は亀甲縛り※2 をされてポールギャグ※3 を口に噛まされている。
まともに動く事も出来ないのに落ちたら確実に死ぬ高さの凱旋門のふちに立たされているのだ。
※2:相手を縄で拘束する手段その物である。
※3:えぐりだしたトマンの右目。
「しかしながら横領した動機が『女にモテたかった』とはねぇ
そんな事で命を賭捨てられるとは驚いたよ、 最近の若い奴は皆そうなの?」
近くのSPに尋ねるリヒャルト。
SPは首を横に振る。
「だよな!! 普通はそんな事しないよ!!
男気を見せる為に滝壺に飛び込む方が確実な死が無いだけ賢いよ
普通の男だったら『家買って―』っておねだりする女はスルーするよ
家買ってとかおねだりの相場も知らんヴァカ女なんて
構うだけ無駄だろう?」
「~っ!!! ~っ!!!」
トマンがもがく。
「最後に何か言いたいか?」
「~っ!!! ~っ!!! ~っ!!! ~っ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・落とせ」
SPの一人がトマンの背中を押す。
トマンが凱旋門から墜落する、 彼に家を強請った女が地上で
或は天上で、 多分地獄で待ち構えている。
彼女の最後の言葉がリフレインする。
『私は何も知らなかった!! その男が勝手にやった!!』
ヴァカな事をした男は地面に激突した。
そして彼は天上に、 多分地獄に向かうのだった。
「・・・・・本当にただの金目当てなのか
てっきり何処かのスパイで助けが来るかと思っていたが・・・」
溜息を吐くリヒャルト。
「まぁこんな奴をスパイにする訳は無いか」
「お言葉ですがリヒャルト議長、 なぜそこまで気にするのですか?」
SPの1人が尋ねた。
「既にエメラルド・タブレットの複写は手に入れた筈です
原本のエメラルドの板を手に入れて、 失ったのは確かに問題ですが
そこまで気にする必要は無いかと思います」
「どういう事だ?」
「複写があれば書き写せば良いのだから原本の優位性は無いと」
「そうではない、 そうでは無いんだ・・・」
リヒャルトは溜息を吐いた。
「現在、 様々な手段でエメラルド・タブレットの解読は行われている
しかし一行に解読は進まない」
「はぁ・・・」
「・・・・・SPの君に行っても仕方ない話だが
ヨーロッパ連合の暗号解読技術は文字通りヨーロッパ№1の技術なんだ
ヨーロッパ№1と言う事は事実上世界一だ」
「イメージしずらいですが・・・」
「暗号解読は戦争には必須だ、 暗号によって情報がやりとりされているんだから
暗号を解読すれば戦争に有利に立てる
スペインやイギリスともやり合う為には必須だ
そんな世界最高の暗号解読チームですら解読出来ない文章だ」
「それは・・・凄いですね」
「凄さが分かっていない様だな、 何れにせよ遥か昔の暗号技術で書かれた物が
現在の暗号解読技術で解読出来ない筈はない
恐らく原本じゃないと解読出来ないか、 入れ墨として手に入れた文章が偽物だったか
何方かでしかない、 だから原本は絶対に必要だ」
「なるほど・・・」
げんなりするリヒャルト。
「たるんでいるな、 下手をすれば無限のエーテルエネルギーの制御方法を
何処の誰かが手に入れるかもしれないって言うのに
無限のエーテル有ったら世界征服どころか
世界を打っ壊す事も可能だぞ・・・・・いや」
顔をはたいて自分に気合いを入れるリヒャルト。
「身内だからと信用していた私もたるんでいたな・・・引き締めなければ・・・」
「議長、 そろそろ我々も移動しないと」
「そうだな、 落ちて行った二人の処理も夜が明けるまでには済ませろよ」
「分かりました」
リヒャルト達は去って行った。
「ところでエメラルド・タブレット追跡には誰を向かわせます?」
「・・・・・それはこちらでやっておくからお前は気にしなくて良い」




