忘却①
モーント・ズンディカーズの組織体系は単純である。
まず首領の医者。
その下に最高幹部職員と重篤患者。
職員は事務等の裏方。
重篤患者は最高幹部戦闘員である。
更にその下に幹部戦闘員の患者が居るのである。
患者は元から強い者は殆ど居らず
大半は医者による投薬により強化された者達である。
普通ならば鍛錬の果てに得られる様々なウィルパワーの運用法を
一瞬にして習得出来るのだ。
その中には個人領域を使える者達も居る。
忘却は患者の中でも恐れられており
医者からも危険視されヨーロッパ外に追いやられる逸材である。
「クソがッ!!」
隠れながら悪態を吐く忘却。
こんなに大声で悪態を吐いては隠れている意味が無い様に思われるが
彼女はウィルパワーを用いる事で自身の情報の記憶を消す事が出来る。
即ち、 彼女を見た記憶を失い続ける事で彼女を認識する事が出来ない。
彼女の声を聴いた記憶をを失い続ける事で彼女を認識する事が出来ない。
要するに彼女を認識出来る訳が無いのである。
「・・・・・」
忘却はちらりと物陰からフェザーを見る。
フェザーは動かない。
忘却を認識や警戒をしていなければ動いている筈である。
「・・・・・」
歯軋りをする忘却。
「近づければ・・・ッ!!」
忘却の真骨頂。
忘却が人間に触る事でその人間の記憶を全て消す事が出来る。
こうなってしまえば死んだも同然である。
彼女自身の戦闘能力はどれだけ甘く見積もってもB級決闘者を超える事は無い。
記憶を消して狼狽えている隙にナイフで一刺し。
人間を殺すのに伝説の聖剣や妖刀、 魔剣の類なんて要らない。
ナイフで刺されたら人は死ぬ。
「クソッ!!」
先程から全く進展しない。
このままでは千日手である。
「どうすりゃあ良いんだ!!」
焦る忘却。
しかしながらこの状況、 よくよく考えればそこまで悪い状況ではない。
ジョンとグレゴリオ、 フェザーの二組を分断できている。
この機に乗じて各個撃破が可能になっている。
そもそもフェザーを足止めするなんて事は大殊勲である。
S級決闘者の歩みを止めるのは竜巻を止める事以上に難しいのだ。




