台所にて③
2対1上等と挑発した脚無しだが・・・
(明らかにヤバイ隊列だ・・・)
グレゴリオとジョンが前後一列に並んでいる。
この戦術は一度見た事が有る戦術である。
まず前列が相手に食いかかり、 応戦している相手毎前列を後列がぶった切る戦法。
トチ狂っていると言わざるを得ない、 何より
(全然相談しねぇ・・・)
読者諸賢は『じゃあお前、 アイツの足止めをしろ、 お前ごと真っ二つに斬る』
と言われれば如何するだろう? 普通ならば拒否するだろうが
グレゴリオは何の打ち合わせも無しに了承した。
(さっきの相打ち狙いと言い、 こいつ等は頭がイってるのか?)
脚無しが疑問に思うのは無理もない
しかしながらイっている訳では無い。
グレゴリオは元々スペイン帝国の奴隷としてフィリピンから船で運ばれていた。
劣悪な環境の中、 次々と死没していく仲間達。
そんな折にスペイン帝国と敵対しているヨーロッパ連合の船と交戦し船は沈没。
その後仲間と共に救助されたのだった。
しかしながら仲間がフィリピンに戻るには莫大な金がかかる。
現実的に考えればベネルクス王国に帰化するのが賢いが伝手が無かった。
だがグレゴリオは武術の達人であり異国の武術に興味が有ったセルデン侯爵に
仲間と共に引き取られるであった。
そして幸運な事にグレゴリオの腕前を見込み
ジョンは側近としてグレゴリオを徴用するのだった。
アジア人への偏見は強い中での側近としての徴用は反発を呼び
グレゴリオ自身も不思議に思い ジョンに問うた。
『何故、 私を側近に選んだのか?』
ジョンは答えた。
『戦場に出る私の側近には強さが求められる
故に一番強いお前が側近なのは当然だろう』
シンプルな答えである。
グレゴリオは彼の信頼に応える為に命を張るだろう。
そしてジョンも命を張る。
セルデン侯爵家なハウバリン公爵門閥最強と謳われているが
その裏で大勢の死者を出している。
多くの死者を出している家系ならば
逆説的に自らも死を覚悟しなければならないのは道理である。
死した者達に面目が立たない。
死して当然、 セルデン侯爵家の長子なればそれは常識。
「・・・・・」
二人に気圧される脚無し。
絶体絶命の状況である。
しかしながら脚無しはここに来るまで数多の修羅場を潜り抜けていた
絶体絶命を乗り越えてこそだ!!
「・・・行くぞ!!」
脚無しは義足にウィルパワーを漲らせ突撃する。




