対談
再誕歴7703年ジュラィ18日。
ベルモンド伯爵領の隣領、 セルデン侯爵領。
ベルモンド伯爵と同じハウバリン公爵の門閥貴族だが
ハウバリン公爵門閥の中でも最も喧嘩っ早い貴族である。
ベルモンド伯爵とは共に様々な困難に打ち勝って来たのだが
両者の中は険悪である。
そんなセルデン侯爵がハウバリン伯爵の邸に来たというのは
ハッキリ言ってあり得ない事態であった。
「・・・粗茶ですが」
「粗末な物を出すな」
ベルモンド伯爵邸の応接間で
ベルモンド伯爵が点てた緑茶を拒否するセルデン侯爵。
「失礼では?」
「先触れは出した、 最低限の礼儀は守ったつもりだ」
「つもりですね、 本当に」
「だな、 だが今回は少々私も気が立っている」
「貴方を怒らせる事をした覚えは有りません」
「そうか? 何か隠している事はあるだろう?」
「いえ、 隠し事は貴族ですし多少はありますよ、 ですが
貴方を怒らせる事はしたくありません、 殺されたくありませんので」
「そうか」
互いに嫌い合っているが良く知った仲である。
セルデンはベルモンドが今回の出来事に関与していないと判断した。
「私の領に孤児院が有る事は知っているか?」
「何処の領でもあるのではないのですか?」
「私の領には無かった、 だが民部大臣がぐちゃぐちゃ言って来てな」
「民部大臣? ラビット殿が? 彼がそんな無茶を言うとは思えないが」
「前の民部大臣だ」
「あぁサイプレス・・・」
ベネルクス王国政府には様々な省庁があり
その省庁は幾つか纏めて大臣達に統括されている。
その大臣の中で昨今の人権意識の高まりにより新設されたのが民部大臣であり
初代民部大臣サイプレスが居た。
彼女は偏った思考を持ち、 様々な団体に考え無しに国庫から資金を出したり
かなりの政治的介入を行っていた。
だが過日起こった活動家達により起こった
【ハウバリン公爵門閥内同時多発的抗議活動】と
【ベネルクス95世暗殺未遂】によりサイプレスは責任をもって処刑され
後釜にラビットが民部大臣に就任し資金の流れも把握され
似非人権団体の殆どが壊滅した。
「あの女はごちゃごちゃ言って来て孤児院を建てて
金を徴収していったんだよ」
「・・・貴方の領には孤児院は無いのですか?」
「必要無いだろ?」
「寧ろ貴方の領の方が必要だと思いますが」
「何故?」
「貴方の領は武にフルコミットしていますから戦死する者も大勢いるでしょう
孤児が居る筈です」
「虎児は居るけど孤児院が必要だって言うのは分からん」
セルデンの言葉に絶句するベルモンド。




