オダハラ・ハンド・ピース
再誕歴7701年ジュニアリー7日。
N5のN5駐在騎士団詰め所。
ここはルクセンブルク公爵が建設した建物でネルネルタワー程では無いが
地上五階建て、 地下三階建ての立派な建物である。
Fワードを連呼しながらオダハラがカートライトを台車で運んで地下に向かう。
「団長? 何で来てるんだ?」
「さぁ?」
平団員達はぼそぼそと呟いた。
地下で台車を巧みに操り階段を凄い勢いでオダハラ。
地下三階から建て増しした四階、 五階と下り。
五階の秘密の入口から隠された地下六階に向かう。
地下六階の門番が姿勢を正す。
「団長!! 御休みでは!?」
「挨拶は良い!! ベンジャミンは何処だ!?」
「薬師長は『下』に居ます!!」
「ちぃ!! こんな時に・・・呼び出せ!!」
「そ、 それが『下』は今危険な状態らしく目が離せないと・・・」
「【Fワード】!!」
イライラするオダハラ。
「こっちも危険な状況だ!! 緊急を要する事態だから来る様に伝えろ!!」
「は、 はい!!」
伝声管※1 を開く門番。
※1:金属管を用いた通話装置。
金属等の管の両端に送話口と拡声装置を兼ねた漏斗状の受話器が付けられ
この受話器で会話を行う。
「もしもしこちら門番です!!」
『こちら七階コントロールルーム!!
現在臨界点に到達しかけてる!! 制御棒残り僅か!!
休みでもいいから早く団長に連絡しろ!!』
「団長がこちらに」
『来てる!? 団長!! すぐに、 うわっ!!』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴと詰め所内が揺れ出す。
『動いてる!! やべぇ!! 制御棒使え!!
団長!! いるなら制御棒の追加をお願いします!! 後生贄も!!』
「・・・・・今からそっちに行く、 ベンジャミンを待機させとけ」
地下六階に入り、 地下七階に降りる。
「あぁ!! 団長!!」
「団長!! お助けを!!」
「団長!!」
白衣を着た研究員達がオダハラに縋りつく。
オダハラはぞんざいに払う。
「うげ」
「ぎゃ」
「鬱陶しいベンジャミンは何処だ?」
「ここだああああああああああああああああああああああ!!!」
毛髪が抜け落ちた眼鏡をかけた狂的な研究員が叫ぶ。
彼はベンジャミン、 『ネルネル超過就労発覚事件』の加害者である。
インド人妻を酷使し過労で入院させた。
ベネルクス王国はベンジャミンが妻を奴隷の様に酷使した事に対し
奴隷禁止三原則※2 に抵触すると判断された。
※2:決闘法と同じくベネルクス王国から端を発しヨーロッパ連合に広まった
奴隷禁止法の分かりやすい別称。
奴隷を持たない、 売らない、 持ち込ませないと奴隷を禁止している法である。
その為、 給料の未払い等は固く禁じられており、 もしもこの法を破ると
最初にこの法の抵触者になった|罪業者《名前すら奪われた人だったもの》と同じく
棺の中に溶けた生ゴムで永遠に封じられると言う恐ろしい刑罰が適応される。
逮捕寸前で能力を買ったマーナガルム男爵に拾われN5駐在騎士団で
麻薬の生成等の仕事を一手に引き受ける薬師長の地位を得た。
「ひ、 ひひ!! どーもどーも団長!!」
ベンジャミンの目が血走り完全に座っている。
瞳も赤く染まっている。
「お前・・・レッド※3 を使ったのか?」
※3:ベンジャミンが造り出した、 と言う体の
新種の覚醒剤、 の様な物。
身体能力の向上、 疲労回復等の効果が有るが
使用するとハイになり、 更に精神に強い依存性がある為
禁断症状が激しく、 モルヒネの数倍から数十倍の禁断症状が起こる。
「うっせえええええええええええええええ!!
こちとら10日位寝ずにやってるんだああああああああああああああああ!!!!
てめぇ、 こっちは年末からずっとヤベェ状況だから救援求めてるのに
年末年始の休みだぁ!? 使者を送ってもガン無視しやがってよぉおおおおおお!!」
「あー・・・確かに使者が・・・ってそんな場合じゃない
お前に渡した生贄用の罪人を返還しろ、 人手が必要だ」
「【Fワード】!!!!!!!! このタイミングでそんな事したら
アレが外に出るぞ!! ここ最近はマジでヤベェ!!
制御棒を突き刺してても制御がきつくなって来ている!!
人手が欲しいならあの剣豪爺さんでも使え!!」
「だから手が足りねぇんだよ!! 手がよぉ!!
今やらねぇと男爵の殺し屋に殺される!!」
「・・・・・ヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
頭を押さえてガクガクと震えるベンジャミン。
以前一度逃げた際にマーナガルム男爵にされた恐ろしい罰※4
は彼の心を抉っている。
※4:記す事は出来ない。
「ハァハァハァハァハァ!!!」
「落ち着け、 まずは」
形容しがたい鳴き声が響く。
「・・・・・」
オダハラも背筋が凍った。
「だが・・・人手が無ければ・・・・・くそ、 ならば仕方がない
多少は人心が離れるかもしれないが市民から徴用しよう」
「それが良い・・・生贄も次第に尽きる・・・生贄も重用してくれ」
「【Fワード】!! 爺さんに声をかけてくる!!」
「いてらー」
「後、 コイツの酔いを醒ませ!!」
台車のカートライトを放りだして上に登るオダハラ。
「味噌※5 でも飲ませますよ」
※5:味噌にはミネラル成分やアミノ酸などが豊富に含まれており
これらの成分が肝機能を高める事で酔いを早く醒ませる。
オダハラは地下五階の修練場。
「爺さん!!」
オダハラは思い切り扉を開ける。
そこには二本の木刀を振る老人の姿が有った。
彼はベネルクス二刀流※6 の元師範テラー。
※6:日本の大剣豪”ストロンガー・ザン・ストロンゲスト”宮本武蔵が開祖の二刀流
二天一流を学んだ寺尾郷右衛門勝行がベネルクス王国に伝えた剣術が独自に発展した剣術である。
二刀流から放たれる斬撃の型はベネルクス最強とも呼ばれていたが
戦術のインフレーションに取り残されつつあった。
しかしながら一定の戦果は上げていた物の最後の師範テラーの
犯罪行為によりベネルクス王国政府から断絶の憂き目にあったのだった。
「如何した?」
「仕事だ!! 悪いが人を徴用して来て貰おう!!」
「徴用って・・・アンタ、 ワシに人攫いの真似事をしろと?」
「爺さん!! アンタも罪人だろうが!! 人攫いでもやれよ!!
EUDMOに突き出すぞ!!」
「・・・準備する暫く待て」
「急げよ!!」
バン!! と扉を閉めるのだった。
「・・・・・」
テラーは一人修練場で涙を流すのだった。




