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ザ・ファット

再誕歴7703年ジュライ20日。


ベルモンド伯爵領の隣領セルデン侯爵領。

セルデン侯爵邸のセルデン侯爵の執務室に呼び出された息子二人。

兄のジョンと弟のジャン。

ジョンの付き人グレゴリオとジャンの付き人フランクも在室している。


「久しぶりだな、 ジャン、 罪人共は如何した?」

「・・・・・」


ジャンは死んだ様な眼をしていた。


「まさか買い戻せなかったのか?」

「はい、 しかし買い戻す必要は有りません」

「如何言う意味だ? 慎重に言葉を選びながら喋れ

お前の遺言になるかもしれないからな」

「罪人達は魂のヒエモントゥーリに遭っていました」


首を傾げるセルデンとジョン。


「魂のヒエモントゥーリ?」

「死よりも悍ましい刑罰を受けています、 魂を八つ裂きにされている

と形容できます」

「死よりも悍ましいねぇ・・・刑罰の内容を聞こうか」

「まず刑務所の中では金が無ければ何も出来ません

金が無ければ部屋にシーツどころか服すら、 トイレすらありません」

「金が無ければって・・・金が無いのが普通では無いのか?」


セルデンが訝しむ。


「日々の刑務作業に発生する作業報奨金

株式会社アルベドの作業報奨金は歩合給、 即ち働きに応じた金が毎日支給されます

その金で住処や服を買ったり借りるのです」

「いや、 待て、 確か囚人の最低限の待遇の何某を決める法律が有った筈だ

囚人でも奴隷扱いはしないと言う決まりが有った筈」


ジョンがツッコむ。


「いや、 このケースに関しては文句は無いだろう

作業報奨金でサービスの提供、 と言う事は刑務作業をしていれば普通の生活は出来る

のだろう? 流石に」

「トイレと服と布団が有る部屋を使用する事が普通ならば」

「なら普通では無いのか、 魂のヒエモントゥーリなど烏滸(おこ)がましい」

「その普通を手に入れるのに毎日過酷な労働をする必要が有るのですよ

椅子を作る作業ならば十個以上は作らなければならない」

「まぁそれ位は当然だな、 それが過酷と言うのは少し言い過ぎだ」

「これはまだ序の口、 生活環境はこれで良くても

食事が虫と苔と藻で文句を言う人間は胃に直接パイプを繋げて直接胃に

食料を流し込む、 反抗した者の爪と歯を毟り取る

反抗的な物は棺桶の様な部屋の中で何も与えずに数日ほっとく」

「人権と言う言葉を知っているか?」

「いや、 これは囚人の制圧、 及び刑務作業不服従による罰則で済む」


ジョンの言葉を訂正するセルデン。


「だが虫を喰わせるのはそれでもやり過ぎでは?」

「外国では普通の一点張りでした」

「飯を食わせて貰えるだけ有情、 やはり生易しい

それで買い戻さないと言う選択肢は無いぞ」

「囚人たちは自分達を買って借金を負っています」

「・・・・・」

「・・・・・」


一斉に首を傾げる一同。


「私が買い戻しに来た時に囚人は株式会社アルベドに借金をして自分達を購入しています」

「即ち借金買い取れと?」

「はい、 借金の頭金として囚人共は治験を受けています」

「治験? って薬の人体実験か?」

「・・・・・はい」


蒼褪めるジャン。


「薬と言うよりも何かの治療法らしいのですが詳しくは知りませんし知りたく無いです」

「何故?」

「治験を終えた奴を見たのですが・・・ぶよぶよになっていました」

「ぶよぶよ?」

「えぇ、 体が肉が付いてぶよぶよになって、 もう人には見えませんでした

肉の塊に手足が付いていて、 呼吸できるように顔に機材を付けて

言葉も言えない位になっていて只管呻いていました」

「イマイチ悲惨さが分からない太っているならそれは幸せじゃないのか?」

「あれを幸せと呼べるか分かりません

ですが私は今まで酷い事を多々して来た記憶が有りますが

アレは本当に酷い事をして来たと恥じるばかりです

打ち首にされても文句は言えないでしょう」

「ふむ・・・そこまで言うなら見に行くか」


立ち上がるセルデン。


「見に行くとは?」

「酷い状態になっているのかどうかを見に行くんだよ

検分※1 も無しにグダグダ言えん」



※1:実際に立ち会って検査すること。



「父上自らが見に行くのですか?」

「当たり前だ、 息子の命がかかってるんだ、 自らの眼で確かめねばならない」


お前が殺すんだろうが。

とその場に居る者は思ったが、 セルデンは刑務所迄活動家達を見に行った。




再誕歴7703年ジュライ29日。


ベルモンド伯爵領の隣領セルデン侯爵領。

セルデン侯爵邸のセルデン侯爵の執務室に呼び出された息子二人。

兄のジョンと弟のジャン。

ジョンの付き人グレゴリオとジャンの付き人フランクも在室している。


「行って来たぞ」


セルデンが帰って来るなり開口一番に言った。


「如何でした?」

「見世物としては最上級だ、 見世物の面白さを初めて知った気すらするぞ

あの肉塊が私を見るなり喚いて来るのが滑稽で滑稽で溜まらなかった

私が笑うとあの肉塊が更に喚いて呼吸困難になる位に笑った

あそこまで惨めになれば先祖や子々孫々も笑顔になるだろう

ジャンの今回のやらかしは不問にする」

「ありがとうございます」


あれで笑えるのかと戦慄しながらも命が繋がった事に安堵するジャンだった。

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