アイ・イー・ショット・デッド
ベルモンド伯爵邸の医務室で目を覚ますスプリングヘア。
「ここは・・・」
「起きたか、 立てるか?」
ベッドに横になっているスプリングヘアの脇に座るデトネーター。
「頭がふらふらして・・・何が有ったのですか?」
「お前の悪い癖がまた出たらしい」
「・・・悪い癖?」
「また偉そうに喧しくしたらしいな?」
うんざりしながらデトネーターが言う。
「・・・・・私はA級決闘者としてプロの意見を言っただけです
セルデン侯爵は所詮は決闘に関しては素人」
「セルデンは決闘者の資格は無いがA級決闘者を何人も打ち取った経験がある実力者だ」
「・・・・・嘘でしょう? 素人相手に負けるA級なんて居るんですか?」
嗤うスプリングヘア。
「そういう人を侮る癖もな、 貴族相手にも出すとは驚きだよ
不敬と言う概念は知っている?」
「もちろん知っていますが・・・それよりも何が有ったのですか?
頭がふらふらして良く分からないのですが・・・」
「お前が黙れと言ったのに黙らずぐっちゃぐっちゃ言っていたのに腹を立てて
セルデンがお前を打ん殴った」
「貴族ともあろう者が暴力を!? これは抗議しましょう!!」
「そうだな、 じゃあ立てるか?」
「っ!!」
立ち上がろうとするがまだ駄目らしい。
「ここまで酷く殴るなんて・・・」
「いや、 真っ二つにされていないだけ有情だろう
スプリングヘア、 お前一人で帰れるか?」
「え? どういう事ですか?」
「仕事が出来たから早々にここを出なければならない」
「仕事? 何の仕事ですか?」
「貴族に失礼を働かない新しい決闘者と雇用関係を結ばなければならない」
「なっ!!!? わ、 私をクビにするつもりですか!?」
立ち上がろうとしてベッドの横に倒れるスプリングヘア。
スプリングヘアを見下ろすデトネーター。
その目は路傍の石ころを見る様な眼であった。
「スプリングヘア・・・」
デトネーターは懐に手を入れた。
「!!!!!!!!!」
スプリングヘアは一瞬にして事を察した!!
デトネーターは拳銃を持っている!! 即ち撃ち殺される!!!!!
そして自分は動けない!!!!! 回避できない!! 即ち撃ち殺される!!!!!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
全力で絶叫を挙げるスプリングヘア。
誰かの助けが来る事を願った。
「おい、 大丈夫かよ」
デトネーターが懐から出すのはハンカチである。
「如何しました!?」
医務室に入って来る使用人。
「いや、 私にも何が何だが・・・スプリングヘア、 何で叫んだか説明できる?」
「あ、 す、 すみません・・・ベッドから落ちて痛くて叫びました・・・」
「そうでしたか・・・何か有ったら連絡下さい」
「では代えの服を用意出来ますか?」
「代えですか?」
「相当痛かったらしいですから・・・」
そう言ってスプリングヘアの失禁の跡を見るデトネーター。
スプリングヘアは顔を真っ赤にしたのだった。
10分後、 着替えてベッドに戻りデトネーターと対峙するスプリングヘア。
「スプリングヘア、 私は新しい決闘者と雇用関係を結ぶと言っただけで
お前を解雇するなんて言っていないだろう?」
「そ、 そうでした・・・早とちりでした・・・」
はは、 と力無く笑うスプリングヘア。
「今日の事は貴族に対する接し方では無い、 幾ら何でも失礼だ」
「し、 しかし殴られる謂れはないですよ」
「そうだな、 じゃあ訴えれば良いのではないか?」
「出来るんですか!?」
「それは弁護士なりと相談してくれ」
「・・・私が個人的に訴えろと!?」
「私がセルデンと離婚した最大の理由はセルデンと二度と関わり合いになりたくないからだ
訴訟なんてしたくない、 アイツと数か月単位で顔を合わせなければならないなんて
憂鬱が過ぎる」
「・・・・・確かに殴って来る男と会いたく無いのは分かりますが」
「違う」
心底憂鬱そうに言うデトネーター。
「アイツはスイッチが入ると本当にトコトン容赦がない
自分の利害抜きで徹底的にやる、 前に自分の処刑上等で滅茶苦茶やったし・・・
何で私は一度でもあの男と結婚していたんだろう・・・」
頭を抱えるデトネーター。
「と言う事だから訴訟するなら一人でやってくれ、 私には関係無い様に」
そう言って立ち上がるデトネーター。
「何方に?」
「言っただろう、 新しい決闘者を探す、 お前は体調が良くなったら
一人で帰って来い」
「そんなぁ・・・」




