ウェルフ・オブ・デファルト
ベルモンド伯爵邸の修練場にて対峙するフェザーとネヨー。
模擬戦故に木剣と長棒での対戦と相成った。
「A級とS級、 見ごたえが有るな」
「そうでしょうか? 私はそうは思いません」
セルデンの言葉を否定するスプリングヘア。
「どっち勝つか賭けませんか?」
「セイバーダーはそういうの好きだなぁ」
「いや、 S級のフェザーの勝ちでしょう? 誰が如何考えたって」
セルデンとセイバーダーの話に割り込むスプリングヘア。
「それならばあのA級のやせっぽちに5000ユーロ賭けます」
「だからS級のフェザーが勝つんだから賭けにならないでしょう?」
「デトネーターん所では人様の会話に口を出せと教えられるのか?」
心底軽蔑した様な眼でスプリングヘアを見るセルデン。
「え? い、 いえ、 私は決闘者ですので決闘者としての視点を述べているだけです」
「等級は?」
「A級ですよ」
「じゃあS級と戦った経験は?」
「ありませんね、 デトネーター様はそういう無茶をしませんので」
「まぁこんな奴をS級と戦わせられんわな」
話を打ち切ったセルデン。
「・・・・・如何言う意味ですか?」
「あぁ、 まぁ色々回りくどい事を言ったが『とりあえず黙れ』」
「しかし決闘に関して此方はプロ、 貴方は身分が有りますが素人」
バゴッ、 と殴り飛ばされるスプリングヘア。
スプリングヘアは手足が痙攣しばたばたと動いている。
「セルデン侯爵、 如何なされた?」
セイバーダーがセルデンを気遣う。
「あの程度で済ますとはお優しいですなぁ」
「なぁに、 面白い物が見れそうだからな、 生かして置いてやろう」
軽く笑うセルデン。
「お前達、 賭け事をする必要は無い、 見た所奴等の戦力差は無いと見て良いだろう」
「何故ですか?」
「二人の表情を見れば分かる、 互いに強敵と見ている眼だ
賭け事なんて金のやり取りよりも面白い物が見れるだろう」
「あ、 とりあえずこの人の手当てしますね」
使用人達がスプリングヘアを運んで行った。
「ゴミも居なくなった所だし、 始めてくれ」
「分かりました」
「ちょっと待って」
サンが制止する。
「ルールは如何するの?」
「何方かが負けを認めたらで良いのでは? 模擬戦ですし」
「じゃあそれで」
ネヨーが事も無げに提案し、 乗っかるフェザー。
「・・・・・緩くないか? 模擬戦とはいえ勝負になるのか?」
若干困惑するジョン。
「まぁ確かに、 模擬戦とはいえもう少し緊迫感を持った方が良いのではないか?」
セルデンも追従する。
「そうですか?」
「我々は何時もこの形で模擬戦やってましたしね
勝敗を納得出来なかったのは最初の500戦くらいですよ」
「だな、 懐かしい・・・勝敗のスコアは如何だったっけ?」
「3511回中2023勝1400敗88引き分け、 僕の勝ち越しだね」
「だな、 直近でやったのは・・・お前が会社辞める10日前だったか」
ネヨーが遠い目をする。
「何もかも皆懐かしい」
「だな、 お前が居なくなったお陰で新卒が来なくなった」
「そうなの?」
「チーズがスカウトした来た奴が何人かだよ」
「S級決闘者一人が居なくなると採用に支障が出る様な
柔な会社じゃないと思っていたけども・・・」
「お前と同じ決闘代行業で働く一番のメリットを知らんのか?」
くっく、 とネヨーが笑う。
「うん? そんなのあるの?」
「あぁ、 お前と同じところで働けばお前と戦わずに済む」
「「向上心が無い」」
フェザーとジョンの発言がシンクロする。
「貴族の御子息とやりあったと聞いたけども、 ジョン様か?」
「うん」
「だよな、 貴族の子息では考えられない位、 強くなっている」
「そうなのか? 私は一緒に暮らしていて分からないが・・・」
セルデンがまじまじとジョンを見る。
「間違い無いですよ、 一線級の決闘者が言っているんですよ
等級だけ高くてぐちゃぐちゃ言って様な殴り飛ばされる盆暗※1 が
知識をひけらかそうとしているのでは無いのですから信頼して貰って大丈夫です」
※1:頭の働きが鈍く物事の見通しが利かない様や人の事。
コロシアムや闘技場を『盆』と呼ばれていた頃に
盆の上での勝負に対する目利きが暗いことから
勝負によく負ける人を盆暗と呼んだことが語源とされる。
「敗北を認められない奴は三流以下、 敗北を受け入れてどう活かすかがポイントです」
「勝った奴に言われてもな」
ジョンはふん、 と鼻を鳴らす。
「じゃあフェザー、 そろそろ始めるか?」
「だね」
返事と同時にまっすぐ投げ飛ばされる長棒。
眼前に迫る長棒を弾くフェザー、 弾かれ横回転している長棒を取りながらも回転しながら振うネヨー。
その攻撃を更に回転しながら受け流すフェザー。
「「・・・・・」」
先程の軽口の応酬が嘘の様に場が重くなる。
「これは・・・思った以上の収穫が有りそうだ」
笑うセルデンだった。




