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マルガレーテ・サイレント・スクリーム

再誕歴7703年ジューン25日。


サン伯爵令嬢領は元々サンが治めていた土地に加えて

今回の不始末により空いたソリューション領を領地として手に入れた。

更に男爵位も手に入れて順風満帆、 とは行かない。


サンの邸は正に殺人的なスケジュールによって惨殺現場の様な有様になっていた。

机に突っ伏しているサン、 そしてフローラ、 アンテイア、 クローリスのメイド3人組。


「フェザー、 縄持って来て、 縛り上げる」

「乱心したの?」


マルガレーテの言葉に冷めた目をするフェザー。


「このまま働き続けたら死にかねない、 縛ってでも休ませないと」

「流石にやり過ぎじゃない?」

「何を言うか、 道を誤った主を正すのも臣下の務めだ」

「分かった分かった・・・僕もサン様を死なせたくはない」


そう言って4人を縄で縛って寝室に運び

ベッドに括りつけるフェザーとマルガレーテ。

流石に起きた時にパニックにならない様に寝室に待機するフェザーとマルガレーテ。


「僕迄いる必要有るか?」

「まぁ良いじゃない、 貴方が一緒ならば御嬢様もそこまで怒らないわ」

「どうだか・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」


静寂が寝室を包む、 4人の寝息がただ静かに流れる。


「・・・所でフェザー、 貴方は今子爵位を持っていたわね」

「えぇ、 まぁ、 名ばかりだよ」

「領地経営の勉強をしているじゃない」

「まぁね、 サン様のお役に立ちたくてね」

「・・・・・・・・・・あ」


マルガレーテが立ち上がった。


「貴方が一緒なら怒られないと言ったけども貴方だけ居れば良いわね

私が外に出るわ」

「・・・・・そうだね、 サン様達は僕が見ておくよ」


『縛ろうと言い出したのはお前だろう』と言いたかったフェザーだったが

言葉を飲み込み、 退出を促した。






「・・・・・」


マルガレーテはツカツカと洗面台に向かい顔を洗った。

頭から水を被った。


「はぁ・・・はぁ・・・」


爆発しそうな情動を胸に抑え込み、 無理矢理ここまでやって来た。


「そうじゃないでしょフェザー・・・!!

そうじゃないでしょ・・・!!」


『サン様のお役に立ちたくて』その言葉が彼女には癪に障った。

フェザーには落ち度もない。

無論、 サンにも落ち度はない。

勝手にマルガレーテが癪に触っているだけである。

そして勝手に癪に触っているという事をマルガレーテは自覚している。

何故癪に触っているのか、 ICBCに向かって行き

ジョンに勝利し、 数々の功績を挙げて平民から子爵にまで上り詰めた。

そんな男が『サンの役に立ちたい』、 言い換えれば『サンの下で働きたい』。


「・・・・・」


『君は誰かの下で働いて良い様な人間ではない

もっと高みを目指すべきだ』

そう言いたかった。


「・・・・・ヴァカか、 私は」


ふっ、 と自嘲して笑うマルガレーテ。

そんな台詞を自分は吐く資格があるのだろうか。

身の程知らずでは無かろうか?




マルガレーテは騎士階級貴族の娘だった。

母親は体が悪く、 自分は一人っ子だった。

それ故に体を鍛えて騎士として一人前になろうと思った。

お転婆※1 だったが礼節を弁えていた。



※1:男勝りの活発な女の子を指す言葉。

オランダ語で「慣らすことのできない」を意味するontembaar(オンテンバール)からの

借用という説が有力ではあるが実態は定かでは無い。



転機が訪れたのは母が亡くなり父が後妻を娶った事。

後妻には小さな連れ子が居た、 弟が出来た無邪気にはしゃいでいた。

しかしこの後妻は明らかに自分を目の仇にしていた。

女だてらに騎士になろうとしていた自分に対してやたらと『女らしくしろ』と言い

鍛錬の予定を無理矢理潰して茶会を催し招いたり、 士官学校への入学を取り消そうとした。

更に性質(たち)の悪い事にその後妻の言葉を父は積極的に取り入れ始めて

娘の嫁入りの話を勧めていた。

父の周囲の人間の子息も騎士だがマルガレーテ程の才は無く

彼女を妬んでおり嫁に入れば酷い目に遭うのは分かり切った事である。

父にその事を言うと全力で殴られた。


『彼等はそんな人間では無い!! お前は力は有るが心が貧しすぎる!!』


殴られた事に対して辛さ等は無かった、 ただ単に失望した。

父と呼んでいた男の視野の狭さにではない。

|全力で殴ってこの程度なのか《・・・・・・・・・・・・・》と


その日、 家を出た。

放浪の旅の中で何度か死にかけたが仕官の話があり応募した結果。

ベルモンド伯爵に拾われたのだった。






「・・・・・」


フェザーも進む道は勝手に決めれば良い。

私が決めるべきでは無いのだ。

マルガレーテは立ち上がった。


「・・・・・?」


ドアノッカーの音が響いた。

玄関にマルガレーテが向かうとそこには一人の男が立っていた。


「誰だ?」

「旧フロップス領の騎士!! ケイです!! 直ぐにお伝えしなければならない事が有ります」

「・・・・・」


見た所、 剣は持っていない様だ。


「剣は如何した?」

「!?」


ケイは吃驚仰天していた。


「忘れていた!!」

「正気か?」

「い、 いえ、 じ、 実はそれほどまでに大変な事が起こって居まして」

「剣を忘れる程の出来事か?」

「な、 何分、 私も経験が無い事で・・・」

「? 何が有った?」

「独立です!!」

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