スカル・アンド・ファットマン
再誕歴7703年ジューン21日。
セイバーダー子爵領、 セイバーダー子爵邸の修練場。
セイバーダーが騎士達と相手に修練に励んでいた。
セイバーダーは二本の双頭槍※1、 を持ち騎士達の攻撃を弾き叩きのめしていた。
※1:両端に穂先が付いた槍。
「「ちょ、 ちょっと待った!!」」
騎士達が溜まらず静止した。
「何だ?」
「何でそんな訳の分からない武器なのに我々がボコボコにされているのか意味が分かりません!!」
「閣下は普段普通の槍を使っているでしょう!!」
「ふん、 確かに双頭槍はハッキリ言ってネタにすらならん
ゴミ武器、 それ故に意表を突ける、 と言う訳だ」
「意表を突けるでしょうが・・・」
「しかし、 今度のベルモンド伯爵領の決闘にはセルデン侯爵領も参加するんですよ?」
「あの狂人集団にそんな玩具が役立つとは・・・」
「耳が随分と遅いな、 ルンの所では凄まじい威力の新兵器を
屁理屈付けて決闘に使用するらしい」
「誠ですか?」
セイバーダーの言葉に困惑する騎士達。
「しかし尚更こんな玩具が通用するとは・・・」
「お前達は考えが固い、 良いか? 今回は戦争じゃない、 決闘だ
決闘にはルールが有り、 ルールは皆の協議で決まる
ベルモンド伯爵領の決闘にはルンとセルデン閣下以外にもワームウッド大臣
大臣の傘下を聞きつけて参加したバーリィ侯爵とデトネーター伯爵も居る
この二人が擁する決闘者の情報も既に入手している
その二人が得意とする決闘のルールは既定の回数相手に攻撃を入れるポイント
そしてベルモンド伯爵もなるべく穏便に済ませたいだろうから
決闘のルールはポイントで決まる確率が非常に高い」
「な、 なるほど、 それでは打撃を沢山居れられる武器が有利、 と言う事ですね?」
「その通りだ!! 俺とて考えていない訳では無い」
ふふん、 と鼻を鳴らすセイバーダー。
「あぁ、 だから【餓狼剣】の使い手に話を持って行かなかったのですね!!」
「【餓狼剣】? ふん、 あんな物決闘では役に立たない」
「何故? 強力な流派では?」
「強力だからこそ対策を練られており、 現実的には役に立たない
ベネルクス最速の剣だから実戦なら兎も角決闘ではキツいだろう
現に以前・・・名前忘れたがS級決闘者のフェザーにやられた【餓狼剣】の使い手が居ただろう
名前なんだったか・・・」
「・・・・・私共も失念しました」
「まぁ如何でも良いか、 兎に角双頭槍は滅多に見ない武器
見た事も無い物を警戒しメタを張る※2 事は出来ない」
※2:『高次の』といった意味を持つ接頭語の『メタ』に由来する用語。
メタを張るとは特定の武術や武器や傾向に対して対策する事で有利に働くと言う意味である。
例えるならば炎系の攻撃を使う相手に水系でガードする等である。
「なるほど、 御慧眼ですね」
「褒めても何も出んぞ? さぁて手慣らしも済んだ、 ベルモンド伯爵領に向かうぞ」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
同時刻、 ベルモンド伯爵領、 領境に二つの馬車とその護衛が並んで入って来た。
バーリィ侯爵とデトネーター伯爵の馬車である。
「デトネーターと一緒に入領するなんて奇遇な事も有るもんだね
そう思わないかい?」
馬車の中でバーリィが語り掛ける。
「うーん、 如何ですかね? 私はデトネーター伯爵の事は良く知りません
それよりも良かったのですか?」
「何が?」
「貴方の領には既に有名な決闘者が居るでしょう
A級のサイノカワラ卿、 ヨーロッパ戦役でも活躍した英雄の
それなのに外部の私に依頼して大丈夫だったのですか?」
バーリィの向かいに座っている
【ブラック・シンゲツ・コーポレーション】
社内決闘者序列3位【デスサイズ】A級決闘者のネヨーが尋ねた。
「良いんだよ、 今回は勝ちに行きたい
ならばサイノカワラでは無く別の者を連れて行けば意表が突ける」
「意表ですかぁ・・・まぁ間違い無く意表は突けるでしょうね
ですが相手がフェザーさんなら・・・私に分が悪いですね」
「ほう、 どの程度分が悪い?」
「3・・・いや3.5:6.5で私が分が悪いです」
「そこそこ接戦だな、 相手はS級決闘者で君はA級なのにその自信は何処から出るのだ?」
「互いに互いの手の内を知り尽くしている間柄です
無論、 フェザーも新しい戦い方とか鍛えて入るでしょうがそれは私も同じ
互いにどんな成長を果たすのか? も大体は把握しています」
「ほぉ・・・相手の成長を込みで3.5か、 その痩せている体でA級になっただけはある
だが痩せているのが気になるなぁ・・・食べているのか?」
「病気の体をウィルパワーで動かしているんです
普通だったら寝たきりの生活ですよ」
「それは難儀だなぁ・・・栄養満点の蜂蜜でも送ろう」
「蜂蜜ですか?」
「唯の蜂蜜では無い、 とても凄い蜂蜜だ」
「そうですか・・・少し草臥れたので休みます」
「おう」
そう言って会話を打ち切ったネヨー。
痩せているからと構って来るバーリィの心遣いは少々鬱陶しい。
しかしネヨーは後にバーリィに感謝するのだった。




