エクスプレス・デリバリィ・アライブ
再誕歴7701年ジュニアリー4日。
ベルモンド伯爵領では一月の新年祝いは1日のみ。
2日以降は普通に仕事がある。
ベルモンド伯爵邸では既に鏡開き※1 が行われ
使用人一同は鏡餅を食べるのに必死※2 である。
※1:餅を神仏に供える鏡餅を割って食べる事。
ベルモンド伯爵邸では大小含めて百個以上。
当然ながら餅には防腐剤の類は入っていない為
餅に黴が生える前に全部食べなければならない。
※2:日本では数百人以上の人々が餅により窒息死している為
使用人一同は予め細かく砕いたり、 医者を常駐させたりと
対応策を練っている。
「お雑煮出来たぞ」
使用人詰め所で餅を食べる使用人達に
ベルモンド伯爵自らお雑煮を拵えて出す。
「態々ありがとうございます」
「気にするな、 こればかりは本場の味を食べた事のある私が作らなければな」
もちもちと食べる一同。
「あぁ、 そうだ、 皆さん、 年賀状が届いていましたよ」
使用人達が年賀状を配り始める。
「伯爵、 此方伯爵宛ての御年賀と御嬢様達の分ですね」
「うむ、 分かった、 娘に渡して置こう」
年賀状を受取ったベルモンド。
「む、 これは・・・」
年賀状に紛れて速達で一通届いていた。
「と言う訳でサン宛ての年賀状とフェザーに速達だ」
「速達、 ですか?」
サンの部屋にやって来たベルモンドが手紙を渡した。
「速達も気になるけどもジョンからも年賀状来てるわよ
『今年こそは叩き潰します』だってさ」
「嫌だなぁ・・・何で態々御嬢様に年賀状で言うんですか、 それ」
「ジョンは妙な所にプライドが有るからね、 それより速達は?」
「今見ます・・・おや、 これは・・・」
「誰から?」
「幼馴染からですね、 近々此方に来たいと言う事ですが・・・」
「ふむ、 見せて見ろ」
「どうぞ」
手紙を受け取るベルモンド。
「『緊急の用事が有るのでなるはやで職場にお邪魔します ツゴモリ・ミソカ』・・・これだけ?」
「これだけですね・・・如何しましょう?」
「別に会うだけ・・・では済みそうにないな
ミソカ嬢はツゴモリ・コングロマリットの当主、 恩を売っておいて損は無い、 か
何れにせよ君はサン付きの執事、 サンは如何したい?」
「その前に一つ良いですか?」
「何だ?」
「コングロマリットって何です?」
「多業種間にまたがる巨大企業、 つまり色んな仕事をしている会社の連合体みたいな感じだ
国内有数の企業と言っても過言では無いだろう」
「そんな所の御嬢さんと知り合いなの?」
「ツゴモリ・コングロマリットの先代当主と私を世話してくれた人が知り合いだったので
その付き合いですよ」
「ふぅん、 私は良いよ」
こんこん、 と部屋がノックされる。
「フェザーさーん、 御客様ですー」
「もう来たのか・・・」
「応接室にお通ししろ」
「はい、 分かりました、 旦那様」
画して応接室にやって来たツゴモリと付き人のクラブ。
フェザーとサン、 そしてベルモンド。
「フェザー!! 久しぶりね!! 元気にしていた!!」
会うなりいきなりフェザーに抱き着くツゴモリ。
「君も元気s」
「本っ当に心配したんだから!!」
「それは悪いk」
「セルデン侯爵領の新聞記事の
決闘のヒーローインタビューを見なかったら居場所分からなかったんだからね!!」
「うん、 とりあえず話を聞いt」
「ん、 ん!!」
咳払いするサン。
「・・・・・どうも初めまして、 ベルモンド伯爵とその御息女様
ツゴモリ・コングロマリット代表取締役ツゴモリ・ミソカです
こちら名刺※3 になります」
※3:まだまだヨーロッパには名刺は普及していない
にも拘わらず名刺を出すと言う事は世界的な企業であると言う事のアピールである。
フェザーから離れて名刺をベルモンドとサンに渡すツゴモリ。
「どうもご丁寧に、 ベルモンド伯爵です
我が伯爵領ではエコロジーの観点から名刺を渡す文化は無いので
名刺を返す事は出来ない、 誠に申し訳無い」
「いえいえ、 それで私は本日はフェザーに用事があるのですが
・・・二人切りにさせて頂けませんか?」
「いやいや、 ちょっと待ってよ、 さっきの様子を見ると
人が間に居た方がスムーズに話が進むと思う
フェザーは『私の』執事でお父様とは雇用関係にある
私達も一緒に居る権利があるとは思う」
ツゴモリの言葉にサンがすかさず返答する。
「いや、 本当にすみません、 二人切りじゃないと駄目な話なのです」
「・・・・・まさか私の家でふしだらな真似を」
「誰が人様の家でそんな事するか!!」
思わずツッコミを入れるツゴモリ。
「ツゴモリ、 伯爵も御嬢様も人の悪口を言わない方だ
喋っても問題無いよ」
「・・・・・分かった、 色々話したい事は有るんだけれども急を要する話だから
用件を説明するよ、 ヴォイドがやらかしやがった」
「若が? ルビ可笑しくない?」
「ほっとけ、 今回マジで洒落にならない事をやらかしてしまった
伯爵閣下に説明するとヴォイドって言う私とフェザーの幼馴染が居るのです」
「なるほど、 それでそのヴォイドと言う人が何をしたんだ?」
「話は少し遡ります、 先日ドラゴヴァニア五連星と
ブラック・シンゲツ・コーポレーションのチーズが国家間決闘をして勝利したのは御存じですか?」
「話は知っている、 正直信じられないドラゴニュートを圧倒するなんて・・・」
「チーズならやりかねない、 あの男は人間じゃないですよ」
断言するフェザー。
「話を戻します、 チーズは決闘が終わるとさっさと帰ってしまいました
国家間決闘が終わった後に慣例として遺体は国に返還する事になっているのですが
金剛龍帝スターダストの遺体が紛失しました」
「な、 何だと!? そんな話聞いた事無い!!」
「いや、 これは真実だ、 実はベネルクス王国政府から通達が来ていた」
ベルモンドが口を挟む。
「民衆に知らせるとパニックになるかもしれないから報道規制しているが
貴族達には通達が来ている、 警戒はしていたが何の音沙汰も無いから動けなかったが・・・」
「・・・その遺体を盗んだのがヴォイドだと? ツゴモリ、 何か証拠があるのか?」
疑っているツゴモリを責める様に問うフェザー。
「決闘場所のベネルクスフジに住んでいる住人全員
決闘開始前からベネルクスフジに入った奴全員
そして決闘終了後からベネルクスフジから出て行った奴全員
それら全てを調べ上げた結果、 容疑者はヴォイドだけよ」
「お嬢の指示で私の部下ギャル全員に調べさせたんで情報ばバッチリですよ!!」
クラブが空気を読まずに割り込む。
「・・・信じられないな、 ヴォイドがドラゴニュートの遺体を盗んで如何しようと?」
「スターダストの鱗は硬度が凄まじく高い上に美しい、 高値で取引される事は確実よ
そして去年の年の瀬にやっとの事でヴォイドが居る場所を突き止めた
スターダストの遺体もヴォイドが知っている可能性が高い」
「一体何処に?」
「ネーデル公爵門閥マーナガルム男爵の統治下にある
ネルネルネルネルネ、 通称N5」
「ベネルクスの恥部!! あんな場所に居ると言うのか!?」
「更に悪い報せよ、 N5で開かれる闇のオークションでスターダストの遺体が出品されるらしい」
「ヴォイドが出品していると!?」
「出品者の情報は分からない、 でも誰が出品しているにせよ
スターダストの遺体をドラゴヴァニアに返還しなければならない
法律的には何ら問題は無いけども慣例として返す事になっているから
このままだと国家間の感情悪化に繋がる」
「・・・・・」
思い悩むフェザー。
「ヴォイドを信じたい気持ちは分かるよ
でもさアイツから会社奪った私が言う台詞じゃないけども
アイツがこれ以上罪を重ねるのは私もアンタも見たくないし
バロッグの叔父様にも申し訳が立たないでしょ?
私が調べているのは政府にも陛下にも内緒にしている
私達でヴォイドを先に捕まえなきゃならない」
「捕まえて如何する?」
「捕まえてから考えよう、 何れにせよオークションまで時間が無い
闇オークションは旧正月、 つまりフェブラリーの一日から始まる
即ち27日間、 大体160時間以内にN5に行ってヴォイドを探しだして
スターダストの遺体を回収しなければならない」
「・・・・・」
ベルモンド伯爵を見るフェザー。
「事情は分かった、 友人を助ける為だ、 暫くの休暇を認めよう」
「ちょっと待った」
サンが制する。
「私も行こう」
「お嬢様も?」
「あの、 物見遊山の旅じゃないので付いて来られると」
「あのね、 さっきも言ったけどもフェザーは『私の』執事!!
私がここに居るのに居なくなるのはあまりにも不自然!!
今回の話は秘密にしたいんでしょ
だったら自然な振舞になる様にする為には私もN5に向かうわ」
「・・・好きにして下さい、 但しN5が危険な街なのは御存じですよね?」
「当然よ、 護身程度の事は出来るわ」
「では向かいましょうか」
画してフェザー一行は背徳と暴力の街【ネルネルネルネルネ】に向かうの




