ビー・クール ドゥー・クール
「俺達、 俺と母さんはアメリカ生まれアメリカ育ちだ
アサフもアメリカ生まれアメリカ育ち
アサフと母さんは同じ学校を出て学位を得て同じ研究所で働いて職場結婚をした
順風満帆※1 な生活だ」
※1:物事がすべて順調に進行することを例えた故事成語。
順風は人や船が進む方向に吹く追い風。 満帆は帆をいっぱいに張ること。
即ち追い風を受けて船が勢い良く進むという事である。
因みにこの世界では常に暴風が吹き荒れているので
勢いが付き過ぎると逆に危ないとされており
船頭の腕が試される、 余談だが『船頭多くして船山に登る』と言う故事成語は
船頭が多過ぎて意見統一が出来ず勢いが付き過ぎて山の上に登ってしまったという
実話から取られている。
「学者だったのか?」
ダイモスが尋ねる。
「そうだ」
「何の学者だ?」
「何の?」
「植物の学者とか動物の学者とか有るだろう」
「天文学だ」
「てんもんがく?」
「・・・星空の研究だ」
「ロマンチックだな、 それで?」
「ある日、 俺達を捨ててアサフは出て行った」
「・・・・・端折ってないか?」
「いきなりと思うが俺だっていきなり何なんだ? って思ったよ
苦労した母さんを見て俺はアサフを憎んだ」
「苦労してるようには見えないが」
ピシッ、 と青筋を立てるシンバル。
「何だと?」
「俺の地元では片親でも幸運、 親無しがデフォルト
そもそも健康状態は良さそうに見える、 それで苦労したって言うのは」
「ざけんじゃねぇ!! お前が何処の底辺国の生まれとか知らねぇけどよ!!
俺達はアメリカ人だ!! 文明人だ!! 舐め腐ってんじゃねぇぞ!!」
「お前の苦労なんて苦労にすら入らない」
懐に手を突っ込むシンバル。
「ちょ、 ちょっと待った!!」
リネがシンバルを押し倒す。
「何だ!?」
「懐のそれ出せ!!」
「・・・・・」
シンバルは大人しく拳銃を出した。
「拳銃って、 お前・・・」
困惑するダイモス。
「一旦!! 一旦落ち着きましょう!! ね!! ね!! 拳銃は預かりますから!!」
そう言って拳銃を取り上げるリネ。
「おい!!」
「帰りに渡しますから!! 一旦落ち着きましょう!! そうだ!! 御飯!!
御飯食べましょう!! 学食!! 学食に行って来て下さい!!」
リネが捲し立てる。
「学食って・・・」
「良いから!! とりあえず行ってこい!!」
ぜぇぜぇと肩で息をするリネ。
「・・・・・食事代は出すので一旦落ち着く為に食事にしましょう」
「そうね、 シンバル、 貴方冷静じゃない」
「・・・・・分かったよ」
ダイモス、 リガル、 シンバル、 ディーバは大人しく学食に向かった。
「アンタは来ないのか?」
「はぁ・・・はぁ・・・いや、 私は・・・手持ちが無くて・・・」
「奢りますよ」
「いや、 ツケも溜まってて・・・」
「そうですか・・・」
隠してリネはその場に残った。
「ふふふふふっふふふふふ、 ふー、 ふー」
思いもよらずに巡って来たチャンスに興奮収まらないリネ。
深呼吸をした後にシンバルから預かった拳銃をポケットにしまった。
そしてリガルが机の上の置きっぱなしにした袋と本と箱を見てほくそ笑んだ。
「チャンスが巡って来たなぁ・・・本と箱は知らんが
この金があれば・・・いや箱もこれ宝箱っぽいな、 中に何か入っているのかも」
箱を持つリネ。
「!?」
思った以上に重くてリネは驚いた。
5Kgは有るだろう、 投げ飛ばせない位には重い。
装飾も見てみると豪華だ、 これは間違い無く宝箱の類だ。
「おっほ、 まるで手提げ金庫だな!! これならたっぷりと―――」
「すみません」
リネが振り返るとそこにはルーが立っていた。
「・・・・・だ、 誰?」
「私は貴方をボコりしに来た」
「・・・・・な、 何で?」
「薬」
「あ、 あぁ・・・」
想定よりもずっと早く報復がやって来た。
「・・・・・ま、 待ってくれ、 金なら払う」
「違う違う、 金の問題じゃないんだよ
信頼の問題だ、 OK?」
「・・・こ、 これ、 宝箱だ、 これをやる」
「・・・・・」
ルーは宝箱を受取った。
重みを感じる、 そして装飾も綺麗、 確かにこれは宝箱だ。
間違い無い、 年季も感じる。
「フーム、 確かに宝箱・・・これならばボスも・・・」
宝箱から視線をリネに戻すルー。
拳銃を付きつけられている。
「・・・・・」
「・・・・・」
0.1秒の沈黙、 発砲、 1発2発3発4発5発6発。
悲鳴を上げてルーは倒れた。
ルーが落とした宝箱を持って逃げるリネ。
「・・・・・」
ルーは冷静に状況を判断しようとした。
6発の銃弾で命中したのは3発、 1発肺に当たっていた
あと数分で死ぬだろう。
自分にはこの状況を打開する術はない。
相棒だったデビットの言葉を思い返していた。
『人間って言うモンはもっと価値の有るモンだ
神様が俺を助けたって事は俺には価値があるんだろう』
自分には価値が無いんだろうか、 今まであくどい事をやって来た。
だからバチが当たったのだろうか。
気の利いた悪態を吐きたい所だが、 もう喋る事もままならない。
そのままルーは目を閉じた。




