サンズ・エンカウント
クリュネフ医学に辿り着いたダイモスと弁護士のリガルは遺体安置所に向かった。
リガルは大きなカバンを持っていた。
「そう言えば弁護士の先生、 アンタ何でアサフの依頼を受けたんだ?
アサフは金を持っているとは思えないが・・・」
「いえ、 お金は前もって支払って貰っていたので」
「持ち逃げしようとか思わなかったのか?」
「弁護士やっていると法に従って生きていた方が楽だと気付きましてね
ちゃんと儲けになっているので従っている迄です」
遺体安置所に着いた二人。
アサフの死体と男女、 牧師とリネが待っていた。
「どうも、 この度アサフの代理人弁護士を務めますリガルです」
「アサフの妻のディーバです」
「・・・ディーバの息子のシンバルです」
「生前アサフさんに世話になったダイモスです」
「世話になった? 具体的には?」
シンバルが訝しむ。
「アサフさんの教会を間借りしていました」
「教会? 弁護士先生、 アサフは私達が知っているアサフですか?」
シンバルが尋ねる。
「戸籍から調べ上げていますしアサフ本人の遺族としてこちらにお呼び立てしました」
「信じられないな、 父、 アサフは無神論者※1でした」
※1:世界観の説明に神の存在、 意思の介在、 精神的、 超自然的
または超越的な概念などが存在しない、 または不要と主張する考え方である。
教会の影響力が弱まったとはいえ、 圧倒的少数派である。
「「無神論者!?」」
ダイモスとリガルは驚いた。
「何か?」
「い、 いえ、 それは私も初めて聞きました」
「と言うか無神論者なんて居たのか・・・」
「・・・・・ヨーロッパでは信教の自由を許されていたとお聞きしましたが?」
「い、 いや、 失礼、 しかしながらそんな様子は見られませんでしたが・・・」
「そもそも弁護士先生、 貴方は代理人弁護士と仰っていましたが
具体的にどんな事をなさっていたのですか?」
「ベネルクス王国への帰化と遺言書の作成と内容の実行です」
「良く金が有りましたね、 てっきり乞食にでもなっていたかと」
ディーバが息子をはたく。
「シンバル!! お父さんに何を言うの!!」
「俺と母さんを捨てた奴なんかどうだって良いだろう!!」
「お二人さん、 一旦止めてくれよ」
二人を制止するダイモス。
「アサフさんの事が嫌いならば
とっとと葬式終わらせて帰った方が良い、 だろ?」
「・・・・・さっさと始めてくれ牧師さん」
「はい」
牧師が鎮魂の祈りを捧げ葬式は無事終了した。
「では私はこれで」
牧師はぺこりと頭を下げて立ち去った。
「じゃあ、 リガルさん、 俺達も帰るか?」
「いえ」
静止するリガル。
「実は遺言書には続きが有るんです」
「「「続き?」」」
困惑する3人。
「遺産についてです」
「遺産・・・・・?」
「あるのか!?」
シンバルが目を輝かせる。
「えぇ、 遺産の受取人はシンバルさん、 ディーバさん、 そしてダイモスさん
3人で話し合って決めて貰いたいとの事です」
「は? このチンピラも?」
怪訝な顔をするシンバル。
「確かに俺に受け取る権利は有るのか?
と言うかそもそも遺産有るのかよ」
「遺産は三つです」
そう言うとリガルは鞄から三つの物を取り出した。
一つは袋。
一つは本、 鍵がかかっており厳重に保管されている。
一つは箱である、 こちらにも鍵がかかっており厳重に保管されている。
「あ、 その箱は・・・」
ディーバが声を挙げる。
「如何しました?」
「い、 いえ・・・・・」
「鍵がかかっているけども鍵は有るのか?」
シンバルが尋ねる。
「本の方の鍵は預かっています、 しかし箱の鍵は知りません」
「袋の中身は?」
「5万ユーロ、 私の弁護士費用や葬儀費用
足代や宿泊費を引いた額になります。」
「じゃあ5万を3等分にすれば良いんじゃねぇの?」
ダイモスが提案する。
「ちょっと待て、 俺と母さんは分かる、 しかしお前は他人だから
財産を相続する権利は無いだろう」
「いえ、 遺言書に書いてありますし問題は有りませんよ」
リガルの言葉に舌打ちをする。
「じゃあ慰謝料として持って行く」
「慰謝料って何だよ」
「俺と母さんに対する慰謝料だ、 アサフは俺達家族を捨てて行ったんだ
だからそれに対して迷惑料として慰謝料を請求する」
「・・・・・」
険しい顔になるダイモス。
「アサフは少し気が違っている所が有ったがそんな事をする外道には見えなかったぞ」
「気が違っている? 確かに家族を置いて出て行ったのだから頭がイカレているのは
確かだろうな」
ダイモスとシンバルを引っぱたくディーバ。
「・・・ごめんなさい、 引っぱたいて」
ダイモスに謝罪するディーバ。
「いや、 亭主が気が狂っているとか言われたら誰だって怒るよ
俺も気遣いが出来てなかった、 だが正直に言うと
俺はアサフに対して殆ど何も知らなかったから説明して貰えると助かる」
「ならば教えてやるよ、 俺達の苦労とアサフの半生を」
語り始めるシンバルだった。




