表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

251/479

ドランク・カンニング

ベネルクス貴族会館での記者会見を終えた記者と財界人達はそれぞれ出て行った。


「訳が分からんな」

「だな、 民営の刑務所なんて代物で如何やって利潤を出すんだ?」

「お上や投資した金で安く飯を拵えるとかか?」

「刑務作業で農業に従事とか言っていたしなぁ・・・」


記者達は各々話し合っていた。


「新手のサステナブル投資※1 か?」



※1:市場メカニズムを通じ株主がその立場・権利を行使して

経営陣に対して企業の社会的責任に配慮した持続可能な経営を求めていく投資。

社会的責任の評価基準の例としては法令順守や労働等組織内の問題に加え

健康や安全という人命に関わるものや教育、 福祉、 人権、 雇用などの

社会生活上必要不可欠な物、 環境、 地域など恒常的な物など

様々な社会的事項への対応や積極的活動が挙げられる。

今回の株式会社アルベドの場合は教育、 福祉、 雇用を満たせると推測される。



(アルベド)と関するからそういう意味合いも有るだろうが

ポンとあんな大金出すか?」

「カロリング女史との繋がりが欲しかったからでは?」

「あの方は正に経済界のナポレオン、 確かに繋がりは欲しい」

「しかしながら経済界のもう一人の重鎮

カリオストロは寧ろヴァイスファンド※2 に舵きりしそうだが」



※2:社会通念上、 不道徳とされる業種に投資をする企業。

ここで言う不道徳とは非合法では無く

合法的な酒、 煙草、 ギャンブル、 武器類を指す。



「まぁカリオストロ殿は・・・なぁ?」

「確かに信用のおけない人物ではあるが・・・金儲けの才は有るぞ」

「しかし信用が置けない奴とは組みたくない」

「だがカロリング女史との・・・」


記者達は口論を始める脇を通るオーガスタス。


「オーガスタスさんは如何思う?」

「何が?」

「いや、 だから何で皆あんなに投資するかって話」

「知らんな、 経済記者に考えさせろ」


スタスタと去っていくオーガスタス。


「何だあの爺さん」

「ゴシップ以外興味無いのか?」


記者達は悪態を吐いていた。





「あぁ、 ちょっとそこのお兄さん、 ちょっと良いかね?」

「?」


馬車を乗る所をオーガスタスに呼び止められるハーバード。


「私デスか?」

「そうそう、 少し良いかね? アメリカの事情をちょっと聴きたくてね

一杯奢るよ」

「社長さんに誘われてはしかたないデスね」


ハーバードとオーガスタスは外側(アウター)エリアのバーにやって来た。

ボトルキープしている酒を二人で呑み合う。


「良い酒デスねぇ」

「経費だから好きな物を頼める」

「羨ましい限りデスねぇ、 しかしながら職権乱用では?」

「リターンを得られれば問題は無い」

「リターンを得られると?」

「無論、 今回の会見、 と言うか株式の売買では

アメリカを始めとした外国企業の反応が良かった、 つまりは

アメリカ人に聞くのが手っ取り早い

少なくとも記者共が井戸端会議※3 に興じるよりは良いだろう」



※3:女たちが共同井戸に集まり世間話や噂話に興じたさま。

主婦同士などによる世間話のこと、 ゲーテのファウストにも書かれている。



「貴方、 テストではカンニングするタイプデスか?」

「答えを見るのが手っ取り早い」

「嘘だったらどうします?」

「無論精査はするさ」


ふっ、 と軽く笑うハーバード。


「・・・ベネルクス王国では民営刑務所は無いのデスか?」

「無いな、 アメリカには有るのか?」

「えぇ、 結構ありますが、 近々無くなるんじゃないかって話デスよ」

「ほう、 何故だ?」

「エゲツネェからデス、 刑務所は囚人たちを安くこき使えます

まぁ刑務所なんで刑罰を与えるから間違ってはないんデスけどね

鬼のコストカット連打で大幅に運営費を浮かせて利潤を得ます」

「コストカット? 例えば?」

「刑務官は最低賃金のアルバイトで数も足りない、 基本的に囚人は大部屋で管理

いざという時は刑務官諸共催涙ガスで鎮圧、 医療費がかかるから傷も手当は無し

自傷行為は直して治療費を請求」

「鬼だな」

「そもそも三振法って言う、 3回罪を犯したら終身刑って言うえげつない法律もあるから

それとのコンボで永久的且つ合法的な奴隷の完成って事です

囚人が足りない時は国からの保証金も出ます」

「・・・・・そりゃあ無くなって当然とも思うが

3回も罪を犯すならば当人か、 社会に問題が有るんじゃないのか?」

「あっちはホームレスってだけでも罪になりますから」

「厳しい判定だ、 貧困は罪なのか?」

「さぁ・・・先も言いましたが流石にそれは無いだろうとなりまして

廃止されるだろうと見方です、 近年の奴隷廃止運動は世界中を駆け巡っていますから」

「ベネルクス王国は奴隷廃止の本場(・・)

合法的とは言え、 陛下がお許しになるのか怪しいが・・・」


民部大臣があの会見の場に居た事を考えると事の顛末は

ベネルクス95世の耳にも入っている事だろう。


「・・・・・あの話では分からない事が多過ぎる

ここは情報公開(答え合わせ)を待つだけだな」

「デスネー、 つまみも注文していいデスか?」

「良いぞ、 じゃあスモーク・ジャーキーでも頼もう」

「良いデスネー」


画して一人の老人と男の酒盛りは続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ