ヴィジテング・ア・グレイヴ
再誕歴7702年ディセンバー24日。
ベネルクス王国ヴェルギウス公爵領のヴェルギウス公爵の本邸の大広間にて
集まるヴェルギウス公爵門閥貴族と子息達。
今日は聖夜祭※1 である。
※1:教会の祝日だが、 今や常識なので無宗教の者達も祝っている。
ヴェルギウス公爵門閥貴族達と子息達は聖夜祭の際にはこうして集まりパーティを開いている。
「ヴェルギウス公爵!! 御入来です!!」
ヴェルギウス公爵長女マリアが公爵の到着を伝える。
談笑していた貴族達は一斉に鎮まりヴェルギウス公爵を見る。
ヴェルギウス公爵はベネルクス王国貴族の中でも最高齢である
その為、 普段は車椅子で生活をしている。
車椅子を押しているのは次女のマリアンである。
ヴェルギウス公爵はホールの中心に来ると立ち上がった。
「・・・今年も諸君等と過ごせてとても嬉しいよ、 今日は楽しんで行ってくれ」
ヴェルギウス公爵はグラスを受取り掲げる。
「乾杯」
「「「「「「「乾杯!!!!!」」」」」」」
乾杯の音頭の後に脇に掃けるヴェルギウス公爵。
「父上、 今年もご健勝※2 そうで何より」
※2:体に悪いところがなく健康な事。
マイルズが挨拶をする。
「ん? お前は・・・」
「五男のマイルズ」
マリアンがヴェルギウスに耳打ちをする。
「五男? 長男~四男は如何した? 挨拶は年長順の筈だが?」
「長男、 三男は既にお亡くなりになっています、 四男は仕事でアメリカに・・・」
「次男は?」
「入院中です」
「あぁ、 そうだったか、 最近物忘れが酷くなっているなぁ・・・
これはいかんなぁ・・・・・」
門閥貴族達は『良く言うよ、 この糞爺』と思っている。
長男のマイマイは320歳で大往生と言っても差し支えない死を遂げ
次男のマイコーは老化による病で何時死ぬかもしれない状況
三男のマイクは何時までも長生きしているヴェルギウスを殺してしまおうと企んだが逆に討たれる始末。
本当に不死身ではないのか、 と疑われてすらおり
影武者じゃないのかと言う陰謀論が10年に一度は出ている。
「所で手柄を立てたマイケルが不在の様ですが・・・」
「奴なら他に用事が有るらしい」
「まぁ、 父上のパーティーをほったらかして他の用事とは・・・偉くなりましたな」
「・・・・・は?」
ヴェルギウスはグラスを落とした。
「・・・何だっけ、 名前」
「マイケルですか?」
「お前の名前だよ」
「ま、 マイルズですよ」
「ふむ、 マイルズ、 マイケルは先んじてワシに断りを入れてワシはそれを認めた
それに関して偉くなりましたな? ワシが認めたんじゃぞ? 何だ?
ワシの判断に誤りはあるのか?」
「い、 いえいえ!! その様な事はございません!!」
マイルズは慌てて跪き頭を下げる。
「分かれば宜しい」
ヴェルギウスの言葉に安堵するマイルズ。
「しかしマイケル様ご不在とは・・・婦女子が悲しみましょうな!!」
門閥貴族の1人が発言する。
「ふむ、 確かに、 今度茶会にでも呼んでやってくれ」
「はは!!」
こうしてパーティは続いて行った。
同時刻、 ルーマニア連合、 イリ―男爵領リーガルズ村。
「旦那ぁ、 着きましたぜぇ」
「うん、 待ってろ」
村の一角で馬車から降りるマイケル、 手にはバスケットを持っている。
「えーっと、 ここか」
暫く探した後に彼は目当ての物を見つけた。
そしてバスケットからやかんを取り出した。
着火剤にやかんを置いて火をつけて温めてお湯になるのを待ちながら
コーヒーミルでコーヒー豆を擦る。
「そこそこ重労働、 って程でも無いが子供にこれをさせるのはちょっと酷じゃないか?」
やかんが鳴った所で火から卸し、 擦った豆をフィルターにかけてドリップする。
ドリップして2つのカップにそれぞれコーヒーを注ぐ。
1つは自分に、 もう1つは墓前に置く。
「”コーヒーと家族を愛した快男児、 フランチェスコ・イリー、 ここに眠る”
良い墓碑銘じゃないか」
墓の中で眠るフランチェスコに笑うマイケル。
「コゾナックが無いのが残念だが・・・?」
一人の女がこちらに歩いて来る。
「・・・・・」
若い女性だがマイケルよりも年上に見える。
彼女もバスケットを持って来ている。
「・・・・・」
女性はバスケットを置いてナイフを取り出して焼き菓子を取り出して切り分けた。
スッ、 と一切れマイケルに渡してもう一切れを墓前に供えた。
「・・・・・」
マイケルは受け取って食べる。
「旨いですな」
「弟も好きだったわ」
女性は立ち上がった。
「こんな日なのに弟の墓参りに来て下さりありがとうございます」
「約束を果たせなかったからせめてと思いまして、 お気になさらず」
「約束?」
「年を取ったら若い頃の思い出を語り合いながら
クリスマスにウチに来て一緒にコゾナックとコーヒーでも、 と言われましてね」
「・・・・・」
コーヒーとコゾナックを食べ終えたマイケルは立ち上がった。
「あの、 良かったらウチに・・・」
「いえ、 馬車を待たせていますので」
マイケルは亡き部下を思い涙を流してその場を立ち去ったのだった。




