フォファウェル
「・・・・・聞き違いかな? 『有ります?』と言ったのかね?」
ベネルクス95世はにこやかに聞き直した。
「はい」
「・・・・・ベルモンド伯爵の娘がベネルクス王国の王に対して疑うと?」
「はい、 今回はあからさまに不審な点がありましたので
むしろ聞かない方が不敬だと判断しました」
「あからさま? 何処か可笑しい所有ったのかね?」
「はい、 今回、 陛下はスターダスト評議国を助けようとしています
そして陛下はスターダストにあまり良い心象を抱いておられない」
「確かに、 嫌いと言い換えても良いですね
ですが見殺すほどではありません」
「しかしながら陛下は以前ドラゴヴァニアを見殺したではありませんか」
「・・・・・仮想敵国と言って良い国ですので、 寧ろ助ける選択肢はありませんよ」
「外交官スプリングと家族を助けていたのにそれは通らないのでは?
何より陛下、 顔に出ていますよ」
「・・・・・・・・・・流石はベルモンド家の娘ですね、 機微に気が付く」
ふぅ、 と溜息を吐くベルモンド95世。
「ならば白状しますね、 こちらの目的はエメラルドタブレットです」
「さっき言っていた文書ですね」
「正直に言ってしまえば、 この文書の内容は分かっています」
「それは一体?」
「詳しい内容は分かりません、 しかしながらヨーロッパ連合の機密事項には
エーテルの効率的な運用方法が書かれているとされます」
改めて開設するとエーテルとは大気中に存在する微細なエネルギーである。
チャプター3:キル・トゥー・バード・ウィズ・ワン・ストーンの
【ホープ・フォー・アン・オーバーヴェルミング・ヴィクトリー】にて解説されているが
未だにエーテルを活用する技術は未発達でありエネルギーコストはゼロだが
恐ろしく高額且つ精密性が高く、 一般化には程遠い。
「・・・!!」
フェザーとサンがどっと汗が噴き出した。
無理もない、 無限のエネルギーを自由に使えると言う事は無限の金を自由に使えると言う事に等しい。
「いや、 待って、 ありえない、 そんな事が出来るのならば
隕石なんて簡単に消せる筈」
サンが慌てて否定する。
「慌てるなエーテルの効率的な運用方法とは言ったがあくまで効率的な運用と言うだけであって
無限エーテルによる破壊兵器、 とかは実現は出来ないと言うのが一般的だ
無限の力に耐え切れる物質は現在発見されていないからな
恐らくは無限から少しずつエネルギーを効率良く取り出して入れ物に入れ替えると言う様な事だろう」
「それでも脅威ですよ、 木炭を無限に作れるみたいな事ですよね?」
「そうなるな、 油や炭がエーテルに取って代わられる未来が来るかもしれない
だがまずはその知識を確保しなければ話にならない」
「だとしたら尚更そんな危険な事にフェザーは出せませんね」
サンはきっぱりと言い放った。
「何も盗み出せと言っている訳では無い
エメラルドタブレットはその名の通りエメラルドで出来ている
複写して来て貰うだけで充分、 複写した後でヨーロッパ連合に渡せば良い」
「それでもリスクがある」
「・・・・・」
にこぉと笑うベネルクス95世。
「既にリスクは背負わされている
この情報を知っているだけでも貴女達は大ピンチって訳だよ」
「っ!! 汚いのではありませんか!?」
「それも百も承知、 何としてでもエメラルドタブレットは手に入れておきたいのよ」
「・・・・・ならフェザーだけにさせられません、 私も行きます」
「それは目立ちすぎるから駄目」
ガタッと立ち上がるサン。
慌ててフェザーが前に出る。
「陛下、 貴女の気持ちは良く分かりました、 お受け致します」
「本当に申し訳無い」
頭を下げるベネルクス95世。
「しかし今回の貴女のやり方は卑劣極まりない事です」
「私が一番分かっている、 しかしながら忘れない事ね
私は穏便に隠しておきたかったのにサン伯爵令嬢が首を突っ込んで来たのが悪いのよ」
ベネルクス95世は食い下がった。
「陛下・・・貴女とはいい関係が築けていたと思っていましたが・・・残念です」
「っ!!」
ベネルクス95世が立ち上がりフェザーの首根っこを掴む。
「私が!! 私がどれだけ!! どれだけ君を求めていたのか!! 分からないのか!!」
涙を流しながらもベネルクス95世は叫ぶ。
「君が傍に居てくれればと何度思ったか!! それなのに君はこんなポッと出の女の元に行くなんて!!」
まるでか弱い少女の様に嗚咽を吐きながらフェザーの胸で泣きじゃくるベネルクス95世。
「・・・・・」
暫くすると収まりフェザーの元から離れるベネルクス95世。
「フェザー卿が不在の時はサン伯爵令嬢の護衛としてダッチマンを置いて行きましょう
ご不満は有りますか?」
少女の様な様相から一転して支配者の様相になったベネルクス95世が問う。
「・・・・・かしこ参りました陛下」
「よろしい」
ベネルクス95世は振り返らずに邸のドアを開けて去っていった。




