ホープ・フォー・アン・オーバーヴェルミング・ヴィクトリー
ジャンが借りて来た重キャリッジでセルデン侯爵領へと移動中のフェザー一行。
「馬車と言うよりまるで小さなお屋敷ですねぇ!!」
フローラははしゃいでいた。
「・・・・・はぁ・・・」
反面、 サンは溜息を吐いていた。
ジャンが借りて来たキャリッジは快適だった。
片道1万ユーロは伊達では無い。
ここでセレブリティの読者諸賢には分かり切った事だと思うが
1万ユーロ、 つまり100万円のレンタカーとは一体どの程度のレベルかを説明させて貰おう。
まずは比較対象としてリムジンをレンタルする場合は幾らになるのか
筆者調べだと車種にもよって変動するが、 大体10~11万円になるらしい。
では対して重キャリッジは如何だろうか街の外と言う危険な場所を移動している為
危険な場所の走行費として20万としよう、 それでも両者には70万円の差が発生する。
リムジンよりも70万円も上の価値があるのか?
あるのである。
「何か飲みますか御嬢様ー」
まずは飲食物完備。
酒類は勿論、 肉類や魚等の食べ物、 野菜も充実。
非常用の食料も一週間は備え付けてある。
「うわぁ、 ケーキとかクッキーもありますよ」
当然ながら菓子も完備してある。
良い所の商品である。
「冷たっ、 冷えてますし飲みましょうよー」
圧縮型エーテル冷蔵庫※1 も備え付けており食品が腐る心配はない。
※1:大気中に存在するエーテルと呼ばれる微細なエネルギーを圧縮し
燃料として動く冷蔵庫、 そこそこ高価だが動作に必要なエネルギーコストがゼロなので
コストパフォーマンスは高い。
「・・・・・過ぎて聞こえない」
「はい?」
「遠すぎて聞こえないのよ!!」
そして何と言っても広さ。
座る為の座席は20席、 トイレ風呂脱衣所完備。
キッチンも備え付け、 ベッドもキングサイズが二つ。
ゴルフの打ちっぱなし、 テニスコートに卓球台も備え付けている。
「なぁんであの馬鹿はこんなに広い馬車を借りて来たのかしら・・・」
サンは不機嫌になっている。
サンは狭い馬車の中でフェザーと密着したかったのだが。
こんなに広いと寧ろ寂しくなる、 人が多いのに孤独な都会の喧騒の様だ。
「確かにお気持ちは分かります」
「クローリス・・・」
クローリスがサンの隣に座ったので即座に距離を置くサン。
「フェザーさんは集中する為に瞑想をしていますので邪魔をしてはいけない」
サンとの距離を詰めるクローリス。
「ですがフェザーさんが構ってくれなくて寂しい」
クローリスとの距離を放すサン。
「そういう時の解決法は一つだけですよ」
「・・・何よ」
酒瓶を取り出すクローリス。
「呑みましょう」
「呑まないわよ!!」
そんなこんなをしながら数時間が経過した。
横になって瞑想していた※2 フェザーが起き上がる。
※2:昼寝ではない、 断じて。
「おはようございます」
サンに声をかけるフェザー。
「寝てたの?」
「瞑想してました」
「いや、 でも今おはようございますって」
「瞑想です」
「あ、 っそ・・・メイド共も暇だからテニスやって風呂入ってるわ
座りなさいな」
「はい」
サンの正面に座るフェザー。
「何で正面に座るのよ、 横でしょ普通」
「普通正面だと思いますが・・・」
サンの横に座るフェザー、 座った瞬間に腕を絡めるサン。
「ここでコーデですか?」
「良いじゃない、 S級決闘者と腕組むって中々に貴重な体験だと思うわよ?
それに結構良い腕だと思うわ、 抱き心地がいい」
「はぁ・・・」
「筋肉質だけど、 何と言うか過剰な男らしさが無いのだステキ」
「誉め言葉だと思っておきますよ」
「うん、 所で今回の決闘の相手、 如何思う?
A級を瞬殺とか言っていたけども・・・」
「そう言う事を言う奴は結構居ますが大した事無いですよ
それよりも問題はコロシアムで戦うと言う事です」
「どういう事?」
「ショービズ※3 の側面が強くなっていると言う事です」
※3:ショービジネスの略。
芸能や見世物の類。
「・・・それって悪い事なの?」
「やや難しい、 盛り上げる必要が有るかと」
フェザーの言葉を聞いて少し考えるサン。
「・・・何で?」
「コロシアムと言う事は観客がお金を払って見に来ているのに
あっさり勝ってしまっては申し訳が無いかと・・・」
「・・・・・いやいやいや、 別にそれを気にする事は無いんじゃないの?」
「いやがっかりするでしょう」
「・・・フェザー、 観客よりも貴方は私付の執事
私の事を第一に考えなさい」
「ロメロ・スペシャル※4 を叩き込んでやります」
※4:ロメロと言う偉大な戦士が編み出した技。
俯せになった相手を下から拘束して痛めつける。
「何でロメロ・スペシャル?
技には拘りが無いわよ、 魅せ方を気にせずさっさと勝って来なさい」
「分かりました」
そうこうしている内にセルデン侯爵領に辿り着いたのだった。




