ウルフ・テイル③
カレーでの戦いにおいて、 まさかの敗北の切欠を作った【餓狼剣】。
ヨーロッパ戦役終了後に認可取り消しは確実。
更に何か罰則が与えられる事は必定と言う状況に追い込まれる。
この状況に置いて四狼街に残っていた
ノーイヤー、 ハルベットフーケの二人は
ベネルクス王国自体に対し著しい反感を抱いていたが
自身の父、 師匠を殺したハウリングドッグが捕縛された事を知って
チャンスと思い立った。
ハウリングドッグが捕まったのならば必然的に【餓狼剣】を牛耳れる事になる。
ここで自分達が功績を挙げればお咎め無しにまで持っていけるだろう。
お咎め無しの【餓狼剣】を自分達が導くのだ。
こんな単純な考えで彼等は行動を開始した。
彼等が選んだ12名の精鋭を連れて行動を開始したのだった。
結果として彼等は功績を挙げる事が出来た。
王都ブリュッセル戦にて
”破滅の星”スターゲイジー、 ”偽りの煙”キッパー、 ”午後の恐竜”アフタヌーン。
人外の怪物と称されたこれらの武芸者を倒す事に成功した。
しかしながら犠牲は大きく、 ノーイヤー、 ハルベットフーケは討ち死に。
更に生き残った精鋭は4人のみ、 その内、 二人は再起不能になった。
この大殊勲によりカレーでの敗戦は帳消しとなったが
【餓狼剣】は余りにも大きな痛手を被ってしまった。
過半数を超える剣士達の死亡、 逮捕。
四狼全員の死亡、 逮捕。
武術省の規定により犯罪歴のある者は武術省認定の武術の流派には入れないので
実質的な【餓狼剣】の過半数と四狼の無力化である。
これには【餓狼剣】も不味い状況だと認識が出来た。
武術省の援助金も出始めたが立て直しはかなり厳しい状態になった。
王都ブリュッセル戦の功績はカレーでの敗戦と相殺された事に
怒る者も居り、 ベネルクス王国に愛想を尽かして出て行った者も大勢居たのだった。
状況は最悪だったが何とか立て直そうと懸命に試みた。
新しく四狼を決め直した。
前四狼ハウリングドッグの息子にして王都ブリュッセル戦の生き残りストレイドッグ。
王都ブリュッセル戦の生き残りにして四狼の紅一点ノスル。
非戦派として四狼街にずっといたハーミット。
ハルベットフーケの相棒で彼が自分を差し置いて
四狼になったので腹を立てて距離を取っていたが
非常事態に成ったので戻って来たビッグジョイ。
この四人で何とか立て直しを図ろうと試みたのだった。
まず何よりも自分達には学が足りていないと感じストレイドッグは
当時ベネルクス王国最高学府だったヘント大学に入学。
死にかけながらも全力で勉学に励み
僅か5年にも満たない時間で全力でカリキュラムを消化し飛び級で卒業した。
学位と教員免許も取得した事により文字の読み書き等も教えられ
これでやっと四狼街も近代化と思った矢先にノスルが待ったをかける。
『勉強をしている暇が有るのならばもっと剣術に磨きをかけて
強くなった方が餓狼剣の再建の一助になる
我々の邪魔をするな』とストレイドッグの提案を一蹴した。
ヘント大学の入学と教員免許の取得には好意的だったはずの四狼も
何故か掌を返したかのように冷遇する。
実はハーミットとビッグジョイは
餓狼剣の看板を使って一儲けしようと企んでいたのだった。
元々ハーミットは四狼街で生まれて剣士として各地を巡っている中で
『自分はもっと贅沢をしても良いのではないか?』と思っていたのだ。
ビッグジョイも色々言っていたが『自分はもっと高い位置にいるべき男だ』
と思っており、 両者は結託した。
結託した彼等は如何にかして行動に移したかったが
他の四狼の二人が邪魔だった、 何とかしようと思っていた矢先に
ストレイドッグはヘント大学に入学。
彼等二人は表向きは喜んで大学入学を応援するも
内心では邪魔者が居なくなったと喜んでいた。
そして居なくなっていた隙にノスルを言い包めて自分達の言いなりにする事に成功。
後はストレイドッグの行動を封じるのだった。
ハーミットとビッグジョイがまず始めた事は餓狼剣の門戸を広げ
多くの門下生を得る事である、 入門費として多額の金銭を要求し
日々の月謝も要求すると言う剣術道場の様な事を始めたのだった。
因みに今までの【餓狼剣】の運営方針はまず入門者は適性を調べて
不適正ならば追い出し、 適正のある者は修行を行い
一人前になった時に決闘代行や狩り、 犯罪者討伐の賞金稼ぎを行っていた。
通常の武芸流派ならば武芸者としての職業以外にも他に職業を持っていたのだが
【餓狼剣】は本当に剣術以外は何も出来ない連中なので武芸者としてしか生きて来なかった。
ハーミットとビッグジョイの改革により多くの門下生が入って来たが
修行を監督する師範の様な立ち位置の人間が少なかった為
指導はまるで上手く行かなかった。
しかしながら【ベネルクス神武五流派】の看板を持つ流派に入りたがる者は多く
修行と称した雑用の割り振り等、 金を貰って奴隷にすると揶揄される位に堕落していった。
また金次第で流派を修めたという証明書迄書いていたのだから驚きである。
ハーミットとビッグジョイは多額の資金を得る事が出来たが
これで終わりでは無かった。
まだ【餓狼剣】に関する話は続くのだ。




