モロス・セイバーダー
再誕歴7702年エイプリル1日。
「はぁ? エイプリルフール※1 か何か?」
※1:エイプリルが始まる日に嘘を吐いても良いとする風習。
一体何でこんな催しが始まっているのか期限すら不明である。
ハウバリン公爵門閥セイバーダー子爵領、 四狼街。
代官である騎士ストレイドッグの邸の客間にてセイバーダー子爵が
非情に態度が悪い姿勢でソファに座り、 苛立ちながら聞き返した。
「い、 いえ、 閣下、 それが事実でして・・・」
騎士ストレイドッグは汗を流しながら否定した。
「おーかーしーいーだーろー? どーなってーんだーよ?」
ストレイドッグに思い切り顔を近づけながら詰問するセイバーダー。
「本当に申し訳ありません、 他の連中が急に嫌だと」
「急に嫌だとじゃねぇよ、 もう同意書にはサインしたんだろ?」
「えぇ、 ちゃんとしてありますが、 『思ったのと違う』とか文句を言い始めて・・・」
「流石は餓狼剣!! 噂に違わぬクズの集まりだな!!」
「本当にお恥ずかしい事です・・・」
「マジで恥ずかしいよ、 もう本当に、 俺さぁ餓狼剣は結構優遇してたじゃんか
武術省に認可取り消しになりそうな時も俺が頼み込んだりしてさぁ
俺がいなけりゃあお前等なんぞただのゴロツキになってたんだぞ?
そこんとこ分かってる?」
「わ、 分かっております」
「分かってねぇよ!!」
どがっ、 と座っていたソファを転がして立ち上がるセイバーダー。
「今時剣しか取り柄が無いって奴も文字位は読めるのに
お前等は文字すら読めないって如何言う事だよ!!
義務教育ちゃんとしろって俺は公爵様から直でキれられて
お前達に指導したら、 今度は出生届けすら誤魔化し始めやがった!!
勉強しろよなんて餓鬼に親が言う台詞だろうが!!
何で俺が赤の他人のお前達に言わなきゃならねぇ!!
挙句の果てには奴隷制度までやらかしてやがる!!
ガチ粛清一歩手前だったんだぞ!!
俺がお前の師匠処刑しなきゃあこの街は破滅だったんだ!!」
「何もかもが閣下の仰る通りです、 連中にも言ったのですが
全く聞き入れて貰えず・・・」
「代官の言葉を無視する領民なんざぶち殺せよ!!」
「私よりも強いんです・・・四狼最弱の私では・・・」
「最弱云々言ってんじゃねぇよ!! つーか政治に強さなんぞ関係ねぇだろうが!!
一番強い奴が政治を収めるとかどんな絶望郷だ!!」
ぜーぜーと息を切らすセイバーダー。
「最悪、 この街全部焼き払っておしまいにしてもいいんだぞ?」
「そ、 それだけは御容赦を!!」
「俺だってそんな事したくねぇよ!! 何でこんなヴァカみたいな事になってんだ!!」
とんとん、 と客間のドアがノックされる。
「誰だ?」
「ご主人様、 御客様です」
「きゃ、 客? 今、 子爵様がいらっしゃっているのだが・・・」
「俺が呼んだんだよ、 入って貰え」
「あ、 は、 入って貰って!!」
「かしこ参りました」
客間の外に待っていたのはツゴモリと付き人のクラブ
そしてカロリングとカリオストロ、 そしてスーツを着た男だった。
「どうも初めまして、 セイバーダー子爵と代官のストレイドッグ様
ツゴモリ・コングロマリット代表取締役ツゴモリ・ミソカです
こちら名刺になります」
「おう」
名刺を受取るセイバーダーとストレイドッグ。
「旧ハートレス領の領地管理をさせて頂いていますカロリングです」
「ベネルクス・グローバリゼーション・カンパニーのカリオストロです」
「道路省の区画整備班班長のドーデスカです・・・
今回はちょっとトラブルが有ったとお聞きしましたが・・・」
「え、 えぇ、 実は・・・その・・・」
「・・・っち、 この街の有力者が土壇場でゴネ始めやがったんだ」
「ゴネ始めた?」
「・・・・・」
「はぁ?」
「ど、 どういう事ですか!? 一体!?」
「俺様も聞きたいなぁ~~~~~」
「!?」
セイバーダーが自分の獲物の双頭槍を咄嗟に構える。
「何でここに来ている?」
「いやぁー、 俺様の出番かなと思ってな」
遅れて入って来たチーズを睨むセイバーダー。
「チーズ、 アンタは本当に・・・」
「へいへい、 俺様がわるーござんした」
ツゴモリの指摘にへらへらとやり過ごすチーズ。
「で、 俺様が地上げにゴネている連中を決闘で追い出せば良いって話か?」
「違ぇよ、 ツゴモリさんよぉ、 ここにアンタを呼んだのは
アンタの所の弁護士を紹介して欲しいって話なんだよ
今回の一件は俺達は何も法律を犯しちゃいねぇ、 寧ろ連中が勝手に騒いでるって話だ」
「弁護士で裁判をするよりも決闘で解決した方が速いですよ」
「餓狼剣に勝てる決闘者を雇うのは金がかかるぞ」
「其方は全て此方が用意しますよ、 その代わり早急な改修作業をお願いします」
「・・・・・想像以上に気前が良いな、 餓狼剣の四狼相手に勝てる相手は
A級決闘者の上澄みでもキツイだろう」
「S級のチーズが居ますよ」
「俺様がやんのぉ? マジで? この街ってそんなに価値あんのかよ?」
「ちょっと待て」
カリオストロが割って入る。
「チーズ、 君はひょっとして現状を何も理解していない?」
「別に戦う相手さえ知っていれば良いだろう」
「話を聞いていないのか、 呆れるよ」
「どーせタダの地上げだろ?」
「違うわっ!!」
セイバーダーが叫ぶ。
「一旦説明するぞ、 この四狼街が如何なっているのかを!!」




