ファイナル・マジック
再誕歴7702年ジュニアリー6日。
セイバーダー子爵領のとある街道から離れた場所で馬車が横転していた。
「・・・誰か生きているか?」
共和平等団体【I,m Intelligence】書記長ナゾライズが
横転した馬車に足を挟まれながら声を上げた。
「ここに・・・」
ふらふらと頭から血を流している魔法使いが現れた。
「【Avenger wise man】の魔法使いか、 他の連中は?」
「馬車から離れて皆強風に飛ばされたよ、 全員死んだな」
「ちぃ・・・使えん」
ナゾライズが悪態を吐く。
「アンタ、 魔法使いだろ?」
「鉄板を熱する位の炎魔法しか使えん」
「マジで使えねぇな・・・抗議活動に魔法は必要無いからサボっていたか?」
「いや、 そもそも才能が無いんだよ、 俺の家系は元々」
「身の上話は良い、 それよりも何で馬車が横転したか、 だ
横転する前に何かバキッ、 っていってなかった?」
「確かに聞こえた・・・かも?」
「何か仕込まれた、 かもしれねぇ」
「仕込まれた? でもこの馬車は公爵が用意して」
「その公爵が俺達を殺そうとしたら?」
「・・・・・」
魔法使いはへたり込む。
「あ、 ありえない」
「いや、 活動団体はベネルクスには多々有る
民部大臣からの支援をより多く獲得する為に他の団体を潰す
と言う事もやりかねないだろう」
「我々は人々の為に戦っているのでは無いのですか!?
それなのに・・・」
魔法使いははぁはぁ・・・と倒れそうになる。
「かなり強く打ったみたいだな」
「私、 死ぬんですか?」
「かもな、 どうか走らないが、 ここでこうしていても仕方ない
強風が吹いているが、 這って街道迄行けるだろう」
「無理です」
「何で?」
「こんなに暗いんじゃあ何処が街道か分かりません」
今は昼前、 明るい時間帯である。
「・・・・・そうか、 なら仕方ない鉄板を熱すると言ったが肉は焼けるか?」
「まぁそれ位なら出来ますが」
「じゃあこの馬車の天蓋を熱して置いてくれ」
「構いませんが、 如何するんですか?」
「・・・・・」
ナゾライズは自分のベルトを外して挟まっている足を縛った。
次にタオルを口に銜えた。
何処のホテルから持って来た代物である。
「ふー・・・ふー・・・」
ナゾライズはこれまでの半生を振り返っていた。
良い大学を出たが就職に失敗し奨学金が残った自分達は
真っ当に生きていてはいけないと思った。
情報を集めた結果、 詐欺師に成ろうと思ったが
ナゼラルズの勧めで彼と共に活動家になった。
互いに協力しながら組織の上の人間をどんどん追い払って
一端の団体を手に入れる事が出来た、 そして下から金を集めてどんどん貯えた。
今回の一件で大チャンスと思ったが嵌められた。
まだまだ銀行口座に金はたんまりと有るのだ、 ここで失う訳にはいかない!!
ナゾライズは護身用のナイフで足を切り始めた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!」
「ちょ、 ちょっと!?」
ナイフは良い物を使っているから斬り易いが
自分の足を切るのは流石にきつかった、 しかしやらねばならぬ、 と渾身の力で斬った。
「はああああああああああああああああああ!!!!!!」
千切れた足から血が流れる、 そして熱された天蓋に切った切断面を付ける。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ひぃ・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫なわきゃねぇだろおおおおおおおおおおおおお!!!!」
絶叫しながらも焼き切って出血は止めた。
「じゃあ俺は行く・・・お前は待ってろ」
「は、 はい・・・よろしくお願いします・・・」
ナゾライズは魔法使いの顔を見た。
頭から流れる血は予想以上に多く、 顔は白く
唇も蒼褪め、 目の焦点も有っていない。
「・・・・・」
ナゾライズは這いながら街道に向かった。
あの魔法使いは多分死ぬだろう、 だがそれを無視してナゾライズは進んだ。
共和だの、 平等だの言っているが目的は金である。
人を騙して金を奪っている、 下は金を捻出する為に自分のガキの飯すら
我慢させている、 今更一人見殺しにする位何ともない。
そう思いながら街道に向かった。
「っ・・・」
風が強い、 この暴風によって多くの人々が毎年死ぬのだ。
自分も死ぬかもしれないが、 生き残ってやる。
足を失ったのだ、 これ位は・・・。
「・・・・・」
頭がふらついた。
足を失うと言う事は思った以上に負担が大きい様だった
大学最終学年で就活を始める位には致命的だった。
知って居れば良かっただろう。
活動家なんぞやらずにもっと良い職場に就職していれば良かった。
いや、 今は・・・いや・・・あ・・・
ナゾライズの意識は闇の中に溶けて行った。




