ティー・タイム・イン・ザ・ガーデン
会議が終わった後に王宮の庭園にて紅茶を嗜むベネルクス95世。
宰相ドグラマグラも共に居た。
「聊か甘やしているのでは無いのでしょうか、 サイプレスを」
ドグラマグラが苦言を呈していた。
「甘やかしていると見えるか?」
「そうではないのですか?」
「私はあの女を甘やかしていないよ」
「本当ですか? コネで大臣になったのでしょう? サイプレスは」
「それは誤解だ、 民部大臣を新設する際に
適当な有名な人権団体をピックアップして
スカウトしたら偶々私の乳母だった女に当たったと言うだけだ」
「有りますか? そんな事」
「あぁ、 そもそもサイプレスは乳母としての能力は低かったし
私も乳母が必要な歳でも無かったからな」
「どういう事ですか? 必要な歳でも無かったとは?」
「私には三人の乳母が居た、 サイプレスが乳母として来たのは最後の方」
「乳母が三人ですか・・・・・一人じゃないのですか? 普通乳母は」
「まぁそうなんだが、 二人共いなくなった」
「いなくなった?」
「いなくなった」
ドグラマグラとてその言葉の意味が分からない様な人間ではない。
しかしながらこの女王がそんな事をするだろうか?
「何か有ったのですか?」
「いなくなった以上の事は言わない
兎も角サイプレスは私の最後の乳母だった、 まぁ仕事はそれなりに出来たよ
と言ってもその仕事も大した事が無かったが、 だが愚痴が多い印象を受けたよ」
「愚痴? を陛下に?」
「まぁ適当に相槌を打って聞き流していたがな
と言う訳で私は奴に対して思い入れは無い
今回、 団体とやらがヘマをすれば奴を逮捕まではいかないが
大臣を辞めて貰おう」
「それならば選ぶ必要が有りますね、 新しい大臣を」
「候補は既に居る、 救貧省長官は特に見所が有る
次の民部大臣は奴だ」
「決まっていたのですか、 既に後任が」
「じゃなければクビなんて言わないだろう」
クッキーを食べるベネルクス95世。
「しかしながら陛下、 それでも念を押す様で気が引けますが
尚、 それでも、 お伝えしたいのですが・・・」
「何だ?」
「やはり問題でしょう、 2000人の移動は」
「2000人、 ね、 くっく、 ドグラマグラ卿
貴方は人権団体のデモ活動を見た事が有ります?」
「ありません、 不勉強ですが」
「デモにも許可が要りますからね
このブリュッセルではまず許可は下りないでしょう」
「許可が下りても問題が起これば即処刑ですからね」
「私のお膝元で問題を起こしたのならば当然では?
話を戻してデモですが酷い物ですよ
人数のかさまし発表は当たり前、 年端もいかない子供も動員するなんて事も」
「デモは人数が多いですし、 危ないのでは? 子供を連れて行くのは」
「危ないと思うけどなぁ、 彼等彼女等にとっては子供の安全なんて二の次だろう
兎も角としてそう言う訳だから2000人と言う数は怪しい所だ」
「どの位盛っているのでしょうか?」
「実人数1500、 いや12,300と言った所か?」
「それでも危険では?」
「落ち着きなさい、 大丈夫です」
「何故そう言い切れます?」
「ドグラマグラ卿、 質問が多くて恐縮ですが人を殺した経験は?」
「有りません、 しかし私は多くの人間を殺しているかもしれません、 間接的にならば」
「人が人を殺すと言うのは負荷がかかります」
「負荷?」
紅茶を飲み干すベネルクス95世。
「精神的に止めようとしているのでしょうね
殺人を行う事は常人には絶対に不可能です」
「不可能、 ですか? 絶対に?」
「絶対に不可能、 人はそうそうに殺人は出来ません
余程の事が無い限り不可能、 極限状況ならば可能性も有りますが
団体の奴等が出来るとは思えません」
「なるほど」
「大して騎士にとっては盗賊討伐等で殺人も有りますから
心理的負荷は低いと考えます」
「ふーむ」
「更に」
「ま、 まだ何か?」
「連中の大半はほぼどうしようもない集団です
民部大臣や貴族からの支援も有りますが
民部大臣はまぁ後々交代するような奴ですし貴族も人権意識をアピールしたい
木っ端貴族が殆どでしょう、 そして団体の連中も特に目立った人は居ない
自称人権学者とか自称ジェンダー活動家とか
マナー講師の様な答えの無い物を教える様な連中ばかりです」
「・・・・・尚更危険では? そういう答えの無い事の答えを拡げると言うのは
扇動と同じだと思います」
「そんな事をしたら捕まるでしょうね」
「捕まるでしょうって・・・分かっているのならばするべきでは? 対応」
「ハウバリン公爵門閥の方々もこれ位は自力で対処して頂きたい」
そう言ってポットから新しい紅茶を注ぐベネルクス95世。




