無題
ベネルクス王国首都国王直轄領ブリュッセルの
ブリュッセル王宮には様々な規定がある。
一番分かり易い規定として許可無しに絶対に立ち行ってはいけない場所が3つある。
一つは裏口、 この場所は立ち入り所か見る事すら憚られる。
しかしながらこの場所に入った時のペナルティは他の二ヶ所よりは軽いが
それでも目玉をくり抜かれる位は覚悟した方が良い。
この裏口から入った者は極めて機密性の高い人物であり
馬車から出ずに裏口から城の内部に入るという事になっている。
二つ目は城の地下最下層。
地下には様々な通路があり地下最下層に辿り着けるルートに入る事すら極刑。
何が有るのかを知っている者はベネルクス王国の中でも数が限られている。
三つ目は王の寝室である。
正確には王が眠っている寝室である。
王の配偶者であっても共に眠りにつく事は出来ない。
王の寝室の周囲には人は廃される様になっている。
一つ目と二つ目は分かる、 気密性が高いだろう。
しかしながら王が眠っている寝室に誰も立ち入ってはならない?
これは首を傾げる、 警備上の都合だろうか?
それならば周囲に警備を入れておくべきでは無いだろうか?
否、 ベネルクス王家にはある秘密が有るのだ。
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ベネルクス95世は今日も今日とて地獄の只中に居た。
その身に一糸纏わぬ姿で地獄の平野に立っていた。
言語化出来ない程の壮絶な苦痛の中にベネルクス95世は居た。
周囲には多くの男女が苦しみの中に居た。
その叫び声の嵐の中をベネルクス95世は歩いていた。
一歩進む度に全身をめった刺しにされた様な激痛の冷気が襲う。
一歩進む度に体中を粉々にされるよりも丹念にばらばらにされた激痛が襲う。
これでもまだ彼女が受けている苦痛を言語化出来ているとは言い切れない。
ありとあらゆる凌辱をその身に受けながらベネルクス95世は進んだ。
「・・・・・」
彼女の形相は憎悪に染まっていた。
人間が人を憎んでいる時に憎んでいると言う言葉以上の
言語が無い文学上の未熟を実感させるくらいには憎悪に染まっている。
「・・・・・」
そしてその足が止まった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!
やめて!! やめてくれええええええええええええええええええええ!!!」
大勢の壮絶な苦しみを味わい続ける男女の群れが一人の人影をリンチしていた。
「■■■■■■■■■」
既に原型すら留めていないミンチになっている
男か女か分からない者がベネルクス95世に声をかける。
「えぇどうも」
今も尚、 言語化出来ぬ程の痛みに打ちひしがれながら
ベネルクス95世は優雅に挨拶をした。
「あぁ!! 助けて!!」
「黙れ!! この罪業者!!」
ベネルクス95世は激昂した。
「名前すら無く、 人ですら無い分際で声を発するな!!」
「酷いじゃないか!! 私が居たから君達は産まれて来たんじゃないか!!
先祖を大事にしろ!!」
「子孫の私達をこんな苦痛の海に放り込んでおいてどの口がほざくか!!」
「知らない!! こんなの知らないよぉ!!」
「貴様!! 何人殺したと思っている!!」
「一人も殺して無いよ!!」
「■■■■■■■■■■!!」
「|■■■■■■■■■■■■■■■《貴様以上に人を殺した者は居ない》!!」
「いい加減貴様は自分の罪に向き合ったらどうだ!!
お前なんて生きているだけで私達の国の恥だ!!」
「そんなぁ!! 僕は何もしてないよぉ!!」
「まだ言うか!!」
「寧ろ僕は可哀想だから止めてね!! って言ったよ!!
奴隷だけど可哀想な事をしないでねって!!
僕は悪い奴じゃないよ!! 僕にはちゃんとした人の心があるよ!!」
「無い!! お前は奴隷の労働量を特に変えなかった!!」
「奴隷は辛いのは良く分かるよ!! 大変な生活をしていると思うよ!!
僕だって王様は辛かった!! 皆から偏見の目で見られて辛い!!
でもちゃんと仕事しない奴隷が悪いんじゃないか!!
祖霊に酷い事しないでね止めてねって言ったのに
勝手に奴隷を虐めた奴隷の監督が悪いんじゃないか!!
僕はお金出したのに奴隷も監督も勝手をして、 皆から嫌われてる!!
なんて可哀想」
全部言い切る前にベネルクス95世が影を蹴り飛ばした。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
影はべちゃべちゃとばらばらになった。
それでもまだ意識はあるのか絶叫の叫びをあげていた。
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再誕歴7701年ディセンバー15日。
ベネルクス王国首都国王直轄領ブリュッセルの
ブリュッセル王宮のベネルクス95世の私室。
「・・・・・」
ベネルクス95世は目を覚ました。
「・・・・・」
彼女は寝ている間にしっちゃかめっちゃかになった私室を眺めながら
ベルを既定の回数鳴らした。
訓練された王族専用のメイドが直ぐにやって来た。
「片付け、 それと湯あみと着替え」
「「かしこ参りました」」
慣れたメイド達は直ぐに準備を始めたのだった。




