ヴァンパイア・ヘルス・オーガナイゼーション
「良いかお前達!! 悪辣な吸血鬼信奉者共はスァルビア男爵に
吸血鬼の生き血を盛ってスァルビア男爵を
吸血鬼に変えてこの領地を寂れさせて吸血鬼共も
前線拠点に変えようとしている!! 現状領地がしっちゃかめっちゃかなのは
吸血鬼共が裏で糸を引いているからだ!!
この街の有様を見よ!! 吸血鬼共にとっては最高の環境に近い!!
空き家だらけのこの環境はまさに吸血鬼共にとって都合の良い事この上ない!!
何故ならば昨今の吸血鬼は吸血鬼狩りを恐れるあまり
人間社会に紛れ込んでいるからだ!! このままでは我々は吸血鬼の餌になってしまう!!
これで良いと思っているのかお前達!! このままでは吸血鬼に支配された
ルーマニアと同じ道を辿る事になるんだぞ!!」
木箱の上に立ち演説をするスラっとした声の良く通った青髪の青年。
白い聖職者と医者を足して二で割った服装をしていた。
VHOと書かれた襷を身に着けている。
周囲にはそれなりに沢山の人々が集っている。
「何だアレは・・・」
ヴィングが困惑している。
「VHOですね、 |Vampire Health Organization《ヴァンパイア・ヘルス・オーガナイゼーション》」
「ヴァンパイア? 何だそれ?」
クリフォールの説明の口から出た全く知らない言葉に首を傾げるヴィング。
「正式名称【口渇性貧血による身体機能不全】
喉が渇いた上に貧血になってそれより身体に様々な異常が起こる病気ですよ」
「聞いた事が無いな
第一な何だそれ、 病名じゃなくて病状じゃないのか?」
「一番分かり易い名前だからとそのままらしいですよ
通称ヴァンパイア病で通ってます、 公式文書ではそうもいかないでしょうが」
「様々な異常って? 感染とか大丈夫だろうな」
「日光に対してのアレルギーや味覚や嗅覚の鋭敏に伴う日常生活の困難
更に感染を恐れての迫害なんかもあったみたいですね
血液感染なので離れれば大丈夫らしいです」
「ふーん・・・でVHOって言うのは何だ?」
「【口渇性貧血による身体機能不全】に対してのヨーロッパ連合の防疫機関
となっていますが現在では【口渇性貧血による身体機能不全】は完治は難しくとも
病状を安定させる事が容易な病ですのでお飾りの様な物です」
「にしてはあのVHOの男は必死になって喋っているでは無いか
人々も関心を寄せているようだ」
「そりゃあ話も聞くでしょ」
ストライプが割って入る。
「どういう事だ?」
「酒場の酒棚を見たか?」
「いや?」
「殆ど碌なもんが無かった、 安酒ばかり、 数も少ない
風俗も酒も無い様な街で暇な連中が退屈凌ぎになるのはあんなもんしか無いって事だ」
「暇潰しに演説を聞く? 面白いのか?」
「本当にやる事が無い時は何かやらないと」
「そんなもんか? っておいおいおい!! ちょっと待てよ!!」
気が付くヴィング。
「こういう演説とかは路上の使用許可が必要じゃないのか?
明らかにいま政治を行っている執事を批判しているのに許可が下りるのか?」
「許可なんかないですよ」
ガタイの良い男に話しかけられる面々。
「ここの騎士か?」
アンポールが尋ねる。
「私服なのに良く気が付きますね」
「手を見れば誰だって分かる」
「手?」
確かに男の手は長年の剣の素振りか恐ろしく荒れている。
「俺は分からなかったぞ」
「自慢げに言うなストライプ、 この街に騎士が居ないのは如何言う理屈だ?」
「ストライキ※1 ですよ」
※1:雇用側、 この場合は執事の行動などに反対して被雇用側
この場合は騎士が労働を行わないで抗議することである。
古代エジプトの時代から行われる由緒正しき労働者の抗議方法である。
「俺ェ?」
「お前はストライプ、 要するにサボり※2 か?」
※2:怠ける事と言う意味合いで使われる動詞。
因みに語源であるサボタージュは本来、 もっと恐ろしい意味が有るが
最近はテロリズムと言うもっと物騒な言葉が有る為、 あまり使われない。
「いやいや、 今政治を代行している執事殿が給料を支払わないので
抗議としてのストライキですよ」
「じゃあ殺しに行こう」
「「「「「は?」」」」」
アンポールの発言に対して困惑する一同。
「騎士は代官の部下であり、 執事の部下では無い
寧ろ同僚だろう、 故に代官の部下の給料を勝手に奪う執事は
生きている価値は無い」
「法治社会なんだからそんな事出来るか
とは言え問い質す必要は有るだろうな
私とアンポールとヴィングでその執事を問い質しに行こう」
サイトウタダシが宣言する。
「わ、 私もですか?」
「さっきの挽回をさせてやろう思ってな」
「ありがたく存じます」
「あのー、 俺とクリフォールさんは・・・」
ストライプが尋ねる。
「ベルモンド伯爵に報告」
「分かりました」




