マイ・サン・ロスト・ザ・デュエル
「御子息が決闘に敗北したので引き取りに行って下さい」
「はぁ?」
セルデン侯爵は混乱していた。
自分の邸で書類仕事をしていると
セルデン侯爵領EUDMO出張所の責任者、 立会人№500が唐突にやって来て
突拍子もない事を言っている。
「・・・・・息子? どっちの?」
「ジョン様ですね」
「アイツが? 負けた? 決闘で? 何時?」
「つい先ほど」
「ルールは?」
「ポイント制で3点、 見せ合い1」
「相手は?」
「ベルモンド伯爵令嬢サン様の執事フェザー」
「執事に負けたのか!? あの馬鹿は!!」
ダンッ!! と机を叩くセルデン。
「いや、 待て、 フェザー? フェザーと言うと確か何処かの決闘代行業の決闘者じゃなかった?」
「【ブラック・シンゲツ・コーポレーション】の決闘者だった人ですね」
「ランクは?」
「S級決闘者です」
「S級に喧嘩売ったのか・・・」
脱力するセルデン。
「それで死んだのか?」
「膝を砕かれただけで命には別条は有りません」
「命まで救われたか、 帰ったら鍛え直してくれよう」
「話は聞かせて頂きましたよ!!」
バンッ!! と執務室の扉を開けるフランク。
「貴様はジャンの付き人の・・・」
「フランクです」
「フランクか、 何の用だ?」
「いやはや武人を称し散々ジャン様を馬鹿にしたにも関わらず今回の醜態
聊か周囲の信頼と評価を落とした形になりますなぁ?」
「ベーブ・ルースも打率4割越えなかった※1」
※1:負ける時は負けると言う意味の諺。
勝負事ならば強い者ほど相手も強くなる為
負けを気にし過ぎるなと言う意味でもある。
「そうでしょうとも!! しかしながら敗北と言うのは少しばつが悪い※2 ですなぁ?」
※2:ばつとはあとがきの事を指すという説があり
転じて結末が良くないと言う意味で使われる。
「・・・・・狐の威を借りる虎※3 だな」
※3:貴族間での対外交渉の一つ。
まず貴族の配下を使って交渉を試みて、 不評を買ったら
背後で待機している貴族が出て来る。
訳合って強引に行きたい時に用いる手法である。
「はい?」
「ジャン、 居るんだろう? 出て来い」
「・・・・・」
部屋の外に居たジャンが中に入って来る。
「茶番だな」
「これは失礼致しました、 とは言えフランクの言う事も一理有ります」
「お前が言わせたんだろうが」
「いえいえ、 兄の不始末を着けるのは弟の役目、 是非とも返し※4 をさせて下さい」
※4:報復のこと。
「何をするつもりだ?」
「決闘での屈辱は決闘で返しますよ」
「ジョンが負けたのにお前が行くと?」
「いえいえ!! そういう荒っぽい仕事はフランクに一任しますので!! 出来るな?」
「勿論ですとも」
「随分自信が有る様だが・・・奴はS級決闘者、 お前が勝てるのか?」
「決闘者のライセンスは持っていませんがA級相手ならば楽勝ですよ」
「A級とS級には深い隔たりがある、 勝つ見込みは有るのか?」
ふっ、 とフランクは笑い、 股間が隆起する。
「我が三本目の足が隆起しますな!!」
「・・・そうか、 やるだけやって見ろ、 ついでにジョンを引き取って来い」
「はっ!! では失礼します!!」
ジャンとフランクは去って行った。
「立会人よ、 また世話になるな」
「仕事ですのでお気になさらず」
「兄様が負けた相手を撃ち倒せればこの家での発言権も上がるだろう
フランク、 失敗はするなよ」
「勿論ですとも」
ジャンとフランクは歩きながら話していた。
「うん?」
「あ、 フィリピーナ※5」
※5:フィリピン人の事、 この邸にはグレゴリオしかフィリピン人しか居ないので
実質グレゴリオの事である。
グレゴリオが立っていた。
「スミマセンが立ち聞きさせて貰いまシタ」
「で?」
「ウン? 立ち聞きさせて貰いまシタ」
「・・・・・」
「立ち聞きしただけ?」
「ハイ」
ジャンとフランクは何なんだコイツと思った。
「そ、 そうか・・・相変わらず何考えてるか分からん」
「ヨーロッパ人とは違う思考なんでしょう、 さっさと行きましょうぞ」
「そうだな」
つかつかと去って行く二人だった。




