ランチ・イン・ザ・サンドイッチ
ナーロウは呆然としてからどの位の月日がたっただろうか。
もう手足は枯れ木の様に細くなり髪も真っ白になってしまった・
ナーロウはもう自分が何処に居るのか、 何をしているのか
そもそも考えているのかすら分からない。
彼は逮捕されて実刑が確定した際に既に離婚届が提出された。
配偶者が犯罪を犯した場合、 ベネルクス王国では一方的な離婚が認められる。
慰謝料として財産をほぼ全て持っていかれてしまった。
もうナーロウには何も無かった。
ナーロウは過去の自分を思い出していた。
マポロスに拾われ共にマポロス商会を立ち上げて尽力した。
思い出せない、 詳しい内容を何一つ思い出せない。
毎日一生懸命働いた、 無茶な営業をした。
ダメだ、 思い出せない、 営業で色んな物を売ったが割と如何でも良かった。
商品を売ってしまえば良いとゴリ押しで売っていたのだ。
部下も思い出せない、 使えない奴が多かった気がする。
妻は職場結婚した、 良い女だったと思う、 だが歳を取ってからは図々しくなった。
いや、 前から図々しかったか?
娘は大事に思っていた、 ベネ学には入学できただろうか? それだけが不安だ。
マポロスと共にがむしゃらに働いていた頃は面白かった。
楽しかった、 具体的に何をしていたのか全く思い出せなかったが・・・・・
あぁ、 そろそろ会社の時間だ、 今日も営業をしなければならない。
今日は100件は回ろう、 必死になって働いて商会をもっと大きくしなければ・・・・・
「えぇ!! えぇ!! 此方の商品はですね!!」
白い部屋の中を必死に走り回って商品の売り込みをしているのだろうか。
ナーロウは完全に狂っていた。
「・・・・・」
部屋の窓からナーロウを見てマポロスは涙を流していた。
「父さん、 そろそろ・・・」
マポポンがマポロスを連れて行こうとする。
「先に行け・・・どうせワシは引退した身じゃ・・・」
「・・・・・じゃあ、 先に行くよ、 刑務官さん、 後はよろしくお願いします」
刑務官に礼をして去って行くマポポン。
マポロスは曲がった腰で立ちながら尚も涙を流していた。
ここは頓狂院、 即ち精神病院。
ナーロウは気が狂ってしまってからは刑務所からこちらに移送されて来た。
「・・・・・なぁ、 アンタ、 刑務官さん」
「私ですか? 私は刑務官では無く警備員です、 ここは確かに鉄格子とか物騒ですが
一応は刑務所では無く病院なので」
「似た様なもんだろう、 奴はここから出られるだろうか?」
「さぁ・・・出られる人も居る、 としか」
「・・・・・」
眼を覆うマポロス。
「ワシの商会の立ち上げメンバー、 もうアイツとワシしか残っていないんじゃ・・・」
「はぁ・・・」
「昔は皆でやっすいくず肉で作ったサンドイッチを食べて
将来はステーキを腹いっぱい食えるようなそれ位の金持ちになろうと言った物だよ」
「そうですか・・・」
「そうだな・・・何か差し入れを入れてやりたいが大丈夫だろうか?」
「構いませんが何を差し入れするのですか?」
「うむ・・・」
そろそろ昼食時だ。
今日の昼食も安いくず肉のサンドイッチ
何時かはステーキを思う存分食える時が来れば良いのだが
しかし何故だろうか、 今日のサンドイッチは何時もよりも美味しく感じるのだった。




