セイグリッド・シュライン・ロープ
カジノ・アタリメ本館闘技場VIP観客席。
「うん? これは可笑しいな・・・」
スクイドが訝しむ。
「何が?」
エイミーが尋ねる。
「個体空間を見た事は?」
「存在は一応知っている」
「個体空間とはウィルパワー運用の奥義と言って良い代物
S級決闘者だからと言って無条件に使えると言う物でも無い
S級決闘者ならば鍛錬を積めば使えるだろうが
マーマレードはそこまでには至っていない、 とは思っていたのだが・・・」
「貴方の目測が狂っていたのでは?
そもそもウィルパワーの強弱って目に見えるのですか?」
「それは感性で見るしかない」
「それならばアレでは?」
サンは闘技場を外縁を指差す。
そこには紙飾りが付いた縄がぐるりと囲っていた。
「うん? 何時の間に・・・」
「何だアレ?」
「注連縄では?」
「シメナワ? 何それサン?」
「父が日本被れなので見た事が有るのですが
日本における宗教の神聖な区域とその外とを区分するための縄、 だと聞いています」
「じゃあ神の力か何かの力を借りている、 って事!?」
「いえいえ殿下、 私には何か分かって来ましたよ」
サンの解説を聞いて得心がいった。
「個体空間には難易度を下げる方法が有る」
「規定動作ですか?」
「それもそうだが、 一番分かり易い方法としては密閉された空間ならば
個体空間は作り易い、 既に”区切って”有る訳だからな」
「・・・・・確かに何となくイメージは分かります
世界と隔絶しているのならば分かり易い」
「うむ、 そしてマーマレードはあの縄で”区切った”と言う事なのだろう」
「なるほど、 分かり易い」
「しかし何れにせよ、 フェザーの勝ちではないか?
詳しい事は分からないがマーマレードは言うならば補助輪を付けている様な物だろう?
|普通に個体空間《補助輪無しで自転車に乗れる》が使えるフェザーには勝てないだろう」
ガトーが熟練度を引き合いに出した。
「如何だろうな、 ただ何か変だ」
闘技場ではフェザーとマーマレードが対峙している。
マーマレードの個体空間内では紅白の縄で彩られている。
「・・・・・」
フェザーは周囲を見渡す。
マーマレードが個体空間を習得していたのは驚きだが
それ以上に奇妙に思った。
(静かだ・・・)
フェザーは今まで何度か個体空間を使える者達と戦った経験がある。
今回の様に規定動作や薬物ありきの半端者から
素の状態で個体空間を使える猛者まで
しかしながらこの個体空間は今まで見た物とは違う。
とても静かなのだ。
「・・・まさか個体空間が使えるとは思わなかったよ」
「これ位は出来るよ」
如何やら音を消す類の代物では無いらしい。
「個体空間を展開して主導権の取り合いする?」
「・・・・・・・・・・それには及ばないな」
「あんまり舐めて貰っちゃ困」
ナイフをマーマレードに投げるフェザー。
しかしナイフの軌道がズレて外れる。
「あれ?」
回避されるのは分かる、 防御されるのは分かる。
だが外れる? 何で?
何かしらの力が働いているのか?
「・・・・・・・・・・ロープを操るのが君の戦術だと思っていたんだが
・・・・・一体・・・・・どういう事だ?」
「縛るのが本質に近いと思うよ、 私は因果律に干渉して結果を縛って確定させる
これが私の個体空間、 神謀り 」
説明をした事でウィルパワーが漲るマーマレード。
「・・・・・信じ難いが・・・本当に信じ難いが・・・・・如何やら嘘では無いらしい・・・
因果律を操る・・・・・この一点だけでも・・・・・
凄そうな個体空間だが・・・・・
そこまで強い代物でも無いだろう?
もしも・・・・・もしも何でもアリなら・・・・・
戦うまでも無いだろう・・・・・僕の心臓が止めて終わりだ」
「勿論出来る事と出来ない事が有るよ、 例えば」
懐からロープ玉を取り出してフェザーに投げるマーマレード。
ロープを剣で斬ったがロープがばらけてフェザーに纏わりつく。
「っ!!」
「こうしてロープの動きを操作したり更に・・・」
マーマレードはフェザーの元に瞬間移動し殴り飛ばした。
「っ~~~~~~~!!」
フェザーは吹き飛ばされた。
かなり良い所に入ったのかダメージが大きい。
「会心の一撃を出す事が出来る
つまり君の攻撃は外れ、 私の攻撃は必ず深手になると言う事よ」
「・・・・・要するに起点となる行動が有って初めて結果を操れると言う事か」
「その通り!!」
「・・・・・・・・・・心底、 心底、 本当に・・・心底呆れる・・・」
「呆れる? 何で?」
「・・・・・正気か?」
「何が?」
「・・・・・聞いちゃう?」
「聞くよ?」
「・・・・・自分の問題点を?」
「うん」
「・・・・・戦っている相手に?」
「今までだってそうじゃない、 互いに戦って悪い所を直していったじゃない」
「・・・・・模擬戦ならば分かるよ・・・・・でも
今は実戦だよ?・・・・・実戦で戦っている最中に・・・・・
相手からのアドバイス・・・・・聞く?」
「聞くよ」
「・・・・・ならば語ろうか・・・・・その前に・・・・・
観客の皆さん・・・・・退屈でしょうが・・・・・お付き合いください・・・・・」
観客達は困惑していたがフェザーは話し始めた。




