テイク・ア・スタンド
フェザーにとってソレデ・E・ノカは
社内に居るA級決闘者の一人であった。
ブラック・シンゲツ・コーポレーションの前身である
ブラック・シンゲツ・デュエルエージェンシーには
シンゲツ・バロッグと言う男に惹かれて優秀な人材が集まっていた。
バロッグに心酔する者。
バロッグを利用して成り上がろうとする者。
ただ単にバロッグの下ならば付いて行けば安泰だろうと言う考えの者。
様々な人間が集まりその中には何人かのA級決闘者が居た。
仕事上の決闘の相手としてA級決闘者が相手になる事も多いので
A級決闘者はフェザーにとっては見慣れた存在である。
ソレデはフェザーにとっては良く居る徴兵経験の有る騎士上がりの決闘者だった。
騎士としての型を意識しながらも戦場で求められる型破りを熟せる。
そして物質主義的な所もその名残と言える。※1
※1:一兵卒にウィルパワー運用法を学ばせるのは本人の資質が大きい為
基本的にフィジカルを重点的に鍛える為、 徴兵経験者には物質主義者が多くなる傾向がある。
『体は立派だけどまぁ大体こんな感じだよね』と言う印象の男。
A級決闘者だが特筆する事が無い、 並、 いや並よりも下。
A級の中の下位、 フェザーにとってソレデはその程度の相手だった。
「~~~~~~~~!!! ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
フェザーの耳には既にファーマーの実況は届いていない。
目の前の男に注視されている、 ソレデとは殆ど関りが無かった。
フィジカルは凄い、 技は一定以上。
だがしかし卓越した技量を持つ決闘者が他にも居たので
其方ばかり目が行っていた。
(一体何が有ったソレデ・E・ノカ)
目の前の男、 明らか自分の知っているソレデと乖離が有り過ぎる。
男子、 三日会わざれば刮目して見よ。※2
この言葉を初めて真の意味で実感出来た。
※2:努力している人は三日会わずにいるだけで見違えるほど成長すると言う意味の慣用句。
語源として呉の武将である呂蒙は武道一辺倒で学問を軽視する人物だったが
無学ゆえ周囲から軽んじられてしまう呂蒙を見かねた呉王孫権は呂蒙に学問を勧める。
あまり気乗りしない呂蒙だったが恩義ある呉王孫権の熱心な働きかけに発奮し
学問に打ち込み始め、 次第には学者顔負けの豊かな学識を備えた大人物になったのだった。
S級決闘者にも一矢報いる程の決闘者になっているとフェザーは実感した。
そしてソレデも認識を改めた。
シンゲツ・バロッグが育て上げられた贔屓目で
S級決闘者になったと思っていたいけ好かない小僧のフェザー。
ウィルパワーを封じてしまえば今の自分ならば楽勝だと思っていた。
認識が甘かった。
軽口を少し叩いた後にフェザーの集中力が肌で感じれる程増しているのが気付いた。
この時、 初めてソレデは今までフェザーに感じていた思いが
全て勘違いの斜に構えた物だと理解する事が出来た。
フェザーの強さはウィルパワー頼りの代物ではない。
フェザーの決闘はソレデも何回か見た。
しかしフェザーと対峙するのは初めてである。
対峙して初めて強さがハッキリと分かる。
『幾ら何でもフェザーの強さが分からないのはボンクラでは?』
読者諸賢の中にはそう思う方もいらっしゃる事だろう。
それに対して『当事者にならなければ理解出来ない事も有る』と言う返答をさせて貰おう。
例えるならばライオンは強いのは知っているが実感は出来ない。
ライオンの檻の中に入れられたら体が震える程理解出来るだろう。
ソレデは|ライオンの檻に入れられて《フェザーと対峙して》初めてフェザーの強さが理解する事が出来た。
そしてこの状況、 確実に自分が不利とソレデは理解した。
自分の武器は10mの大剣である、 以前からずっと使っていた特注の代物である。
大してフェザーはオールラウンダー、 一つの武器を極めていない半端者と言いたくなるが
逆に言えばあらゆる武器を使える、 即ち何が出るか分からない。
フェザーは今回剣を装備しているが隠し武器も有るかもしれない。※3
※3:この闘技場のルールでは隠し武器、 暗器の類の使用制限は無い。
ウィルパワーによって文字通り羽の様に舞う戦い方は
封じるので使えないが、 逆に何をするか分からなくなってしまった。
だからといってウィルパワー封じを止めるつもりは無い
流石に空中戦を仕掛けられて勝てる気がしない。
自分の土俵に引きずりおろさなければ戦いにならない位にはフェザーと実力が離れているのを
肌で実感している。
「・・・・・じゃあ始めますか」
フェザーの声に顔を上げるソレデ。
「・・・あぁ
ブラック・シンゲツ・コーポレーション社内決闘者序列10位ソレデ・E・ノカ参る!!」
「ベルモンド伯爵が長子の執事、 フェザー!! 決ませい!!」
うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
と歓声が闘技場内に響いた。
博打で脳がやられた観客達の完成を浴びながら二人の戦いが始まった。




