キル・ザ・ヴァカ
終戦平和公園の散歩道を歩くベルモンドとスクイド。
少し遅れてマルガレーテ。
「ベネルクスに終戦記念公園は多々有れど※1 こうしてちゃんと公園になっているのは珍しいですね」
※1:ベネルクス王国で半島戦争、 ヨーロッパ戦役の終戦記念公園の数は250を超える。
「男爵の所は公園とかそういうのは」
「無いですね、 ウチの領内に住んでいるのは全員が歓楽街の従業員の様な物ですから」
「・・・・・」
「まぁ貴方の様な文化人には受け入れがたいでしょうが
厳かなレストランよりも騒がしい居酒屋、 芸術的な演劇よりも扇情的なダンスショー
一般大衆が求めているのはそんなもんですよ」
「そうですかねぇ・・・」
「高潔な物を求めるのは高貴な人々だけです
低俗な我々は低俗な物を求める」
「貴方も貴族でしょうに」
「まぁ成り上がり者ですからね、 貴族の特権である程度自由に出来ていますが
しがらみも多々有りますね」
「ではこの会合もそのしがらみとやらですかな?」
ベルモンドの問いに頷くスクイド。
「先日、 ハウバリン閣下から相談を受けましてね」
「ドラゴヴァニアの件についてですか?」
「それは大した事ではないですよ
龍の墓場でヨーロッパ連合軍が交戦を初めてます
ドラゴニュートはジューンまでには殲滅出来るでしょう
我々に動員の負担が回って来なくて助かりました」
「・・・・・」
悲痛な表情をするベルモンド。
「殲滅が無ければ次は我々に牙が向くやも知れません
ドラゴニュートは人間よりも繁殖能力が低いのでドラゴニュートの再起は無いでしょう」
「・・・・・ドラゴヴァニアの件では無いとするならば何でしょうか?」
「君の所のフェザーについてだ」
「フェザーについて?」
「えぇ・・・」
溜息を吐くスクイド。
「過日の騎士受勲の件ですよ」
「何か問題でも?」
「『決闘に一回勝っただけで騎士受勲は変じゃないか?』と言う声が下級貴族から上がっています」
「ヴァカな、 ドラゴニュートを圧倒しただけでも功績としては充分
他にも我が領を守り、 N5での活躍、 騎士受勲では無く貴族位を貰っても不思議ではない」
「『チーズと一緒だったから勝てた』とかそう言う風に思っている奴が多い」
「ヴァカな連中だ」
「まぁ愚痴ってるだけならヴァカでも問題は無いよ
だがしかし最近のヴァカは賢くなっている」
「如何言う意味です?」
「最近の教育制度から識字率が上がって国も豊かになって来た
しかしながら、 いやだからこそと言うべきか権利の主張等、 悪知恵も付いて来た」
「権利の主張は悪い事では無いのでは?」
「身勝手な権利の主張ばかり言う奴は非常に鬱陶しい
挙句の果てに人々を巻き込み革命擬きを行う者も居る、 憲兵達は大変だよ」
「ふむ・・・それで? どういう権利の主張ですか?」
「いやいや、 今回のフェザーの受勲で賢いヴァカ達はこう思う訳だよ
『平民風情が少しの活躍で受勲されるのならば自分達も頑張ればもっと高みに登れる』と」
「・・・・・悪い話では無いと思いますよ
努力して自分を高めた結果、 認められて貴族に、 素晴らしい流れだと思いますし
貴方だってそうやって貴族になったのでしょう」
「その通り、 努力して自分を高めて貴族になる
この流れは非常に素晴らしい物だと思う、 しかしながらそうではない」
「そうではない?」
「あのヴァカ共の頑張りとは努力では無く不正
不正を行い功績を出してそれを献上すると言う誰が如何考えてもヴァカな事をやっている」
「・・・・・信じられんヴァカですな・・・」
溜息を吐くベルモンド。
「この街だってそうですよ」
「うん?」
「私の調べではこの公園を潰して商業施設を建てる計画とか」
「・・・・・私が聞いた話では何処かの教授の苦情で潰すと聞いていましたが」
「恐らくは裏で話が付いていたんでしょう
商業施設を建てるに当たって相当リベートやら何やらを貰っているんでしょうな」
「・・・・・直ぐに調べるとしましょう」
「そうした方が良い
閑話休題、 全てのヴァカが悪事を働く訳でも無いが
ヴァカの悪事を食い止める為にフェザー君が他とは一線を隔する存在だ
と言う功績を挙げさせる必要が有る、 ハウバリン閣下は何か揉め事が無いかと
聞いて回っているらしいですね」
「私の所には来ていませんが」
「まぁハウバリン門閥の中では私の所が治安が一番悪いですからね
私の所に話を持って来るのは理に叶っていると言えます
まぁ何か適当な話でも持ってこようかなと思っていた矢先に問題発生ですよ」
「問題発生?」
「そう、 甚大な問題、 私は首元にナイフを突きつけられた状態になりました」
くっく、 と嗤うスクイド。
「護衛も無しで来ている貴方にとってその程度何ともないでしょう」
「でしょうな、 私は金持ちなのでナイフで首を斬られても問題有りません※2」
※2:富裕層なら当然である。
「とは言え非常に不愉快な事には違いない、 フェザー君にはナイフを取り払って頂きたい」
「なるほど、 では直ぐにでも向かいましょう、 そのナイフを突き立てている輩は貴方の領に?」
「えぇ、 そうなりますね、 今から帰りますのでご一緒にどうです?」
「行きましょう」




