ツー・パーソン・イン・ザ・パーク
再誕歴7701年メイ10日。
ベルモンド伯爵領の終戦平和公園にて。
ベルモンドからこの公園がある街の代官に任命された騎士ヌラゼがベンチの前に跪かされている。
彼は若くして代官に選ばれた才有る男である。
隣には初老の男性も座っている、 彼の名前はユ・ナ。
ベンチにはベルモンドが座っており背後にはマルガレーテが護衛として立っていた。
「さてヌラゼ、 これは如何言う事か説明して貰おうか」
ベルモンドは足でタンタン、 と看板を踏みつけにしていた。
その看板にはこの公園が閉鎖する旨の報せが書いてあった。
「こんな物が公園の回りに設置してあった、 これは如何言う事だよ?」
「さ、 先程も申しました通り、 住民の苦情が有りまして・・・」
「その苦情を言った住民全て連れて来いと言ったのに一人だけか?」
「い、 いえ!! 彼は王都の研究機関の名誉教授を務めており」
「名誉教授ねぇ」
ぎろり、 と初老の男性を見るベルモンド。
「こ、 ここここここで遊ぶ、 ここここ、 子供達の声が五月蠅かった!!
あ、 五月蠅かったので!!
何とかしてくれと言いましたがまさか閉鎖するなんて」
「おい!! 人のせいにするんじゃねぇよ!!」
「何を言っている!! 貴様!!」
「二人共黙れ」
口を噤む二人。
「まず初めにこの公園は半島戦争の終戦を記念して作られた公園である
その公園を閉鎖するなんて論外だ、 これは代官としての裁量権を超えている」
「そ、 それは気が付かずに申し訳ありません」
「公園に私の名前が書かれたモニュメントが有るんだから
普通は私に許しを得てから事を運ぶべきだと思うけどねぇ・・・」
「も、 申し訳ありません!!」
額を地面に擦りつけるヌラゼ。
「子供達の遊ぶ声は騒音とは一体何の研究機関の名誉教授なのかね」
「に、 人間の地政学的な性質の変化についての研究でして」
「あ、 そう、 とりあえずこの公園は私が子供達を遊ばせたいから作った物なので
勝手な事はしないで欲しい」
「し、 しかし、 横暴では?」
「!!?」
ユを物凄い形相で見るヌラゼ。
「私の領内で私が勝手にやって何が悪い
そもそも苦情を言っている人間が一人だけなのだから
勝手をやっているのはそっちだ」
ベルモンドが言い放つ。
「しかし」
「すいやせんでしたああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ユの頭を無理矢理下げさせるヌラゼ。
「こいつを増長させたのは一重に私のせいです!!
この男に言って聞かせますので如何か平に!!※1」
※1:相手に懇願するさま。
なにとぞ、 どうかに比べて使用率が低いので
特別感を演出するのには最適である。
しかしながら相手の学が無いと不発に終わる危険もあるので留意されたし。
「ヌラゼ、 君は若手の中でも有望株だ
こういう事も有るだろう、 だが次は無いぞ」
「はい!! はい!! 肝に銘じておきます!! この教授にも言い聞かせますので!!」
「それは良い、 教授さん、 君の職場は?」
「お、 王都のリベライズ機構です・・・あ、 で、 でも名誉教授なんで
仕事とかは」
「なら、 もう良い、 帰ってくれ」
「え」
「帰れ、 二人共」
そそくさと立ち去る二人だった。
「代官に任命されたからもっとマシな人かと思っていましたよ」
マルガレーテはぽつりと呟いた。
「騎士だけど事務方でね、 割と筋が良かったから目をかけていたが・・・」
「あれが有望株・・・?」
「あんなんでもマシな方なんだ」
はぁ、 と溜息を吐くベルモンド。
「しかしながら伯爵、 貴方が公園を守る為に態々出張る必要が有ったのですか?」
「この公園は守る必要が有るんだよ、 それこそ末代※2まで」
※2:死んでも、 と言う意味。
末代まで守るは死んでも守ると言う意味。
「?????」
「半島戦争終結後、 私も戦場に立っていた
そこで戦った兵達の中に赤ん坊が生まれて直ぐに来たって人が居てね
彼の子供が、 あの戦場で戦った者達の家族が
その子供が平和に遊べるようにと・・・」
「・・・・・」
目頭を押さえるマルガレーテ。
「今では彼も孫と一緒にこの公園で遊びに来ている」
「・・・無事だったのですか?」
「こういう美談の中心人物は大体死んでいる
死人に口なしと言う事は逆説的に言えば死んでいれば何言っても良いと言う事になる
オグルヴィ※3 を知っているな?」
※3:ヨーロッパ連合が使うイギリス帝国の殿部隊を指す蔑称。
部隊の撤退戦の為に戦う部隊だが、 イギリス帝国では個人として扱われる。
『部隊一つが足止めした』よりも『英雄的な個人が必死になって食い止めた』方が
国民のウケが良く、 兵の士気も上がるのだ。
名の由来はヨーロッパ連合がこの事実を知った時に
戦ったとされる『英雄オグルヴィ』から由来する。
「美談の大体が捏造、 と?」
「可能性は有るだろうね、 とは言え
私も後からやいのやいの言う程無粋じゃないし暇でもない
それにお客さんも来たみたいだ」
「・・・・・」
こつこつ、 と一人の子供がやって来た。
「どうも、 めっきり暑くなってきましたね、 ベルモンド伯爵」
「そうですな、 スクイド男爵」




