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第二話 エルフの少女、キオン


「それじゃあ、キオンちゃんは何処から来たの?」

「…………故郷のアネモス村からよ」


 ――金髪エルフの少女、キオンは生まれて初めての質問攻めに遭っていた。

 何が面白いのか微塵も理解できないのだが、()()という名前の少女は私に対して矢継ぎ早に問い掛けをしてきた。別に答えたくない内容を聞かれている訳ではないので答えてしまっている。

 やはりエルフと接することへの物珍しさが強いのだろうか。彼女の視線は度々私の耳へと向けられている。しかし、不思議なことに一切不快な眼差しではなかった。


 隣に歩くは魔法学校の制服を簡素にしたような服を着ている少女。自分の肩ほどの身長と幼く見える顔の造り、の割に私よりも大きな膨らみが少し癪に障る。これに関しては彼女に非は一切ないことは分かっている。ただ、姉に揶揄われていたことが思い起こされてしまっているだけだった。


「――その、ごめんね。久しぶりにお話が出来るのが嬉しくって……」


 私が険しい顔をしていたからだろうか。彼女は少し申し訳なさそうに微笑を浮かべている。

 この子もきっと、周りに気軽に話せる相手が居なかったのだ。そう思うと私の心は少しだけ軽くなった気がした。目的地はどうせ一緒なのだし、それまでの息抜きぐらいにはなるだろう。


「……別に構わないわよ。アルケーに辿り着くまでは話し相手ぐらいはしてあげるわ」

「やったー! じゃあアルケーって何? どんな場所なの?」


 両の手を挙げて喜びを表すユイの言葉に私は少なからず驚愕していた。


「この先にある都市の名前に決まっているじゃない。それなら、あなたは何処へ向かうつもりだったのかしら?」

天国(ここ)にもちゃんと街があるんだね! じゃあ私もそこに行こうかなー」


 あっけらかんと笑う少女は目的地も決めずに歩いていたらしい。一体何処の箱入り娘だったのだろうか。

 深く関わると面倒そうだ。アルケーに着いたらさっさと別れた方が良いだろう。


 しかしながら、彼女の言葉には引っ掛かる部分がある。一応確かめておこうと私は再び口を開いた。


「……ここからアルケー以外の街に徒歩で簡単に行ける場所にはないけれど、あなたは一体()()()()来たの?」


 * *


 日本でも大人気な遊園地を有する県の病院に居たと主張する優唯ちゃんの説明、それはキオンという名前のエルフ少女には理解してもらえなかった。

 異世界から転生してくる人間は稀であるために彼女は存在を知らなかったのだろう。ちょっと頭のおかしい世間知らずの訳アリお嬢様ぐらいの認識になっていそうだった。


 意外だったのは優唯ちゃんがエルフの存在を自然と受け入れていたことだ。私としてはもっと大袈裟なリアクションを期待していただけに少しだけ残念。


「おー、ここがその、アルケーって街なんだね」

「そうね、無事に到着出来て良かったわ。……ところで、あなたはお金はちゃんと持ってきているのよね?」


 街に到着したら即解散の雰囲気を醸し出していたキオンだったが、何か心境の変化があったのか優唯ちゃんの懐事情の心配をし始めた。

 ――それにしても、お金を持たせるのをすっかり失念していたことに気付く。今までの転生者はこの世界に召還して後は好きに生きてね、といった感じだったからその後の生活とかを気にしていなかった。


「お金かー、多分1円も持ってないよ!」

「……何処の通貨か知らないけれど、要するに一文無しってことね」


 呆れを隠そうともせずにこめかみに手を当て、キオンは溜息をつきながら逡巡しているご様子。彼女が優唯ちゃんを養ってくれたら助かるのだが、気難しそうなこのエルフには無理な相談だろう。

 仕方ないから世界改変して優唯ちゃんの口座を作って大量のお金をぶち込もうかな――なんて、いきなり当初の育成方針から大きく外れた行動を行おうかと企んでいたのだが、私が行動するよりも先にエルフの少女が咳払いをしてから言葉を発し始めた。


「んんっ、それなら先ずは仕事を探しましょう。見たところ魔法は使えそうだし、簡単な依頼ならこなせるでしょう」

「…………おー、魔法なんてあるんだね?」


 小さくお口を開けて、純真無垢な表情で問い掛ける優唯ちゃん。

 一方、同じように口を開けて騒然としている姿が少し滑稽なキオンの間に静かな時間が流れる。


「その恰好は魔法学校の制服じゃなかったの?」

「……魔法学校? これは私の中学校の制服だよ?」


 どう生きてきたら魔法の存在を知らないままでいられるのか、時折出てくる知らない単語は一体何なのか等の疑問が湯水のように湧いてきているだろう。だが、キオンはそんな疑問を彼女にぶつけることを一旦保留することにしたみたいだ。

 キオンは長い睫毛を有する瞼を閉じ、深く息を吐いてから口を開く。同時に開かれた瞳には強い覚悟が宿っているように見えた。


「取り敢えず今日は宿で休みましょう。仕事については明日一緒にギルドに行って考えましょうか」

「えへへ、キオンちゃんありがとう!」


 どうやら暫くの間は彼女が面倒を見てくれるようだ。私は優唯ちゃんの夢に潜り込んでこの世界のことを教える予定だったけれど、この様子だと必要なくなりそうで少し悲しいです。

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