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「設計者D」

その物語は、世界を革命する物語。


戦の絶えない世界を、文武で統一し、太平の世をもたらす物語。


明末良音は、絶望を目指した。


お遊びに誘われただけの同級生、材村海斗は、希望を目指した。


今、第一幕が上がる。

                    ―″世界D″ー

 「この一撃で、望み通り、戦争は終わります。」

 「そ、そううまくいくかのう…」

 ギボン爺さんは、なおも不安そうにしていた。

 「うまくいきます。『望んだとおりの魔法具を作る』貴方の魔法を信じましょう!」

 「う、うむ…」

 僕が読んだ通りなら、彼は強力な魔法具造りを強制され、娘のために命をささげて、「戦争を終わらせるほどの戦略魔法」を完成させている頃合いだ。そして後数十ページ後には、しかし人質になどなっていなかった娘によって魔法を止められた反動で死んでしまうはずだった。

 しかし、そんなことは、書かれたとおりの悲劇の結末は、許されない。魔法に必要なイメージ、そしてアイデア。不足しているものを補えば、犠牲はいらない。

 いざ、ハッピーエンドへ。

 自己満足に過ぎないとしても、物語を幸せに、書き換えて見せる。

 「させないわ。」

 後ろから、未だ聞きなれない声がした。

 「明末さん…」

 そこに立っていたのは、ちょっと前までただの男子高校生と学校一有名な美少女の関係でしかなかった、「ブラックローズ」明末あけまつ良音よしね

 「せいぜい絶望することね。

 それとギボンさん、娘の命が惜しいなら、そこらへんにした方がいいわ。」

 「む、娘は無事だと、この少年が…!」

 「それは昨日までの話。」

 昨日までって、まさか明末さん… 

 「いやそんなはずはない!セルファさんは勇者並みに強かったはずだ!」

 「そう?

 ああ、貴方が知る作中人物は、それほど強くなかったものね。

 でもね…

 『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』ー創始者A」

 シュン!

 音が、真上からした。魔法か?

 真上に、辺が強く光る、青い透明な六角形が現れ、その上に現れた刃が、降ってきた…

 

                    ―*―

 その日も僕は、教室で読書にいそしんでいた。

 僕の名前は材村きむら海斗かいと。苗字の変換がうまくいかないのが悩みの、乱読家だ。クラス内ヒエラルキーは…興味ない。きっと最底辺だと思うが。

 「海斗、また本読んでるの?」

 はねた毛先をクルクル回しながら話しかけてきたのは、僕の幼なじみ、向かいの向野むかいの小花こはな...冗談みたいに思えるけど、向野さんの向かいだって誰か住んでるのは当然で、それがたまたま材村家だっただけだと慣れたー今でもネタにされることあるけど。

 「そりゃあ本は素晴らしいから。」

 「本にアニメに漫画に映画に…そんなじゃ彼女出来ないよ?」

 夢見がちな少女いや小女-名は体を表すーが、机の向かいから身を乗り出して訴えてくる。落ちるぞー。

 「いらない以上、そんなこと言われても…」

 「もう、この前も来てくれないし…もしかして私のことが好きとか?えへへ、照れちゃうな~」

 「やめて、そう思ってるのは周りだけでいい。」

 そしてもう一つ、この小女、子供だ、思考回路が。付き合いが長いが、一度も正しい年齢に思われたことがない。

 「つ~れ~な~い~な~」

 そう思うなら僕の彼女を捜さないでくれ。その方が僕の読書時間も増えて一石二鳥だ。

 「そうだ、3組の祈ちゃんとか~」

 「…地雷過ぎるわ!」

 「へ~さすがに知ってるか~」

 そりゃそうだよ、有名すぎる。というかそのネタ何回目だ。

 その時。

 誰かの手が、僕の手をかすめた。

 視界が、切り替わる。


                    ―″世界D″ー

 「おおっとこれはブロン選手、大人げないーっ!」

 な、なんだこの、ヨーロッパ風の街並みは…

 「しかしセルファ選手、撃ち返した!」

 「今の飛炎魔法はすごかったですねえ。今時珍しい精密誘導ホーミング魔法具のおかげでしょうか。しかし術者の腕前がよほどなければ、ほとんど視認できない風魔法の、それも魔法陣の核の迎撃など困難であります!」

 目の前で、コロセウムのミニバージョンみたいなところの底で、二人の人間が何かを撃ち合っている。

 手のひらに広がる光の環…魔法陣!?

 魔法陣の中央が白く輝き…


                    ―*―

 「い、今のは…!?」

 突然立ち上がった僕を、小花が見上げる。

 「ど、どうしたの?」

 慌てて、周りを見回した。

 何のことはない昼休みの教室。

 まだ弁当を食べている奴や、スマホゲームをしている奴、さらにはカードゲームに興じている奴ら…

 「な、なんだったんだ?」

 一瞬、確かに一瞬、まるで全く別の場所にいたかのようだった。けど一体、アレは…

 「ちょっと貴方…材村きむらくんでよかった?」

 斜め前から、ある女子生徒が、透き通るガラスの破片のような冷たい声をかけてきた。

 「は、はい、材村です。」

 「そう。気をつけなさい。」

 …今手がぶつかったのは、彼女だったか。

 女子生徒は、目を閉じ、またもや歩き始めた…って、そういう歩き方をしてたからぶつかったんじゃ…

 「ん?どうしたの~

 あ、もしかして、見惚れちゃった?

 いいよね~触れ合う手から始まる恋!

 でも良音さんは難しいよ…なんてったってあの『ブラックローズ』だからね~」 

 ブラックローズ(真っ黒な薔薇)。あるいはダークローズ(暗黒茨)とも。それが、今手をかすめた同級生女子のあだ名だった。

 2年2組2番、明末良音。容姿端麗文武両道という言葉は、彼女のために存在する。

 腰まである長い黒髪、細くスタイルのいい体つきで、すらり伸びる黒ストの両足が映える。「一挙一両足が美しく、女優の演技を見ているか、あるいは女将軍に指揮されているかのようだ」とか「21世紀の聖女ジャンヌダルクと言えば彼女だろう」とか言ったヲタクどもがいた。

 ただ、一方で美しい薔薇にはとげがある。彼女もしかり。

 風のうわさでは、明末さんの趣味は「他人を絶望させること」らしい。

 そんな馬鹿なとは思ったが、「ヤクザの集団が自首してきて、何かと思って取り調べたら『もうJKをナンパなんてしねえ…』とヤクザが震えていたそのJKの特徴がブラックローズぴったりだった」とか、「彼女いるのにブラックローズに告白したバカの告白の録音データとラブレターを、わざわざバカの住所から『愛の告白♡』と封筒に書いてバカの彼女の家へ発送した」だとか聞くと、恐怖せざるを得ない。

 「…あ、海斗ビビってる?」

 「…なんでそんな。」

 いや、そんな悪意に満ちた人間がいること自体にはビビってるけど。

 「ま~いいや~

 海斗、たまには私の言うこと聞くんだよ?そろそろ、恋したくなったでしょ~」

 は?


                    ―*―

 小花が帰るまでは教室で本を読み、小花と帰ってからはアニメや刑事ドラマを見る。それが僕の日常。

 …だから、放課後はほとんど誰にも会わず、一人教室国国王を気取る、そのはずだった。

 「…材村くんね?」

 音もなく入ってきた明末さんが、冷たい、刺すような、凍らせるような瞳で僕のことを見てくる。

 「え、えっと、昼はすみません。」

 「…それはまあいいわ。目をつぶっていた、私のほうにも罪はあるのだし。」

 明末さんは意外にも、非を認めた。

 「それで材村くん、貴方、本とか好きなのよね。」

 「ああはい、本でもアニメでもドラマでも、フィクションならなんでも。」

 「ふーん。」

 あ、あれ、明末さん(ブラックローズ)嬉しそう?こわっ…

 「ファンタジーは?」

 「一応、読みますよ。中世ファンタジーとか、魔法モノとか。」

 ってなんでそんなこと言ったんだぁ!昼休みの体験が強烈過ぎたぁ!

 「そう、なら、私と『ゲーム』しない?」

 「ゲ、ゲーム?」

 「はい、これ課題図書。じゃあ、明日もこの時間に来るから。」

 明末さんは、一冊のライトノベルを僕に渡し、何事もなかったかのように、両目をまたつぶって器用に出ていった。


                    ―*―

 舞台は、まあありふれた、中世ヨーロッパ風の魔法があるファンタジーワールド。

 いくつもの国家、都市国家、傭兵団が乱立する中、主人公の青年は女騎士セルファらを仲間として、「乱世を終わらせる」ため勇者として名乗りを上げ、あの手この手で民衆を圧政から解放していく…

 貸し付けられた「課題図書」は、そんな物語の中盤、セルファと父の魔法具職人ギボンの物語だった。

 「望んだとおりの魔法具を作る」魔法を持つ天才職人ギボン。彼は神聖アモーレ(Amor)帝国に「娘が人質だ、戦争を一撃で終わらせられるほどの最強の魔法、すなわち、まだ誰も成功していない『戦略魔法』を開発せよ」と強制された。

 さんざん戦争のための魔法具を作り続け間接的に多くの人間を殺してきたことに苦悩して隠居していたギボンは、いっそ「誰も戦争しようと思わなくなるほどの」戦略魔法を完成させ、その抑止力で戦争を世界からなくそうと考えた。

 しかし、ギボンの魔法は「どんな魔法が出るかイメージし、大まかなアイデアを描くことで、その設計図から魔法具を創造する」魔法。抑止力となりえるほどの威力の魔法のイメージがどうしてもわかず、その上帝国から見張りをつけられ信用できる人物がいないのに自分の魔法ではどうやっても戦略魔法の魔法具を発動させられない...

 困り切ったギボンは、「命を代償に、その人物が墜ちた地獄の業火を一瞬現世に顕現させる」戦略魔法にたどり着く。「死の職人」「死の発明家」ギボンならば、国家一つ焼き尽くすことすら不可能ではないと思われた。

 一方で人質などになってはいなかったセルファら勇者一行は、命を代償とする魔法を固定型の魔法陣で発動させると、代償より多くの命が犠牲になる場合、魔法の発動が代償となる命を増やすことによって威力が爆発的に増大し、効果範囲に命が無くなるまで止まらなくなる可能性を目の当たりにする。

 仲間の反対を振り切り、父の下に向かうセルファ。しかし発動段階に入っていた魔法を止めることは出来ず、無理に魔法を止めたことによりエネルギーが逆流したギボンは爆死、それを目前としたセルファもまた、精神的ショックと魔法強制停止の反動で魔力を失ってしまう...

 …それが、物語のあらすじだった。

 「…僕は、嫌だな。」

 抑止力という考えにも賛否両論あるにしても、この終わり方は無念すぎる。

 ネタバレを検索すると、この先、父の想いを胸に再び立ち直ったセルファは、主人公とともに、強い心で王侯貴族を打倒、戦争の黒幕となっていた「死の商人連合(ブラッドリー・ギルド)」との決戦に勝利し、永遠の平和を享受された千年王国の王妃となる…らしい。

 …しかし、そんな一見ハッピーエンドに思えるネタバレも、僕の心には届かなかった。

 最強にして最悪の戦略魔法。僕たちはもう、それをすでに、知っている。というよりそれを意識していることは明白。

 …結局、この世界でも、戦略兵器は悲劇しか生まなかった。

 ギボンは救われず、セルファの心の奥底も、描かれているほどのものだったか。実はよどんだものがあっただろうに。

 「ゲーム、ねえ…」

 …この時僕は、「ギボンを救いたい」、そう思ったー後悔するとも知らず。


                      ―*―

 「来たわね。さあ、座って。」

 明末さんは、感情の読めない瞳で、椅子に腰かけていた。

 机の上にはスマートフォンと、昨日のライトノベル。

 「私も驚いたわ。こんなことってホントにあるのね。

 …じゃあ、目をつぶって。

 うん、そう。」

 な、何をされるんだ…ゲーム…目をつぶる…くすぐりとか?

 「余計なことを考えない、それからにやつかない。貴方本当に草食系?

 いいわ、悟りの境地で、何も考えないで心を虚ろにして。」

 そんなこと言われたって。

 「簡単よ。私なら1秒ね。

 まず心を虚ろに、無にしようと考える。それから、そうしようと考えていることすら考えないようにする。たぶんこれでいけるはずよ。」

 はいはい…

 …ギボンに、セルファ、か…

 柔らかくも冷たい手が、僕の手に触れた。

 「『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』

 ー創始者A」

 

                    ―″世界D″ー

 僕は、昨日も見た、西洋風のコロセウムにいた。

 向かい合う二人の手のひらに光る魔法陣から、光がほとばしる。

 女性からは赤い炎、男性からは薄い青色の…風?

 炎が吹き飛ばされる、そう思った時、炎が渦を巻いた。

 追加で加えられた炎が、竜巻を成して燃え上がる。

 「だが、それでは前が見えんだろう…!」

 相手の男性は両手を前で重ね、身体の両脇からはみ出るほどの大魔法陣を空中に現出させた。

 -まずい、やられる!

 そう誰もが思ったその時、炎の竜巻の中から、人影が。

 「なっ!」

 「秘技、火焔乱閃!」

 炎の中から現れた女性が、炎をまとった剣を振りぬく。すると剣の延長線上まで剣にまとわりついていた炎が伸び、男性の大魔法陣を破壊した。

 「まだ、やりますか?」

 「ひいい!」

 男性が、両手掲げ降参する。

 「…どうなってるんだ」

 確かこれは、セルファを人質にしようともくろむ帝国軍が、だまして借金を負わせ、コロセウムでの試合で負けさせて奴隷にしようとするも、セルファが強すぎて帝国軍の兵士が返り討ちに在ってしまうシーン...

 「だから、ゲームよ。

 貴方、どうしたい?」

 横の席から、声が聞こえた。

 「貴方にこれをあげるわ。したいことをしなさい?」

 そこにいたのは、チャラチャラ鳴る袋を手にした明末さん。こともあろうにブレザーのまま。

 「じゃあ私は行くわ。スタートよ。」

 そう言って、明末さんはどこかへ歩き去ってしまった。


                    ―″世界D″-

 コロセウムを出て分かったことだが、本当にこの世界は、渡された課題図書の世界そっくりだった、というかそのものだった。

 その時すでに、僕の頭の中で、「ギボンの死を防げるかもしれない」という考えが、頭をもたげていた。

 やることは決まっている。袋の中いっぱいに詰まっていた大金貨でギボンの下に向かい、僕たちの世界の戦略魔法こと戦略核兵器の存在とイメージを伝える―そうすれば、イメージとアイデアから、戦略魔法の魔法具完成だ。誰の命も代償にはならないし、ロケットも一緒に作ってもらえば、海上なりなんなりでデモンストレーションすることで、一人の命も奪わずに戦争が終結する。

 …現実では核兵器の開発競争が起きて、抑止力は諸刃の剣となった。しかし作れる人が一人しかいない上に迎撃手段も被害を逃れうるほどの国土もないこの世界においては、抑止力は有効に機能する!

 …袋の中から、紙が出てきた。

 ー「この世界で起きたことは、小説に準拠していても、それで内容が書き換わったりはしない。安心して行動して。それから時間も流れが違うから、何ヶ月いても大丈夫。」

 …フリーハンドまでくれるのか。とはいえあのブラックローズ、何を仕掛けてくるか、わかったもんじゃないな…

 「すいませーん!ラパーナ村ってどうやっていくかわかりますか!」

 まずは、馬車を呼び止めることから始めよう。


                    ―″世界D″ー

 私は、まずは帝国軍を味方につけることにした。

 「なんや嬢ちゃん、別嬪さんやな。ワイと楽しいことせんか?」

 …ナンパされてる?

 「そうねそれが楽しいならうれしいのだけど。でも貴方が楽しいことが私にも楽しいとは限らないわ。」

 「まあまあ、固いこと言うなて。」

 「じゃあはっきり言うわね。貴方ブサイクよ。」

 「なっ…生意気言い寄るわ!」

 帝国軍の兵士が、腕をつかもうとしてくる。

 …まあ、どうせ魔法としか思われないわね。

 「『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』

 -創造者A」

 想像するのは、私の腕のすぐ上3センチに、六角形の中心で直立する鉄の刃。

 目をつぶり、世界を物語る。

 目を開き、想像を現実に重ね合わせる。

 「ぐあーっ!」

 兵士が、手のひらに刃を貫通させられ、叫ぶ。

 「黙って通しなさい。次は口の中に出すわよ。」

 「わ、わかった、通す、通すから!」

 

                   ー″世界D″-

 「そなた、余の番兵に傷をつけたそうじゃな。」

 「あんなの番兵とは言わないわ。ナンパしてくるし、こんな女に負けるし。帝国軍の面汚しなの?それとも帝国軍が面汚しなの?」

 「ふーむ辛辣。しかしそのほうが手折る時には興が深いからのう。」

 「そういうのはいいわ。そんなに暇じゃないの。さっさと言うことを聞きなさい。」

 「皇帝閣下、このような無礼者、ただちに始末してしま」

 「『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』

 ー創始者A」

 空中に描く、光る六角形。その中央から、無礼な皇帝家臣に向かって、非常に細長い円錐形の鉄を想像し、目を開く。

 落下した鉄槍が、家臣の頭から床まで、一気に貫いた。

 声すら出せず、家臣氏が絶命する。

 「で?私は交渉に来たの。

 …おふざけは止めてくれるわね?」


                    ー″世界D″-

 この世界の地理関係が全くわからないし、それ以前に勇者一行は潜伏していて居場所の把握など困難。だから、一行と会うことは既にあきらめていた。

 なのに、今向かいに座っているのは、勇者一行だ。…偶然って怖ええ。

 主人公の青年騎士コルベ―を中央、隣には副団長の女性魔法騎士セルファ、そして彼らの両脇に数人ずつ、武勇知略の士が座ってパンを食べている。

 「あのー...セルファさん、ですか?」

 キリっとした涼しい目元とポニーテールがトレードマークの女騎士は、首をちょこんとかしげながら、「なあに?」と聞いてきた。

 「すみません、御父上のことで、お話が…」

 「…少年、ちょっといい?

 コルベ―、一時退席するわ。」

 「おう、気をつけろよ。」

 

                    ー″世界D″-

 「それで少年、何を知っているの?」

 「…御父上、ギボン様と、戦略魔法についてです。」

 「…そう。」

 セルファさんの右手が、剣の柄にかかる。

 「敵?味方?」

 「味方です。」

 「…目的は?」

 「戦略魔法によって、戦争をなくすこと。」

 「…少年、それはさせられないわ。アレは完成して発動すれば、範囲内の命を焼き尽くすまで止まらない。危険すぎる。一刻も早く、止めさせて、破壊しないと。」

 「大丈夫です。僕の考えるところの戦略兵器は、人の命を代償とせず、なおかつ飛翔体に入れて飛ばすことができる物ですから。」

 「…ん?そのようなもの、できるの?

 いや、中に入れる魔法具と、それをタイミングよく作動させるシステムさえあれば、可能か…父上ならば、その魔法のイメージさえあれば完成させてしまえるけど。

 …少年は、それのイメージを?」

 「はい。国一つ焼き尽くす魔法のイメージを、持っています。」

 「…少年がどこから来たのか、それは問わないわ。少年に賭けてみる。

 連絡先はこれにある。敵からの手紙ははじいてしまうから、心配せず送って。団長は私から説得しておくから。」

 セルファさんが、小さなメモを渡して、去っていった。

 

                    ―*―

 突然に切り替わる世界。

 「…どうだった?面白いかしら?」

 隣から、明末さんがのぞき込んでくる。

 「は、はい…」

 状況を確認する。

 教室で、二人椅子にもたれて寝ていたらしい。

 「あの、さっきまでのは…」

 「本当にびっくりよ。まさか入ってこれる人がいたなんて。今日は原理を考えたいから、そろそろ帰らせて。結構頭も使ったし。」

 腕時計を見る。時間は10分たっていない。

 …いったい、どうなってるんだ?

 「…あの、今のは、なんだったんですか?」

 「わからないの?

 はあ…フィクションの世界に介入できる何か。」

 な、何だそりゃ…

 「それ以上のことは…そうね、ゲームは二つにしましょう。

 一つ目。私の妨害を防いで、ギボンを救って見せること。

 二つ目。私の能力の正体を解明すること。ただし介入の瞬間は指示に従って。

 じゃあ。」

 明末さんは、またも目を閉じて、カバンを手に去っていった。

 「…いったい、なんなんだ…」

 フィクションが主な分野とはいえ、学問本も当然乱読してきた。しかし、フィクションの世界に入る方法など、見当もつかない。

 まさか、本当に作品世界に侵入してしまったわけでもないだろうけど…それともショートショートのように、本当にファンタジックにも本の中に入って…?

 

                    ―*―

 「あら、兄様…」

 「祈...どう思う?」

 「…ちょっとウロチョロと観光されるままかと思っていたけど、予想以上に中途で私たちの障害になるかもしれないわね…」

 「ただ、明末良音は『獲得能力』をすでに持っている。そして、それを手に入れるための招待状をもらって帰ってこられる人間などそうそうこの先も出るまいし。今さら折り紙を折り直すわけにもいかないだろうさ。」

 「でも、こうも簡単に凌駕されるのも癪ね…」

 「…まあ普遍性は特異性を凌駕する。せっかくだから今から観察して、1000年の歴史に最後のページを加える準備でもしておくか。」

 

                    ―*―

 「あれ~海斗どうしたの~」

 「どうもしないよ。考え事。」

 「海斗が本読んでないなんて珍しいね~」

 …そうか、考えている間に、小花の部活終わりになったか…

 「なあ小花」

 「なあに~?」

 「もしわけわかんない目にあったとして、その続きに未練があったら、どうする?」

 「…抽象的過ぎてわかんないけど、未練があるなら残しちゃいけないと思うよ~」

 そういえばそういうやつだったな。

 「わかった。ありがとう。」

 「え、なになに、どしたの~」

 「何でもない。帰るぞ。」


                    ー″世界D″-

 昨日のことを考えつつ、僕はギボンの工房があるラパーナ村に来ていたーいや、この世界ではすでに、宿屋で一日経っている。

 「すみませーん、ギボンさんいますかー?」

 「わしがギボンじゃが…」

 爺さんにしか見えないが、しかしこのひげが白い職人の娘は20かそこら、ということはそれだけ心労があったということなのだろう。

 「…何の用かの?今は忙しいんじゃが…」

 …ああ、もう始まってたか。

 「…帝国軍、ですか?」

 「…しょ、少年なぜそれを…」

 少年呼びは親子共通か。

 「よもや王国の者か?それとも法王庁か?」

 「いえ、全く、どこの勢力の者でもありません。

 …僕は、セルファさんから無事と、それから僕自身からは誰の犠牲もいらない戦略魔法のイメージとアイデア、その二つを伝えに来ました。」

 「な、何?...セルファは、娘は、無事なのか!?」

 「はい。『勇者』コルベ―様御一行と、昨日も帝都の居酒屋におられました。」

 「…ならば、魔法はいらないのではないか?」

 「…そうも思ったのですが、しかし騙されているからこそ、帝国軍もセルファさんを追おうとはしないのでしょう。

 セルファさんが亡くなられたとき、天才職人であるギボン様が何をしでかすかわからない。だからこそ義賊として反体制的な一行に対して帝国軍は対策をうたない。」

 「…わしが反抗的になれば、娘が危ない。騙されたふりをするべき、そういうことか。」

 「はい。それで、貴方のお考え通り、当の帝国軍ですら戦争を破滅・亡国への路だと感じてすべての戦争をやめるほどの威力の魔法を開発すれば...

 …この考え方を、『抑止力』と言います。」

 「…まるで実例を知っているかのようじゃな?」

 「…詳しいことは話せません。ただ僕たちの知っている例では、抑止力はうまく働きませんでした。多くの国が戦略兵器を手にした結果、感覚がマヒしてしまったようです。」

 「そうか。

 …それならば、まさかわしを凌駕する者もあるまい、同じことにはならんですむな。

 …協力、してくれんか?


                    ー″世界D″-

 図、言葉、紙芝居、その他、使える手段全てを費やした。

 まずは、誰一人として加害半径にいないようにできるための、精密飛行できるような飛翔体。

 「これを僕たちは『ロケット』と呼びます。仕組みとしては、爆発的に燃える燃料を筒の中で燃やし、炎が噴き出す反動で空を飛びます。」

 「うーむ…」

 紙芝居で、いつか見たアポロ宇宙船離陸のニュース映像を参考に、大地に直立したロケットが炎を吐き、発射台から解放され、煙を吹きながら空へ駆けあがっていく様子を見せる。

 「ふむふむ…まずは小さなもので試したい。」

 そういってギボン爺さんは、紙にロケットの設計図を書いていく。

 ー僕たちの地球においては、ロケット開発最大の障害は、ロケットの燃料である。ロケットを大きく、遠くへ飛ばそうとすればより多くの燃料を要求されるが、しかしそうすればロケット自身重くなり、燃料の重さ分飛ばすためにさらに燃料が必要だということになる。

 しかしこの魔法がある世界においては、その必要はない。無から有を生み出せる魔法がある以上、ロケットの推力を上げるのにロケットを重くする必要はないのである。魔法の規模を大きく、そして空間魔力吸収時間を長く設定すればいいだけだ。

 「…これでどうじゃ?」

 そう言うとギボン爺さんは設計図をにらみ、その上に魔法陣を描き始めた。

 紙いっぱいの大きな同心円の、円と円との間に描いたひし形の中に文章を書いてゆく。

 「天地神明よ、今一度、我が思いのものを創造したまえ…」

 紙に描かれた魔法陣が光り始め、ひし形が円と円の間で回転していく、幻想的な光景。これが見れただけでも、この世界に来てよかったと思えた。

 

                    ー″世界D″-

 私は、苦労を重ねて、ギボン工房の屋根の上にいた。

 当然介入を止めてもう一度ここに降りればいいのかもしれない。しかしその時に材村くんが一緒に追い出されてしまえば、何か画策しているとバレてしまう可能性がある。だからこそ私は、わざわざ苦労して工房の屋根までよじ登らねばならなかった。

 …しかし、また降りるの大変ね。

 ステンドグラスに二つのぞき穴を開け、穴の向こうの工房を眺める。

 魔法陣が回転し、浮かび上がり、その光る円からなる筒の中で…

 …よく見えないわね。

 光が薄れて、中から現れたのは、2Lペットボトルほどの筒。

 …ペンシルロケットか。材村、慎重じゃない。


                    ―″世界D″―

 「3,2,1...

 …発射ぁー!」

 ボーン……!

 腕よりも小さなロケットが、花火みたいな音を出しながらも白い煙を吹きながら青空へ飛んでいく。

 「後はこれを大きくして、戦略魔法の魔法具を搭載できるようにすればよいのじゃな。」

 ギボン爺さんも満足そうだ。

 …さて、目下最大の難題に、取り組むとするか。


                    ー″世界D″-

 私はその後も観察を続けたけれど、結局、件の魔法がいかに作用しているのか、わからないままだった。

 …もちろん、この力を手に入れてから最初に訪れた世界なのだから、本当は適当な魔法を見て行ってもいい。だけど私としては「完璧でなければ、いっそ0であった方がすがすがしい」と思うーそれは、能力も、性格も、人生も、世界も。

 …貴方は、まだ、あきらめてないの?そう…


                    ー″世界D″-

 「閾値を越えると爆発的に反応するもの二つを、ぶつけることで閾値量へ到達させ、瞬時に爆発させる…なるほど。」

 ギボン爺さんの応えは、「増幅魔法」と呼ばれる、「片側の小さな魔法円に侵入した魔法を、同じ密度で外側の大きな魔法円から吐き出す」魔法だった。

 増幅魔法には、魔法陣の媒体が耐えられなければ意味がないという欠点がある。威力が元威力÷内側円面積×外側円面積である都合上面積を喰うため扱いづらい一方、特に一点一点に加えられる火力は変わらないため、「弱い魔法を広い範囲に撃つために広大な面積を喰う」弱点があり、その面制圧特性を生かすには空から使うしかないが大規模な魔法陣を刻んだ魔法具を上空へ持ち込めない...と、一見戦略魔法に最も近いながらも実際には何の役にも立たない最上級魔法だった。

 -しかし、唯一ギボン爺さんにとっては、魔法の難易度は何の意味もない。彼の固有魔法「設計創造」は、魔法のアイデアと結果のイメージが正しければ、その通り実現できる魔法具が生み出される代物であり、最上級であろうとも頭の中の理論と結果イメージが正しければ完成して発動してしまうのだ。魔法の難易度を完全に無視してしまう点で、ギボンはすでに充分化け物だったーただ、戦略魔法の前例がないだけにその仕組みのアイデアも結果のイメージも湧いてこなかっただけで。

 「これが、その魔法具、ですか?」

 僕の目の前に転がっているのは、無数の刻み模様で埋め尽くされた、サッカーボールほどの球体。

 「うむ、この内側にも魔法陣が刻まれておる…はずじゃ。全方位からの魔法を、外側の魔法陣で吸収し、増幅魔法によって内側に増幅、内部の素材が耐えられなくなると球体が砕け、爆発する。」

 「増幅によって、一瞬で球体の耐久値をはるかに超える威力まで到達してはじける、と。」

 「そうじゃ。」

 その仕組みがいかにすごいのか、僕にはわからない。しかし最上級の火炎魔法を数十倍まで一瞬で増幅するなら、気体の熱膨張率だけでも相当のものが期待できる。

 …本音を言えば、魔法陣を形成する魔法があるなら、連鎖核反応のような魔法が作れたのだが。

 「…理屈では完璧なはずじゃが、これでは大した威力にはならん…」

 ギボン爺さんは、いくつかの部品を球体に取り付け、大人が丸々すっぽり収まりそうな筒にいくつかの光る石ー魔石と一緒に詰め込み、池まで引きずって行って放り込んだ。

 池の底が、赤い光で照らし出されている。そして次の瞬間…

 ボー―ン!!!

 池が、丸ごと持ち上げられたかと思うほどに噴き上げられ、しぶきが視界を埋め尽くした。

 晴れた視界から覗き込む池は、一滴の水もなく、その底で黒いカスが汚くこびりついているー魔法具の爆発が、池の水全てを蒸発させ自らも跡かたなく溶解させたことは、明らかだった。

 「これでは、これでは、足りんのだ…」

 …考え方を変えるべきか?いやしかし…


                    ―*―

 「苦労してる?」

 起きて最初に明末さんが口にした言葉は、それだった。

 「…言い忘れたけど、貴方が途中で万が一抜けても気づかないだろうから、そういう時は、私が寝てるからっていたずらしないように。」

 「き、気づかないって…」

 「そうよ貴方が入ってこれるのは十中八九貴方の力よ。そんなことが可能だとは思わなかったけど…」

 そんなこと言われても、喜ぶべきなのか…異能系ヒーローになりたい願望もないし、ましてその異能らしき何かの正体もわからない。

 「…ああそれと、間違っても核兵器は造らないことね。向こうで死んでも大して問題じゃないけど、私が向こうで脳に障害を負った場合はその限りではないから。」

 それだけ口にして、明末さんは去っていった。

 

                    ー″世界D″-

 「やはり、イメージが足りないのですか?」

 「そうじゃ。」

 ギボン爺さんは、複雑な顔をしながら応えた。

 「戦というものは、剣と弓と魔法でやるもんじゃ。防御魔法のことを考えないにしても、最上級魔法でせいぜい家一つ焼き払えるかどうか...

 わしには、想像もつかん。町一つ、国一つ滅ぼすような魔法なんてものは。」

 …その方が、平和でいい。中世は中世らしく、騎士どうし一騎打ちしてもらえれば、それでいいのだ…それではいつまでたっても戦争が終わらないからこその戦略魔法なんだけど。

 「現に魔法学はすべて、戦略魔法を『想像もつかない神の御業』としてきて、その結果については考えすらせん。最後の審判、天地がひっくり返る、そんなこと言われても、具体的にはイメージできん。」

 だからこその、魔法というより呪術に片足突っ込んだ、「命を代償として万物を焼き尽くす地獄の炎を顕現させる」魔法だったわけで、それすら結局、「死人が入ることによって天まで届く業火が燃え上がる」という地獄のイメージに基づいていたーそれが、文学作品や記録映像で戦略兵器の悲惨さを良く知る僕らより幸せなことであるのは間違いない。

 「いいですか、絶対に、2発目以降を作ってはいけませんよ。」

 デモンストレーションの一発目のみ。それ以外は、この世界に作り出されることすら許してはならない。

 「では、僕らの知る、悲劇を、話そうと思います。」

 

                    ー″世界D″-

 吐き気で収まらないような記録ー一瞬にして爆風を数キロ先まで広げ、その熱は鉄筋コンクリートすら蒸発させ、強烈な光はそのエネルギーで人間を消し去って影だけを残し、天までキノコ雲が巻き上がる...

 半日資料を探って得た、我が国が2度にわたって受けた戦略兵器ー原子爆弾の被害。何もそれを忠実に再現して禍根を残す必要などないので放射能の話はしなかったが、それでもなお、一秒間の間に起ったすべての惨劇を僕の口と絵で詳細に説明する作業は、精神をひどく痛めた。

 そしてそのかいあって、工房の中心には、ラグビーボール型の銀色の塊が横たわっている。

 増幅魔法を使うアイデア、僕らが知る戦略兵器の使用結果のイメージ、そして、結果とやり方から道具を創造できる、世界に一つの魔法。それらが合わさった成果が、この世に生まれいづることを二度と許されない兵器の誕生だった。

 帝都に海上実験の連絡を送り、有無を言わせる暇なく、使用の用意をする。

 ロケット魔法、精密測位魔法、燃焼停止魔法に連動した起爆魔法、そして戦略魔法「|カイザル・シュライヒェン《皇帝の叫び》」。

 -失敗するはずもない。アイデアが正しく、結果の予想イメージが実際に起きるだろう結果と同じであるならば、もうギボンの魔法具に失敗はあり得ない。 

 「この一撃で、望み通り、戦争は終わります。」

 「そ、そううまくいくかのう…」

 ギボン爺さんは、なおも不安そうにしていた。

 「うまくいきます。『望んだとおりの魔法具を作る』貴方の魔法を信じましょう!」

 「う、うむ…」

 打ち上げはもはや秒読み。

 ー僕が読んだ通りなら、彼は強力な魔法具造りを強制され、娘のために命をささげて、「戦争を終わらせるほどの戦略魔法」を完成させている頃合いだ。そして後数十ページ後には、しかし人質になどなっていなかった娘によって魔法を止められた反動で死んでしまうはずだった。

 しかし、そんなことは、書かれたとおりの悲劇の結末は、許されない。魔法に必要なイメージ、そしてアイデア。不足しているものを補えば、犠牲はいらない。

 いざ、ハッピーエンドへ。

 自己満足に過ぎないとしても、物語を幸せに、書き換えて見せる。

 庭で直立する大きなロケットを見納めだと眺めていたその時、それは起こった。

 「させないわ。」

 …後ろから、聞きなれた声。

 「明末さん…」

 そこに立っていたのは、ちょっと前までただの男子高校生と学校一有名な美少女の関係でしかなかった、「ブラックローズ」明末あけまつ良音よしね

 片側だけ端から端まで三つ編みに結わえられた黒髪が、風向きを美しく示している。

 「せいぜい絶望することね。

 それとギボンさん、娘の命が惜しいなら、そこらへんにした方がいいわ。」

 「む、娘は無事だと、この少年が…!」

 「それは昨日までの話。」

 昨日までって、まさか明末さん… 

 「いやそんなはずはない!セルファさんは勇者並みに強かったはずだ!」

 「そう?

 ああ、貴方が知る作中人物は、それほど強くなかったものね。

 でもね…

 『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』ー創始者A」

 シュン!

 音が、真上からした。魔法か?

 明末さんが何をしてくるか、わかったもんじゃない。慌てて上を見上げる。

 真上に、辺が強く光る、青い透明な六角形が現れ、その上に現れた刃が、降ってきた。

 …なんて危険な攻撃だ!

 重力に引かれて落ちる鋭い刃に対し、僕は、考えるより先に横跳びしていた。

 「いたあっ!」

 左腕から、冷たい痛みが全身に響く。

 ちっ、早く抜かないと…

 「後はその人と、貴方たちの魔法具。それを傷つければ、勝ちかしらね?

 『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』-創始者A」

 「ギボンさん!」

 ギボン爺さんの真上に、銀色に光る刃が、正六角形の光の平面に浮かぶようにして出現していた。

 左腕から引き抜いた刃を、力の限りに投げつける。

 カンッ!

 二つの刃が中空でぶつかり、はじきあってあらぬ方向へ飛んでいく。

 「…ナイスコントロールね。でも、これならどう?

 『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』-創始者A」

 屹立するロケットの真上に、現れた、人より大きそうな青く光る六角形。

 「おいおい…!」

 平面に沿って浮かんでいた、銀色の鋭利な三角形が、光が消えるとともに落下してロケットに大きく食い込んだ。

 「…アウトね。」

 ブラックローズが、開いた冷ややかな目で、敗北を宣告する。

 「…まだじゃ!秘技、真、火焔乱閃!」

 ギボン爺さんが投げた小刀の刃が炎に包まれ、その炎が伸びて、長い炎の刃となって周囲を襲う。

 僕は、明末さんがしゃがんだその隙に、ギボン爺さんの腕を引き、走り出した。


                    ー*―

 まだ、その全貌を見ることはかなわないのね。

 私は、その情景を再現しないように気を付けながら、今日の戦いを思い返していた。

 まったく、手こずらせてくれる。…反則ぐらい、許されるかしらね?


                    ―*―

 明末さんが今日(?)使った、魔法なのかも怪しい何か。アレは一体、なんなのだろう。

 呪文のような言葉「想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明」とともに、宙空に現出した六角形に浮かび上がる刃。

 いや、心配は終わらない。本当に出現させられるのは刃だけなのか?僕やギボン爺さんに使われた刃は刀のような形、対してロケットを破壊したそれは鋭角二等辺三角形だった。呪文にも、「創始者A」が何を示すか知らないが、刃、武器に関係する言葉は見当たらない。

 -そういえば、ケガ、無いな…

 刃で危うく両断されるところだったはずの左腕に、おかしなことはない。おそらくは、あの世界での傷は現実に反映されないのだろう。

 …なにもかも、わからない。それでも、途中で投げ出すわけにはいかない。

 いっそ、当たって砕け散ってみるか。


                    ー″世界D″-

 「明末さん、リベンジさせてもらいます。」

 誰もいない森の奥の開けた丘。そこで二人が、見つめあって対峙していた。

 「…貴方に、私に勝てるだけのヒントを与えたとは思わないけど。

 …ハンデありでいいかしらね。

 『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』-創始者A」

 明末良音が目をつぶり、唱え終わると同時に開くーそして、愕然とした。

 明末良音の顔に、材村海斗の拳が迫る。その後ろで、青い六角形光から生まれいづる刃が、地面に突き刺さった。

 「(アルファ)!」

 明末良音は、目を一瞬つぶりながらも拳を左に避けた。

 明末良音の右手が宙空をなでると、その手のひらに沿って大きな六角形の青い光が形作られ、その端から端まで、銀色の棒が出現する。

 ガッ!

 材村海斗の拳が、棒にさえぎられる。

 「殴るしか能がないのかしら?私、女なのだけど?」

 「じゃ訳の分からないことをしないでください。魔女相手に一般人が躊躇なんてまともな結果に終わらないです。」

 「魔女…まさかこれを、魔法だと思ってるの?そんなんじゃ第二のゲームは失格ね。私はあなたと同じ人間よ。

 (アルファ)!」

 瞬時、視界が暗くなって、巨大な六角形が頭上を覆う。

 …あ、これ、ヤバい奴…

 光にぴったりな大きさカタチの鉄板らしきもの。ふちからだけ青い光が漏れている。

 …落ちてきたら、大きすぎて、避けられない…

 「ボウズー!」

 横合いから、誰かがタックルをかましてきた。

 落下してきた鉄板が、数人のマッチョによって支えられる。

 「よう、大丈夫か?」

 「は、はい…って貴方!?」

 僕を抱きかかえて、もう一方の腕で剣を抜いて明末さんをにらむ、長身で青い髪を後ろで結んだ青年。セルファさんと通りすがりの居酒屋にいた「団長」-勇者コルベ―に間違いない。

 「聖剣よ、指し示す敵を倒せ!」

 コルベ―の剣が、白く輝いて突っ込んでいく。

 -この世界においては、人が使う魔法とは別に、職人によってあるいは元から自然に物に付与される魔法がある。そうしたものはすべて魔法具と呼ばれ、その付与魔法は武器ならば「攻撃」「命中」「魔力吸収」「耐久」などのものがある。たいてい一つしかない付与魔法が全種類かけられ、なおかつ「命中」「攻撃(風)」がまさしくカンストしているこの剣は、自ら風を推力に攻撃する、聖剣というか魔剣と呼ぶべき代物だった。

 「ちっ、(アルファ)!」

 一瞬、目をつぶる明末さん。目を開けると同時に、六角形の光に包まれて、木か何かでできた壁のようなものが出現した。聖剣が、壁に突き刺さったかと思うと、壁をめちゃくちゃに破壊する。しかしその先に、誰の姿もなかった。

 「くそっ、仲間を、セルファを返せ!」

 コルベ―の叫びが、森にこだました。


                    ー″世界D″-

 「皇帝陛下、私ね、ギボンに頼らなくても、戦略魔法を作り出す方法を知っているの。」

 「…どうすればいい?」

 …聞き分けのいい子は好き。

 「そうね精製魔法ってあったかしら。」

 「聖別魔法か?」

 「そうそれ。じゃあ手始めに、最上級魔法師すべて、軍から出して。」

 皇帝が、顔を歪めてうなずく。

 …まあ、こんなこと、ギボンの力を手に入れられればしなくてもよくなるし、それにいざとなればズルだけど今でもできるんだけど。

 「さて、ゼロに戻しましょうか、エンディングを。」


                    ―*―

 「海斗、ここんとこヘンだよ?」

 「そ、そうか?」

 「そうだよ、なんかずっと真剣な顔してる。」

 「…僕が真剣な顔してちゃまずい?」

 「ん~ん。でも、明らかに、普通じゃない感じだからね~」

 「普通じゃない?」

 半分小花の話を聞き流し、そうやって浮いた頭でブラックローズ対策を考えていた自分にとって、幼なじみの言葉は妙に響いてきた。

 「具体的には?」

 「う~ん、何というか、戦ってる感じ?」

 …こ、これが、子供の勘か…などと余計なことを思っても仕方がない。実際、毎日、小花を教室で待つ間ずっと数日間に及ぶ戦いを繰り広げているのだから。

 「それにたぶん、疲れてるよね?」

 「…ああやっぱりわかるか。」

 ちゃんと、あの世界に入ってるーブラックローズいわく「介入している」-間も、睡眠はとっている。それでもなれない宿屋のベッドの寝心地は、きっと数十分に数日を詰め込んだ疲れをぬぐうには悪すぎる。

 「…まあ気にするな。」

 「気にするよ~昔一度、本読み過ぎて倒れたじゃん」

 「…そんなことあったか?」

 「あったよ~私が夜起きて海斗の部屋の方見たら、カーテン開いてて灯ついてて倒れてたじゃん。」

 小花、その話はしないでくれ…どれだけ親に絞られたと思ってるんだ…

 「あれは寝落ちしただけだ。」

 「…そんなんばっかじゃ、小花がピンチのとき助けに来られないよ?」

 「それは大丈夫。」

 いくらなんでも、本より大事なものがないってわけじゃない。

 「…うれし~♪

 でもほんと、困ってることあるなら、深入りする前に、相談するんだよ?」

 …小花には絶対相談しないし、それ以前に、もう十分深入りしてるからな…


                    ー″世界D″-

 「まず、セルファを救出しないことには始まらない。協力してもらえるか?」

 「…コルベーさん、僕は特に武芸に優れているわけでも魔法に熟達しているわけでもないですよ?」

 「それはわかっている。そのうえで、ボウズの度胸を買いたい。」

 …なるほど、仲間が集まるわけだ。

 「ならば喜んで。明末良音は、僕が何とかしなくちゃですし。

 …さてまず皆さん、一つことわってきたいことがあります。」

 「なんだ、言ってみろ。」

 「本当にセルファさんがさらわれたのだとしたら、あなた方がしていた警戒は、甘かったということになる。」

 「…ボウズ、しかしそんなことはないぞ。我々はずっと民を圧政から解放して自由をもたらすため動いてきて、目もつけられたし正規軍の襲撃だって受けたこともある。逆に警戒もすればスパイだって送った。何の兆候もないというのは...」

 「…ならばどうして、詐欺師に借金を押し付けられたり、帝国軍の兵士がたまたまコロセウムにいたり、行動に気を使っているのに帝国軍につかまったりしたんです?」

 …答えは知っている。ただ、言うわけにはいかない。

 「…まさかてめえ、俺たちの中にスパイがいるって言うんじゃねえだろうな?」

 「団長、子供一人の言葉をうのみにするのはいかがなものかと…」

 マッチョ1人と学者風の道士1人が、疑義を口にする。

 「エルン、グスト、はやるな。

 …ボウズの言ってたことは俺が考える。いいか?」

 「…まあ団長がそう言うなら」

 「団長ほど人を見る目がないですからな。」

 これがカリスマというやつかと、内心感嘆しつつも、僕はその答えを思い出して少し白けていた。


                    ー″世界D″-

 「そうねこれよこれでなんとかなるわ。」

 何も、愚かに魔法に頼り切る必要なんてない。ただこれも、超一品物には違いないけど。

 無数の銀色をした円盤が、目にも止まらない速さでぐるぐる回っている。周りでは、魔法師たちが死屍累々だった。かくいう私も、これだけの数の円盤を作り出すのには骨が折れた。

 …まあバカまじめに作らなくても、(bring)で完成品を持ち込んでもよかったのだけど。

 「さて、遊んでいる場合じゃないわね。

 …みんなはそのまま、指示したとおりにやって。くれぐれも浄化魔法を自分にかけ忘れないように、自分以外にかけないように。」

 

                    ー″世界D″-

 「すこしいいかい?」

 宿屋で。

 コルベーは、誰もが寝静まったころに部屋を訪ねてきた。

 「どうしたんですか?」

 「…ボウズ、どうして我々の中にスパイがいるかもしれないってわかったんだい?」

 「推測したからです。」

 「本当にそうなのかい?」

 嘘だ。知っていた。推測は後付け。

 「自分で言うのもなんだが、我々のきずなは本物だ。とても裏切り者がいるようには…」

 「…だからですよね?『勇者』コルベーさん」

 

                    ー″世界D″-

 私は、魔法具職人ギボンのもとを訪ねていた。もちろんこっそり。

 ギボンは私の襲撃の後、再襲撃を恐れ、工房を離れて牧場を一つ借り切ったとわかっている。アイデアをまとめるための設計図さえあればイメージで魔法具を想像してしまう彼にとって、場所などどこでもいいらしい。ロケットを発射し爆発物を取り扱うことを考えれば、空間を広くとるのは正しい選択なのだろう。

 「…ズルだから使わないつもりで来たけれど、これは『ゲーム』とは関係ないからいいわよね。

 …『万物の存する世界は仮現。その居する点を定むも愚かなり』-連行者B」

 一度視覚的雑音をはじくために閉じた目を、開く。

 想像通り、青い六角形の光の中に、私が昨日学校帰りに買ってきたドローンが浮かんでいる。(bring)アルゴリズムで持ち込んだ代物で、当然高性能カメラ内蔵だ。このアルゴリズムは整理前のものなので、ちょっと頭への負担が大きかった。

 ドローンを操縦して、ギボンが作業する草原の上へ。

 うーん、難しいわね…テレポートのアルゴリズムとかわかればいいんだけど、まだまだ無理ね…そもそも空間系は想像が難しそうだけど。

 次々と、魔法陣の光が明滅している。一種荘厳な光景。そのうえで誰にも気づかれずホバリングするドローンが滑稽そのもの。

 しばらくして、鎮座するいくつもの部品を後に、ギボンが去ってゆく。…ここで破壊してしまうのは大人げないわね。

 ドローンを回収。さて、映りが良ければいいんだけど。


                    ー″世界D″-

 「…どうして?なぜわかった?」

 「…お教えできません。ただ、理由も知っています。

 …フェイクのつもりだったんですね?」

 「ああ。我々ならば帝国軍の憲兵隊など返り討ちにできる。コロセウムにはびこる奴隷商人が憲兵隊と結びついていることなどとうに知っていた。」

 「…罠のつもりだった。それがなぜ、失敗した?」

 僕が読んだ限り、この、帝国から人身売買を一掃するために奴隷商人と結びついた憲兵を全員捕縛する作戦は、成功に終わる。セルファを詐欺師に騙されコロセウムで売られかけたコルベーの怒りはなかなかだったし、コルベーが己の恋心を自覚し始めるきっかけでもあった。

 「…明末さん(ブラックローズ)か…?」

 「そうだ、あの少女だ。憲兵との争いに乱入したかと思ったら、魔法ですらないなんかで攻撃してきた。」

 「魔法ですらない?」

 「虚空から刃や槍や壁を生み出す魔法なんて、さすがにないぞ。」

 「するとアレは一体…」

 「それにだなー

 -魔力センサに、反応しなかった。少女に魔法は使えん。少年もだが。」

 …魔法ではない何かで、呪文とともに、六角形の光の中に物体を作り出す…

 …待て?

 「出てきたものは、刃、槍、壁だったんですね?」

 「ああそうだ。しかし頭の上やら目の前やらに出現されてはどうにも…」

 「装飾はありましたか?」

 「いや、まったく。見るか?」

 コルベーが、懐からいくつかの刃を取り出す。刃と言っても、反りすらない、ただの平たい尖った金属片にしか見えなかった。

 …やはりか。

 「たぶん、作れるのは単純なものだけ…?」

 そうでなければ、銃とか作ってしかるべきだ。しかも出現させられても動かすことができないらしい。だから、単純な装飾もない刃や槍を頭上から落とすにとどまっている。

 「なるほど。

 …ところでボウズは、あの少女とどんな関係だ?」

 「…さあ…巻き込まれた側なので…」

 「…複雑そうだな。」

 気の毒そうに言われた気がする。

 …しょせん異物の身で、正しい境遇を説明するのもはばかられた。


                    ー″世界D″- 

 「我らが仲間、セルファを救出する!

 続け!」

 戦いの、火ぶたが切られた。

 帝宮のあちこちに侵入していた勇者一行が、政治犯収容所目指して走り出す。

 「森の神よ、我が為に力を!『翠乱ストリーム・フォレスト』!」

 道士風の男が地面に杖を突きさすと、無数の芽が生えてきて、一瞬でつるになって帝国兵を縛り上げた。

 「嬢ちゃん!」

 前髪で片目を隠していた少女が、手でその前髪をどける。目の周りに刺青として刻まれた精緻な魔法陣が輝き、目がフラッシュを焚いた。

 「は、はひっ!凶睡パラリシスティック・スリープ!」

 忌魔法「凶睡」ー自身の目とその周りを魔法具化して、心の中の魔力を視覚内に注ぎ込みそのすべてを使用者の平均睡眠時間だけ眠らせる魔法が、縛られた兵士たちを倒す。

 そうして、レンガ造りの収容所が見えてきた。

 「…コバエがおるよのう。」

 ずらりと並ぶ帝国軍兵士。その後ろで、あごひげをなでる、酷薄そうな青年皇帝が玉座にふんぞり返る。

 「嬢ちゃんもう一度!」

 「は、は」

 「おっと勇者さん御一行?それをしたら彼女はどうなるか、わかるかしら?」

 玉座の後ろから、切れ目の鋭い、ドレスを着た少女が現れる。その手に握られた剣は、少女が抱くセルファの首に突き付けられていた。

 「…明末さん!」

 材村海斗が、飛び出そうとしてコルベーに止められる。

 「ふふ、私の思い通りに動くんだから、貴方結構わかりやすいのね。

 …ねえ、抑止力ってどういうことかわかる?」

 「…圧倒的な力があれば、戦争での被害を警戒して戦争は起きない。そういうこと。」

 「それって、この状況よね?

 私が剣を止めている間、貴方たちは何もできないだけど私が剣を動かせば、誰一人として生き残らない。これが、貴方たちの目指す平和の意味よ?」

 

                    ー″世界D″-

 いつからのことだったのだろう。

 「現実は、まともなオチでは終わらない」、そう、思うようになったのは。

 私以外の人間が幸せで、私たちが幸せでない、そんな状況を許せないと思うようになったのは。

 -だから、私は人間の善意なんて信じない。

 -だから、私は、ハッピーエンドなんて許さない。

 「ねえ、どう思うの?

 …それともまさか夢見がちな子供のように、なにも犠牲にせず平和が実現できるとでも思ってる?

 そうね勇者なら一人でここの全員を殺して最大国家を滅ぼすことも可能だけど、それで、私がこの人の首を掻くことをきっかけに平和を実現してみる?」

 片手で命をもてあそぶような物言いに、自分で心が痛む。それでもー

 -完璧でないのならば、いっそ0であった方がすがすがしい。

 -それとも材村くん、貴方は私に、何か見せてくれたりするのかしら?

 「明末さん。確かに僕たちは『平和は、女神が剣を携え現れる時代にしか訪れない』って言葉に、囚われ続けている。だけどそうじゃない!

 この人たちは、剣を手放せる人たちだ。

 明末さん(ブラックローズ)は、できないか?

 いや、彼らにできて、僕たちにできないはずがない!平和は本来、そうあるべきだ!」

 -その言葉は、やけに私の心に刺さった。


                    ー″世界D″-

 -何でもいいから、剣から手を離させなくてはならない。でもそれ以上に、ブラックローズの言葉は心をついた。

 抑止力って言うのは結局、国すら滅ぼしかねない戦略兵器の恐怖で、平和を強制することに過ぎない。目を向けないで逃避して戦争を起こすものもいて、結局戦争はなくならなかった。

 -理想は、誰もが剣から手を離すこと。そんなこと、心の底ではだれもがわかっている。

 「(私は) don’t(そうは) think so(思わない)。現に私は手を離さない。ならば貴方も剣から手を離せないのでしょう?」

 …そこまで言うのなら。

 僕は、武器をすべて投げ捨てた。

 「…ブラックローズ、もう一度お願いします。

 …剣から手を離して、セルファさんを渡してくれ。」

 「…貴方、本当に手を離すのね。

 一度死んでくれたら、考えることにするわ。

 『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』-創始者A」

 瞬間、激痛が脳天に響いー


                    ―*―

 「ぐああああああああっ!」

 僕は、すさまじい痛みに目を覚ましー

 -あれ、痛くない?

 痛くないな。

 頭に手をやるが、別に何もおかしなことはない。

 僕の右手に触れていたらしい明末さんの左手が、ふらっと垂れている。

 …僕はそこで、少しのいたずら心を起こした。

 不思議な力を使うとき、明松さんは両眼を閉じて呪文のようなものを唱え、それから目を開くと、不思議に物体が現出する。

 …じゃあ今、閉じている眼を開いたら?

 普通に考えて女の子にそんなことはしない。だけどさすがにあんなことがあった後だ。これくらい許されよう!

 -僕は気づかれないようにそっと、椅子の背もたれに体を預ける明末さんの左目のまぶたを、指で持ち上げようとして、触れるとまた飛ばされるかもしれないので思い直し、消しゴムの透明なスリーブを外して人差し指にはめ、そっとまぶたを上に持ち上げてみた。

 開かれた目から、瞳が見える。今まで真っ黒だと思ってきたそれは、深い蒼をしていた。

 色が徐々に変わり、光るきれいな蒼が、色も光もない黒になってゆく。...一体…

 「…貴方、寝ているいたいけな乙女にいたずらしようとは良い度胸ね。」

 「…僕の頭に上から槍か何か落としていてそれ言います?」

 「…頭じゃないわ地面まで貫通してたから全身ね。それと槍じゃなくて鉄杭よ。」

 なんの弁護にもなってない…

 「一応聞くけど、それでどうなったんです。」

 「…粒子になって消滅したわね。貴方なかなかに謎よね。」

 「…ああそう。」

 「とりあえずセルファさんは解放したわ。あそこで意地張っても仕方がないし。ああいう魔法だってしぶしぶ納得させて、帰したわよ。」

 めんどくさかったと明末さんはぼやいた。

 「…なんで、邪魔するんです?」

 「…ゲームだからよ。」

 「…いや明松さん、本気だったでしょう。それにゲームなら、ハンデありすぎです。」

 「うるさいわねこれでもアルゴリズム使ってないのよ。」

 アルゴリズム?計算方法?一体それは…あの力の正体?

 「まあ今は汎用的なのが一つだけ…

 …それはいいのよ用は済みそうだし。」

 いつの間にか、明末さんの机の上に、ドローンが置かれてある。明松さんはそれを手に取ってカバンにそっと入れ、立ち上がった。

 「じゃあ。明日で決着よ。」

 「…待って明末さん!」

 「…何?」

 「明末さんは、何でこんな悪辣なことができるんだ?」

 「悪辣、ね…

 私は、人間本性はこんなもんだと思うわよ。」

 そんな馬鹿な。

 「…貴方は、人間の善意って信じる?

 私は、一人一人はともかく、集団の人間に善意はないと思ってきた。だってそうじゃない?もっと人間がいいモノなら、この世に不幸な人間なんていない。

 なくならない戦争、肥満になる人や食品ロスが問題になる国がある一方で、飢餓国家がほとんどの大陸もある。世界の富のほとんどはわずかな金持ちのもとに集まり、差別は止まず、雁首揃えて無駄な時間ばかりが浪費される中、資源と環境だけが食いつぶされていく...

 それでも貴方は、ホモ・サピエンスの善性を信じられる?」

 こじらせた考え方だ。僕はそう思った。でも同時に、フィクションに逃げている自分には否定する権利がないなとも思った。

 「私は信じない。

 …人は朱に交われば赤くなる。社会は朱を含めれば赤くなる。私はそう思ってきた。

 だから私は許さない。同じ人間の世界なのに、どうしてそんなに幸せなの?どうしてそんなにうまくいってるの?

 たった一人の勇者で、たった一人の英雄で、誰もが救われるなら、私たちは何なの?

 …だから私は、0にしてやることにしたの、世界を不幸に、それも全部、この世界の水準まで。」

 いくらでも反論が許される、暴論ですらない無茶苦茶。なのに僕は、迫力に気おされ、言い返すことができなかった。

 「…チャンスをあげるわ。

 明日正午、帝都沖5キロ、無人島で、私監修の、あの世界初の戦略魔法兵器が発動するわ。精製魔法で作り火炎魔法で起爆するウラン型の原子爆弾、威力はヒロシマ型の等倍から2倍ね。

 …貴方が人を信じるなら、止めて見せなさい?あの世界に、二つも戦略兵器はいらないでしょ?

 じゃあ。」


                    ―*―

 「…海斗、ほんと大丈夫~?」

 「...あんま大丈夫じゃないが…

 なあ小花、小花は、誰かに幸せになってほしいのと、誰かが幸せになるだろうから不幸にしたいのと、どっちが普通だと思う?」

 「ん~...はっ!

 ついに海斗も、『リア充爆発しろ!』って、思うようになったんだね!?小花あの草食系の海斗が恋愛に目覚めるなんて感慨深いよ~」

 「違う。そうじゃない。」

 「え~でもほんと、難しいことなら、私に聞かない方がいいよ?だって答えを出すのが難しいのは、大切なことだからじゃん。」

 「…大切なこと、ね…

 わかった。僕だけで、決めて見せるよ。」

 「え、なになに、告白するの~?」

 「しないよ。つーか誰にするんだよ。」

 「祈ちゃん?それともブラックローズ?」

 「…小花、まだ死にたくない。」


                    ―*―

 「ただいまー...」

 返事が返ってくるわけないわよね。

 誰もいない家に灯をつけ、きれいに片づけた机の上にドローンを置く。

 私はドローンから高精細カメラを取り外し、パソコンにつないで、再生した。…しかしちゃんと動くのね。異世界でも動くなんて日本製さすが。

 真円を同心円状に重ね、円と円の間に呪文らしきものが書かれたひし形がある、設計図の上に書かれた魔法陣。

 光り出した魔法陣が、ひし形を回転させていく。それに従って、円が浮き上がって、同心円状の配列から縦に重なった筒になる。

 -ここまではじかに見ている。

 私は制服のスカートのポケットから暗記カードと愛用のケースを取り出した。ケースの中から無色透明なビー玉を2個取り外し、一個を右目に当てる。暗記カードの「design(設計する)」を外し、目をいったんつぶってから開く。

 ビー玉の向こうで見える動画では、設計図の部品が一つ一つ光に包まれて現れ、組みあがっていく。そして次々、よくわからない魔法具や、ロケット部品になっていった。

 「…ふーん。」

 頭の中で反芻を開始する。光景は、設計図の部品が現れ、順番通り組みあがっていく様子。そして想像するのは、複雑な部品からなる物体が、原子レベルから始まって構築されて設計されその通り現出する様子。

 「『あらゆる力は解釈の相違。ならば汝全てを捉え直せ』ー複製者C」

 使うのは初めてのアルゴリズムだけど、望んだものが手に入った感覚がした。

 「…キーワードは何にしようかしら。」

 

                    ー″世界D″-

 「ボウズ、大丈夫か?」

 真上に、さわやかイケメンな男の顔が…

 「うわっ!」

 「いてっ!」

 青年―勇者コルベーがのけぞる。

 「す、すみません!」

 「い、いやいいんだ…」

 「そうだ。それに少年は私を助けてくれた。」

 セルファさんが、湯気立つコーヒー(?)を差し出しながら頭を下げてくれた。いや僕ココア派…

 コーヒー派(アメリカ)紅茶派(イギリス)の間でのココア派(オランダ)の肩身の狭さに思いをはせつつ泥水をすする。

 「それで今は…?」

 「父の牧場よ。

 …少年、丸一晩眠るなんて心配したじゃない。」

 …は?丸一晩?

 「…コルベーさん、セルファさん!今すぐ、帝都沖5キロの無人島まで!」

 「な、何を言ってるの?」 

 「そんなの船がない以上最上級風魔法でも使わないことには…」

 「だったらそうしてください!」

 「いやそれも無理だ。帝都の防空圏を無防備なままに通過するなんて無茶だ。まず自動迎撃魔法をどうにかしないと…」

 「じゃあどうすれば…あっ!」

 「待ってくれ少年、先走らず、私たちにも事情を説明してくれ。」

 「…今日正午、世界初の戦略魔法が、帝都沖で使われるんです。」

 「おいおい、マジか…!」

 「はい。そしてそれは、都市一つ、国一つ焼き尽くせるポテンシャルを秘めているのみならず、放射能という有害物質をまき散らす可能性があります。そうなればその兵器が使われたところは、50年草も生えないかもしれない。」

 「…それは、しかし…」

 「浄化魔法でどうにかならないのか?アレは有害なものを無害になるように変化を促す魔法だろう。」

 有害なものを無害になるように変化を促す…

 「普通の毒物と違って、放射能は無毒になるのに何十万年、ウランなどでは何十億年かかります。それに直接の被害範囲は半径数キロ、風に吹かれ、あるいは水に混じれば浄化すべき範囲は計り知れなくなります。

 …いや待て、放射能物質がもし有害な物質になるなら…

 …ギボンさんいますか?」

 「父ならいるぞ。だがそれが…あっ!」

 「ボウズ、戦略『浄化』魔法ってわけか。いいなお前!」

 「はい!」

 

                    ー″世界D″-

 材村くんが来る気配はない。上空からでは帝都防空圏を抜けられない以上、船がないならば、すでに彼らが来る可能性は失われた。 

 「…期待しすぎたのかしら。」

 今さら誰かを信じようだなんて。善意を全否定はしないけど、そこまで強いモノでないのはやはりなのかしら。

 …そうよねただのフィクションよ。登場人物の幸不幸にいちいちかまっている人がいるわけないじゃない。

 私は沖合を見つめていた。高台にある帝宮からは、遠く沖合までもよく見える。

 「…材村くん、がっかりよ。」

 その時だった。

 周囲、否、帝宮全体が光り始めた。


                    ー″世界D″-

 「父上!」

 「ああ、セルファ、わかっておる。じゃが浄化魔法は戦略級にはできないんじゃ。」

 「なぜですギボン殿!」

 「いいか婿殿」

 「む、婿殿…」

 「戦略魔法『カイザル(皇帝)()シュライヒェン(叫び)』は、増幅魔法で一気に魔法陣が入る殻の耐久度の数百倍まで威力を増幅し、破壊された殻から魔法が爆散するというのが大まかな仕掛けじゃ。

 じゃが浄化魔法には耐久度限界が存在せん。たとえ密度をことわりの埒外まで高めようとも、それで殻を破ることも、爆散して周囲に広がることもない。」

 考えてみれば、当然ではある。魔力にはエントロピー増大の法則が働かず、ために火炎魔法で空気の熱膨張をさせて空気とともに拡散させるか、密度調整の魔法を組み込むしか拡散の手立てがなかった。ギボンの戦略魔法も、増幅前の最上級魔法を全方位から円錐形に拡散する形で加えることで、範囲を広げている(らしい)。逆に言えば浄化魔法ではたとえ殻が破れたとしてもその時点で進行速が0となり、とどまってしまう可能性が高かった。

 「でもそれでは…」

 「待つのじゃ少年。話を最後まで聞きなされ…」


                    ー″世界D″-

 帝宮全体の構造を魔法陣とする自動迎撃魔法「天覆弓ルーフィングアロー」。それは、常時帝都上空の一定以上の大きさのものに照準し、実際に照準されると同時に精密魔法で帝都上空全域に常時薄くかけられている加熱魔法が一点に収縮して魔法密度を数千万倍へ高め、飛行物体を蒸発させる魔法である。現状世界最大最強の魔法と言ってよかった。

 戦時発動によって発光し始めた帝宮全体が、帝都上空に侵入した飛行物体に照準を合わせ、そこへ加熱魔法を収束させていく。

 -しかし、飛行物体のほうがずっと速かった。

 衝撃波をまき散らし、外部から取り込んだ空気を加熱・加速させて吐き出すその反動で、グングン進んで行く。

 高空にいくつも、熱が収束して生まれた赤い陽炎が揺らぐ。しかし一つとして、ロケットに収束させること叶わない。

 熱の塊がロケットの後ろの一点に収束させられては、失敗判定で魔法が自動再起動されて拡散し、また再び、少し前の位置に収束していく。

 迎撃は全く失敗し、人工物の飛行速度の世界記録を2桁更新する速度でロケットは沖合へ飛んでいく。

 それでもなお、皇帝は核兵器魔法実験中止を下命しなかった。


                    ー″世界D″-

 無人島の中央に、3階建てのやぐらが建てられている。それだけ見ると吉野ケ里遺跡のやぐらのようだったが、確実に似つかわしくないことに、やぐらの最上階には黒い落花生型の物体がデンと置かれていた。

 世界初の戦略魔法具「惨劇トラゴディア」。精製魔法により鉱石から選別されたウランを、六フッ化ウランとしたのち魔法を使って回転させる遠心分離器によってウラン235と238に分離、再びの精製魔法で単離したウラン235二つを落花生型のふくらみそれぞれに詰め、時限で加速、衝突させることで合わさって臨界質量を越えて連鎖核分裂を起こすようにしてある。

 実際、放射能物質についての知見などまったくないルネサンス以前の文明レベルだったからこそ思いつけなかっただけで、核爆弾製造自体は何のことはなかった。しかしそれは同時に、被爆者の治療など不可能なことをも意味する。

 畏怖で戦争を終わらせられるか、それとも、終わらない惨劇の時代が幕を開けるか…

 起爆十秒前、その時、衝撃波音が響いてきた。

 マッハ1=秒速約340メートル。すなわちマッハ1,5近くで飛翔するロケットは、5キロを10秒で到達、帝都防空圏を抜けた次の瞬間には無人島への落下を開始している。むろん防ぐすべなどなく、ロケットは上空300メートルにて魔法駆動ジェットエンジンを停止させるとともにそれ自体をトリガーにして最上級火炎魔法とその魔法式に組み込まれた最上級浄化魔法を発動した。

 弾頭の中心にセットされた球体に、全方位から魔法が加えられたことで、増幅魔法によって密度はそのまま範囲を数十倍に増幅された最上級火炎魔法が、無数に全方位から球体内部の空洞中心に加えられ、球体の耐久限界をはるかに超えた最上級火炎魔法は球体を完全に破壊、炸裂する。

 拡散ろうと形に作られていた、幾重にも重なりあって密度を限界まで高めた2種の増幅最上級魔法は、薄まりながらも全方位に火炎をまき散らした。浄化魔法が組み込まれた、いわば「浄化の炎」が、全方位、熱波となって半径数キロへ一瞬で拡散する。

 起爆されたはずの核爆弾は、連鎖核分裂を始めようとした瞬間、ウラン含むすべての放射能物質が放射能を持たなくなるまで自壊し、次いで数千度の高温で蒸発した。

 熱された海水が水蒸気爆発を起こして吹き上がり、5キロ隔てた帝都の港をも霧で包む。冬の帝都に、真夏の熱気と湿度が駆け抜けた。

 急速な熱膨張は、爆心部をほぼ真空にする。そのために発生した蒸気を含む空気が中心部へ引き寄せられ、飽和水蒸気圧をはるかに超過、雲を発生させ、それは熱による上昇気流で空高く舞い上がりキノコ雲を形成した。

 

                    ー″世界D″-

 「…まさかこれほどの威力を誇ろうとはね。やるじゃない材村くん。」

 私は、空高くそびえて帝都住民を恐怖させるキノコ雲に、感嘆を禁じえなかった。

 皇帝を名乗る馬鹿が、馬鹿なことをしようと立ち上がる。

 「…陛下、悪いけど、アレ貴方の戦果じゃないわよ。」

 「何...!?」

 「少なくともそのはず…

 『われら構造を知らば万象を想像せん。ならば我が設計、万物掌に創造せよ』ー設計者D!」

 この世界に入る前、私はインターネットでガイガーカウンターの設計図を見てきた。その通り、部品を想像し、設計を想像し、それらが完成して在る様子を想像する。

 目を開く。

 手の上に光る青い六角形が消え、放射能検知器ガイガーカウンターが右手に収まった。電源を入れる。音はならない。

 「陛下の戦略魔法は、あの爆発で浄化されてしまったみたいね。」

 「だ、誰だそんなことをしたのは!?」

 「…陛下、自分で頼んでおいて、まさか忘れたの?」

 「…あんのクソジジイ!」

 下品なうえにブーメランよそれ。

 「へ、陛下!賊が侵入した模様でふわあ…」

 駆け込んできた護衛兵が、あくびとともに卒倒し、その後ろから、片目の周りに複雑精緻で荘厳な目の形の魔法陣を刻まれたおどおどした少女が現れた。

 「…意識に作用する貴女とはまだ、分が悪いのよ。

 まあもう、会うことはないのでしょうけど。」

 …観測終了…


                    ―*―

 「はっ!」

 「…貴方、不審よ。」

 「不審って、あんまりじゃないですか。」

 見慣れた教室へ一瞬で景色が切り替わり、横から冷たい瞳に覗きこまれた。

 「貴方だってよく、作業中にウィンドウ閉じずにパソコンの電源ボタン押すでしょ?」

 「そんな、全部閉じて、ちゃんとシャットダウンしましょうよ。」

 「…細かいわね。まあいいわ。

 …ところで、貴方の側はどうなったの?」

 「帝都に侵入したコルベーさんたちが、皇帝に、戦略魔法をもって休戦を呼びかける、そういう予定でした。『こんなことで人も国も消えていくようではいけない、もうやめにしないか』と。」

 その感動的瞬間を見れるはずだったんだけどなあ。

 「ふーん。うまくいくと思うの?」

 「僕はそう信じています。平和が訪れ、やがて悪は一掃され、笑顔が戻ると。」

 「…じゃあそうすれば?私は信じないけど。」

 …どうすれば、ブラックローズに、幸せを願わせられるのだろう。

 「…じゃあもう一回、しませんか?『ゲーム』」

 ほんの出来心で、つい、僕はそう言ってしまった。

 「…EFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ…

 そうねどうせ後22回は有意義だし。いいわよ。ただー

 -今回は負けたから、次回は手を抜かないわ。覚悟はいい?」

今回獲得したアルゴリズム


設計者design 略称:D アルゴリズム:「われら構造を知らば万象を想像せん。ならば我が設計、万物掌に創造せよ」 効果:脳内で部品を想像し設計・組み立てを想像することで、実際に目的の物体を現出させる。




ー*ー


今迄ずっと、1週間に1話公開して参りました。しかし今シリーズのストックが少ないため、しばらく1か月に1話投稿とさせていただきます。

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