表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/20

第七話 姉さんはそんな事言わない

「……ふん」


 ソイルの容赦ないお仕置きが終わり、山賊達は今や物言わぬ物体へと成り下がっていた。


 ここまでやる必要はあったのか、傍から見るとそう思う人も居るだろう。


 あったのだ、ソイル的には。


「あ、あの、ありがとうございました!!」


 姉妹がソイルにお礼を言ってくるが、ソイルはそれには答えない。


「この先にある街までさっさと行け、二度は助けないぞ」


 ソイルはそのままその場を後にしようとするが、姉妹はそんなソイルを呼び止める。


「た、助けていただいたお礼を……」


 お礼? そんなものを受けるような事はしていないとソイルは思う。


 本当に助けるだけであるなら、山賊など追い払えばよかっただけなのだ。


 殺す必要性なんてなかったはず。そしてこの姉妹もそれが分からないわけでもないだろう。


「……お前たちは運が良いから助かった、それだけだ」


 そのままソイルは去ろうとするが


「待って……痛っ!!」


 姉の方がソイルを呼び止めようと立ち上がろうとして……そのまま座り込む。


 どうやら山賊との戦いで足を痛めたようだ。


「お姉ちゃん……」


 妹が姉に駆け寄り、心配そうにしている。そしてソイルも


「……はぁ」


 このまま姉を放置する事を躊躇われたのだ。


「……見せてみろ。応急処置くらいならしてやる」


 ソイルは姉の横で片膝を付き、痛めた足の具合を見ると言ってきた。


「そ、そんな、助けてもらって怪我まで見てもらうなんて」


 姉の方は恐縮したようなそぶりを見せるが、ソイルとしては遠慮されると困るのだ。


「いいから見せろ!! このまま放置したらまた山賊に襲われかねん」


 ソイルは無理矢理、姉が庇うようにしている方の足を見る。なるほど、腫れ上がっており捻挫をしているようだ。


 だが、この程度なら……


「ヒール」


 ヒーラーに変身せずとも、自前のヒールの効果だけで十分だ。


 ソイルのヒールはすぐさま姉の足の腫れを治療し、最初から怪我など無かったかのような状態まで完治した。


「す、すごい……戦闘技術も凄かったけど、並のヒーラーすら超える回復魔法よ、これ。……貴方、何者なの?」


 姉がソイルの顔を興味深そうにのぞき込む。そこでソイルは初めて姉、というか姉妹の顔を見る事となる。


――どことなく似ている、姉さんに。


 いや、恐らく2人並べて見た場合、全然似ていないだろう事は理解はしている。ソイルの姉は怒ると怖いが、どちらかと言えば柔らかく優しい感じの空気を醸し出していた。


 一方のこの姉はサラサラとした金髪に意志の強そうな吊り目であり、灼眼である事がさらに意志の強さを感じさせる。だが一方ではその深紅の瞳は見つめられれば吸い込まれそうなほどに澄んだ瞳であり、その瞳の奥には強さと優しさが共存しているかのようなそんな印象を受ける。


「……たんなる通りすがりだ。怪我は治ったな? 俺は行くぞ」


 と立ち上がりその場を去ろうとすると……今度は妹の方がソイルの腕を掴んで放そうとしなかった。


 妹の方は姉の方とは逆に気が弱そうな見た目である。ミディアムな長さの青髪に穏やかな感じの青目だが、今は俺の手を放すまいと真剣な視線を俺に向けている。先ほどの山賊に自らを差し出して姉の助命を乞うたところもそうだが、一見気が弱そうに見えてその実、芯が強いのだろう。姉と色は違えど、澄んだ瞳の奥にある優しさと強さは同じものがあるようだ。


「……なんだ?」


「……しを……に……」


 何かを言おうとしてるが、声が小さくて聞こえない。だがソイルはその先の言葉を待つ。


「わ、わたしを。弟子にしてください!! 私も、貴方のような回復魔法を使えるようになりたいです!!」


 きっと、自分なりに出来る事をやろうと思ったのだろう。そして、その気持ちに対してソイルは拒否をする言葉を持たない。何故なら……


「それは、自分の姉の力になりたいから、か?」


「はい!!」


 正直に羨ましいとさえ思う。自分には叶えられなかった事だからだ。


 姉を守る、姉の力になる。そう言える彼女が眩しくて羨ましかった。


 だからこそ、ソイルは言いたい事があった。


「姉の力になりたいと言えるのに、何故先ほどは自分の身を犠牲にしようとしたのだ?」


「……私は、何も出来ません。弱いです。だからせめて、自分の身を犠牲にしてでもお姉ちゃんを守りたかった……」


 ソイルは分かっていたのだ、妹の気持ちも、姉の方の気持ちも。だからこそ、これだけは言いたかった。


「……そこの姉、妹の事は大事か?」


「大事に決まってるじゃない」


「……自分の事を大事に思っている姉が、お前を犠牲にして生き残ろうとすると思うか?」


 姉を守れなかったあの時、自分の命と引き換えにしても守りたいと思ったものだ、ソイルは妹の気持ちも分かる。だけれど、今思うとそんな事は姉が望まないと分かってしまっているのだ。


 だからソイルは彼女を見た時、自分の何も考えていない子供時代を思い出し無性に腹が立ったのだ。山賊を皆殺しにしたのはその苛立ちからくる八つ当たりである。


「……分かった、お前の姉が許すのなら魔法を教えてやる。だがこれだけは約束しろ。お前の姉は、お前を犠牲にして生きる事なんて望んではいない。お前が苦しんだりお前を失ったりしてまで、幸せになろうとしないだろう……姉さんは、そんな事言わない」


 ソイルは最後にふと言葉に出してしまった言葉の「姉」が自分の姉の事なのか、それともこの妹の「姉」の事なのか、分からなくなってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ