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第五話 遭遇

「はっ!!」


 ソイルは宿の自分の部屋で目を覚ます。


 どうやら先ほどレヴァイに腹部を殴られ、気を失っていたようだ。


 外を見ると夕刻頃、丸半日気を失っていたのだ。


――それにしても懐かしい夢を見た


 勇者パーティーに入ってまだ1年も経たないが時々忘れていたこの感情、俺から全てを奪った勇者をこの手で殺す。


 昔と関係性は違えど、レヴァイと仲良くすることにいつの間にか懐かしさすら感じ、怒りを忘れていたのかもしれない。


 そういう意味では勇者パーティーから離れた事は良かったのかもしれないな、とさえ思う。


――この怒りを持続できるから


 だがパーティーから離れた事で困る事もある。


 仮に魔王を倒し魔王撃破の報告をレヴァイが行ったが最後、レヴァイは国の英雄として皆から注目を置かれる立場となる。


 暗殺の実行という意味でも難易度は跳ね上がる上、万が一実行しようものなら国の英雄に弓弾く事になる。国を敵に回しかねないのだ。


 魔王を倒し、その後英雄と祭り上げられるまでの短い期間しかチャンスがない。パーティーに居ればリアルタイムでその状況が分かるのだが、戻れない以上は外から探っていくしかない。


 だがナックルとチェイス、この二人が協調してレヴァイを守ろうとすると、本来の力をフルで使ってもソイルは手を焼くだろう。


――やはり、魔王を撃破して一番疲弊したところで襲うのが一番か、そのためには単独で魔王城に行ける程は強くならないと……


 流石に勇者に恨みを持つ者は少ないだろうから、仲間を募るのは空振りに終わる可能性が高いとソイルは思う。


 ふと身の回りの道具を確認すると、全て道具はそのままであった。


「……命を狙ってる手前こんな事言うのもおかしいとは思うのだが、命を狙って来た相手の道具をそのままにするのはどうかと思うぞ」


 さて、とソイルは荷物から黒衣のフードを取り出し、ヒーラー用のローブから着替える。そして左手を顔に添え数秒、本来の自分の顔に戻る。


 そのまま窓を開け、窓から跳躍、屋根の上を飛び跳ねながら街を後にする。


 ソイルが去った部屋の扉がしばらくしてノックされる。


「お客さん、夕食は食べるかい? お仲間さんから1週間くらい滞在出来るくらいは預かってるから、体調戻るまでゆっくりしていきな……あれ?」


 部屋に入ってきた宿のオカミは無人となった部屋を見てしばらく呆然としていた。



 さて、とソイルは道を走りながら考えを巡らせる。


 勇者パーティーがこれから取る行動、それは、高レベルのヒーラーの確保だろう。


 となると、近日中に魔王城に突貫、とはいかないはずだ。


 少なく見積もって3か月程度は準備期間を取るだろうとソイルは踏んでいた。だからこそ引っかかるところもある。


 何故旅路を急ぎたいと言っていたナックルとチェイスがそんな余計な時間がかかる事を良しとしたのか。


――まあ、考えても仕方ないな。


 それよりも優先すべきは、村の皆の墓参りだ。


 ソイルは石材加工の技術なんかは持っていなかったので石を積み上げただけの、墓と言われないと分からないレベルの粗雑な物だが……時々自分以外の人が花や供え物をしている事があり、最低限墓としては機能しているものだった。


 懐かしい夢を見た直後だからか、ソイルはそこに誰も居ない事を知っていても内心皆が戻ってきている事を期待してしまう自分を叱りながら、それでも逸る心を抑えられずにいた。


 森を突っ切り、村への最短ルートを通ろうとしたまさにその時だった。


 ソイルのアサシンとしての耳が、森の方からキンキンと金属が打ちあうような音を拾った。


「何だ?」


 ソイルはアサシンとして訓練を積んだため、何か自分に危険が迫りそうなものに関しては敏感にその気配を感じ取る事は出来るものの、師匠の言いつけから何かの能力を特価させるような事はしなかった。


 師匠は「仮面術を鍛えればスペシャリストの能力は変身で使えるようになる。今は基礎能力を育て、どんなスペシャリストの能力も使いこなせるように」とソイルを育てていたのだ。


 だから今のソイルは遠距離に居る戦闘している人間が何人居るのか、などは分からない。


 この距離から観察するためには……ソイルはジャンプでそこそこ高い位置の樹の枝に飛び乗り、そこで左手で自分の顔を覆う。


 そのまま、スナイパーの姿に変身する。いくらヒーラーの姿であったとはいえ、ソイルの暗殺者としての動きを見通しただけでなく指弾で牽制して見せたチェイス、これもスナイパーの視力の高さからくるものだった。


 そしてスナイパーの姿のまま目を凝らす。おおよそそこから300メートル離れた場所に大人数の男……姿形から見るに、山賊といったところだろうか、そしてその大人数の男に囲まれた2人の人物、それは……


「……女?」


 膝を付いて座り込む女と、その女を守ろうと武器を構え立ち塞がる女の2人組であった。

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