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第二十話 美しさとは

 ミリーはミーシャから話を聞き、しばらくの間どのような言葉をかけていいものか分からなかった。


 これまで暗殺者として人と交流を持つときは仮面を被って接してきたのだ。だからいつも通り仮面をかぶって何食わぬ顔で反応してやればいいだけなのだが、不思議な事にその時のミリーは仮面を被ったままの反応はしたくないと思ったのだ。


「……何で、私にこの話を教えてくれたのかしら?」


 ミリーとしては中級ダンジョンの出来事などでミーシャ、セレーナの仲が深まった自信はある。それでいてもコンプレックスになるような部分、その内容をこうもストレートで教えてもらえるとは思っていなかったのだ。


 信頼されているようで嬉しい反面、予想外の出来事でちょっと面食らってしまっている。そんなミリーに対し、ミーシャはどこかバツの悪そうな感じの声色で


「ご、ごめんなさい。急にこんな話されても困るわよね!? こんな感じだから、背中が大きく見えるような服を選ぶのだけはやめて欲しいって言いに来ただけよ!」


 と誤魔化すような口調でミリーに話しかける。だがミリーは分かる、ただそれだけではない事を、そして、ミリーとしての姿ではミーシャに何を言っても慰めにも何にもならないだろうことを。


 ミリーがどうしたものかと悩んでいると、どこかバツが悪そうにミーシャが


「そ、それだけ言いに来ただけだから!! じゃ、じゃあね!!」


 と部屋を出て行こうとする。


「あ、ミーシャちょっと待って……そうね、私もミーシャに見せなきゃならないものがあるわ、もう少しだけ後ろを向いていてもらえるかしら?」


「え、ええ。分かったわ」


 ミーシャが扉に向かって歩いて行こうとする歩を止めたので、ミリーはその状態で左手を顔面を覆い、そのまま姿を変える。


「ミーシャ、こっちを向いていいぞ」


 ミーシャが一瞬ビクンとするが、そりゃそうだ。この姿でミーシャの前に出てくるのは初めてなのだから、もちろん声も違う。


「……!!」


 振り返ったミーシャが恐怖と驚きと痛々しさを混ぜ合わせたような、どこか顔色が青ざめるような感じになった。そう、今目の前に居るミリーの姿は……暗殺者としての姿、つまり顔面が半分焼け爛れた元の姿であった。


「ちょ……ミリー……いや、ケイヴ? そ、その顔は……? 大丈夫? 痛くないの?」


 やっぱり優しい娘だ、とミリーは思う。振り返ったら顔が爛れた見た事も無い男が座って居るのだ、普通なら恐怖を感じてもおかしくはない。そんな中でもミーシャは怪我をしている相手の事を気遣うような反応を返してくれている。


 これはミリーとミーシャの間に絆がちゃんとある証拠なのかそれともただ単にミーシャが優しいだけなのかは分からないが、少なくとも悪い感情ではない。


「ミリーで呼び慣れてるだろ? ミリーって呼んでくれて構わないぞ。それに、もう怪我は痛まないよ。それよりこの怪我についてなんだが……これも大体はミーシャと同じさ。村が襲われ、その時に出来た傷だ。この焼け爛れた顔は二度と戻らないんだってさ」


 ミーシャが意を決して秘密を打ち明けてくれたのだ。いくらでも表面上の慰めなんて出来るだろうが、それでもミリーは自分の元の姿で言いたいことがあった。


「ミーシャ、君は自分の背中の傷を醜いものと思っているようだが、それは俺から言わせれば全く逆だぞ。その傷は身を挺して妹を守ったという、君の優しさなんだ。だからそんな傷で君の事を嫌いになるような相手には好きに言わせておけばいい。そんな傷で好き嫌いが分かれるような男は大体大した事は無い奴だし、俺はその傷も含めて君が最高に魅力的な女性だと知ることが出来て嬉しいと思ってるよ」


「み、魅力的だなんて……その、ありがとう」


 ミーシャは顔を赤らめ、どこか照れ臭そうにお礼を言うが、ミリーとしては自分のような化け物のような見た目の男に褒められて嬉しいのかなと少々疑問ではあった。


「と、ところでミリーのその顔は……えっと……」


 急に顔の怪我を見せて来たミリーの意図を図りかねているようだ。


「俺の顔の怪我も君と同じ、村の襲撃の際に出来たものだ。俺は燃える村に無謀にも飛び込み、そして家で倒れる家族を発見した。そんな中で姉を抱きかかえ、呆然としていたせいで出来た怪我だ」


 ミーシャが言葉を選んでミリーに声をかけようとするが、なかなか言葉が出て来ない。どうお世辞を言おうにも、あまりに強烈な見た目をしているために言葉が選べないようだった。


「その……お姉さんは……」


「助けられなかった……と言うか、俺が駆けつけた時は手遅れだった……だから俺のこの怪我は、俺が俺を許さないための呪いのようなもの……誰も守れなかった自分を責めるための怪我なんだ」


 そこまで言うと、ミリーは顔をまた左手で覆い、女性の姿に戻る。


「この姿が助けられなかった姉さんの姿なの」


 そう言うと、どこか陰鬱としかけた部屋の中の空気を吹き飛ばそうとするが如く、ミリーはペロッと舌を出しておどけてみせる。


「だから今はコンプレックスだったりするかもしれないけれど、貴女がいつかその傷も自分の一部だと胸を張って言える日が来る事を祈ってるわ。貴女のその傷は、誰も救えなかった(・・・・・・・・)私と違ってちゃんと人を救った証ですもの」


 ミリーは笑顔でそうミーシャに伝えるが、ミーシャとしてはそんなミリーをそのままにしておきたくは無かった。誰も救えなかった、どうもその事をミリーは全部自分の責任であるかのように捉えているような言い方であったのが気になったのだ。


 だけれどもそんなミリーに対してミーシャは何と言っていいのか分からない。ミリーは本当なら見せたくは無かった本当の顔を晒してまで、傷跡で悩む自分を勇気付けようとしてくれたのだ。


 そこまで真正面から自分に向き合ってくれた相手に対して、中途半端な返答をしたく無いと思ったがためにその時はミーシャの口から適切だと思う言葉が出て来なかった。


 代わりに出てきた言葉は


「そういえば、貴方の本名を聞いてなかったわね、おしえてもらってもいいかしら?」


 といった、どことなくこの場の空気を誤魔化すようなセリフであった。


「私の本名か、そういえばここ数年は名乗ってなかったわね……いいわ、貴女と、後でセレーナには教えてあげる。私の本名は……」

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