第二話 ソイル、ヒーラーでない事を見抜かれる
「どういう、事だ?」
突然突きつけられた解雇宣告にソイルは上手く反応が出来なかった。
昨日まで一緒に死線を潜り抜けて来た仲間3人からの、パーティー追放宣言。
上手くやってきたつもりだった。特に落ち度も無かったはずだし、そもそもただのヒーラー以上の働きをしてきた自負もある。
何故俺がパーティーから追い出されなければならないのだ?
「僕不思議だったんだけどさ、ヒーラーってある程度のレベルになると、ヒールの上位互換のキュアを使えるようになると聞いたことあるんだけど……何でソイルはそれ使わないの?」
その言葉にソイルはハッとする。そもそもソイルはキュアを使わないんじゃない、使えないのだ。
「ソイル、もしかしてお前、キュア使えないんじゃないのか? 確かにお前のヒールは普通よりも何倍もの効果を発揮するのだろうが……これから先、キュアすら使えないヒーラーしか居ないなら、壁役の俺の命を預けるには力不足だ」
ナックルに告げられた内容、それはソイルにとっては弱みではある。キュアは確かに使えない、だがそれでもキュアを使えるような純粋なヒーラーはそもそも冒険などしないのだ。
「そんな事言って、お前、自分が楽したいだけだろ? 大体、お前が打ち漏らした魔物誰が倒したと思ってるんだ?」
ただのヒーラーではありえない戦闘力をソイルは昨日、見せつけたのである。このナックルは盾役として優秀なくせに、しょっちゅう打ち漏らすので俺の予備戦力としての力は必要なはずだ。
「それもお前がキュアを使わないから、俺が思い切って壁役に徹する事が出来なかったからだよ」
その発言は絶対に嘘だとソイルは確信している。前からしょっちゅうなのだ、打ち漏らした敵がソイルやレヴァイを苦しめる事になるのは。
少なくともレヴァイに魔王を倒してもらわないとソイルとしては困るのである。何故ならレヴァイが魔王を倒す事、それがソイルの目的の中間地点であるからだ。
「バカらしい。そう言うのは求められる役割かそれ以上の事をやってから言えよ。レヴァイ、お前からも何か言ってやれ」
ナックルとチェイスにレヴァイがガツンと言ってこの話はおしまい。ソイルはそう思っていたのだが、レヴァイの口から告げられる言葉はソイルの考える内容とは違うものであった。
「ナックルとチェイスの言い分ももっともだ、これからの戦いは激しくなる。君のような出来損ないヒーラーは不要だ」
ソイルはその言葉に内心、頭を抱え込む。俺は勇者パーティーに残らなければならない。そうしなければ自分の目的が果たせない可能性が非常に高くなるからだ。
だと言うのにこの勇者達は、ソイルの事を追い出そうとする。それならば……魔王など、この世界など知った事か。
「ふ……ふふふふふ。そうかそうか、それならば仕方ない……ここで貴様とはお別れだ!!」
メンバーの中で最年少であり、かつ歳の割には童顔であったソイル。なんだかんだ普段から朗らかな表情を浮かべており、パーティーのムードメーカー的役割も担っていたソイルの表情が、これまでに誰も見た事の無いような表情となったのだ。
怒り、悲しみ、絶望。そんな感情を混ぜたような鬼気迫る顔。その気迫にレヴァイが一瞬たじろいだその瞬間
――ダッ!!
ソイルは錫杖をその場で放り捨て、腰の短剣を抜きながらレヴァイに飛び掛かる。その速度は凡そ、普通の人間の視覚では捉えられないほどの速度であった……
「残念、僕には丸見えだよ」
瞬間、チェイスが指弾で石ころを弾く。スナイパーの能力である指弾はそれなりに威力がある。
その事を知っているソイルが思わず躱し、体制を崩す、その体制が崩れ隙だらけとなったソイルを、ナックルが思いきり叩きつける。
――ドズン
とソイルの身体は思いきり叩きつけられ、その上からナックルの巨漢が動きを封じるかのように体重をかけてくる事でソイルは身動きが取れなくなる。
「くそう……ちくしょう!!」
ナックルに頭を押し付けられながらも、ソイルはレヴァイを睨みつける。
そんなレヴァイはソイルを見下すように見ている。ハッキリ言ってレヴァイはソイルが何をしようとしたのかを一瞬理解出来なかったものの、手に持った短剣と今の状況から察したようだ。
「そうか……ソイル、お前はそんなに……殺したいほどに俺が憎いのか?」
「ああ、俺は許さねぇ!! あんたを!!」
いつものソイルを気高い番犬とするなら、今のソイルは血に飢えて手あたり次第生き物を襲う狼、といったところか。レヴァイはため息を吐きながらナックルにこう告げる。
「押さえつけていてはかわいそうだ、立たせてやれ。だが暴れないように動きは封じておいてくれ」
「おいおい、ムチャな注文を」
といいつつ、ナックルはソイルを後ろ手に掴んだまま立たせる。とは言え、封じた手を離そうとはしない。
「ソイル……これまでパーティーで尽くしてくれた恩もある、この件は見なかった事にしてやるから、おとなしくパーティーから出て行け。魔王と決着が付くまでは近寄るな」
レヴァイはソイルにそう告げると、ソイルの腹部目掛けて思いきり拳を突き出す。
――ドスン
「うっ!!」
ソイルはそのまま、気を失った。だがそれでも、気を失うまでこの思いが心から消える事は無かった。
――勇者レヴァイ、貴様は、俺が殺す。