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第十九話 ミーシャとセレーナの過去

 夜間、コンコンとミリーの部屋の扉をノックする音が聞こえる。


「はーい、ミーシャかしら、それともセレーナ? 入って良いわよ」


 ミリーが扉に向けて入室の許可を出す。ほどなくしてミリーの部屋の扉がガチャッと扉を開く。そこから入ってきたのはミーシャであったが。いつもの家の中に居る時の普段着とは違った服装であった。


「あら、予想以上に似合ってるわね。どこの御令嬢がいらっしゃったかと思ったわよ。これなら貴女を放って置くような男は居ないわね」


 ミーシャは衣服店にて買った赤いドレスを着用している。金の髪が赤いドレスとマッチしており、その美しさに思わずミリーも見とれてしまう。


 そんなミリーに見つめられ、ミーシャもどことなく照れくさそうな嬉しそうな表情を浮かべるが、その嬉しそうな表情は長くは続かなかった。数秒後にはどことなく悲しそうな表情になる。


「どうしたの? 似合ってるのだから、もっと嬉しそうにしたらいいと思うわよ?」


 そうミリーから告げられるとミーシャはそのままミリーに背を向け、そして背中を覆い隠した長い金髪をかき上げ、背中をミリーに対して見せる。


 ミーシャのドレスは背中がパックリ開いているため、その背中の様子は否応なしにミリーに見えてしまうのだ。そしてその背中を見たミリーは息を飲む。


 ミーシャの美しい背中、肌に似つかわしくない大きな切り傷の跡がとても痛々しく感じる。皮肉なことに赤いドレスはミーシャの金色の長髪だけでなく、その背中に浮き出た傷跡をも目立たせる結果となってしまっているのだ。


「……こんな大きな傷を負った女に男が見向きもしないわよ」


 ミーシャの口調はどこか、諦めのような自虐のような印象を受けるような独白をする。


「その傷、何で出来たのか聞いてもいいかしら?」


 本当ならこのような事を聞く事も良くないのだとミリーも分かっているはずだが、それでもこうやって背中の傷を改めて見せられたので聞いても良いと判断したのだろう。


 最初に背中の傷を見た時はダンジョン内の時であったか、その際はミーシャの命も危なかったうえに自分の仮面術の秘密を見せてしまったがため、傷について聞く暇も無かったのだ。


「これは、私の村が襲われた時に付けられた傷なの」



 幼い頃ミーシャとセレーナが村の外で食材を採取し、村に戻った時に見た光景は、それは凄惨な光景であった。


 村の全てが炎に覆われ、もはや村の中に入る事すら躊躇われるような光景。中に居るだけで命を落としてしまいかねないような炎の渦がそこには出来上がっていた。


「お父さん!! お母さん!!」


 まだ幼かったセレーナが炎の中に飛び込もうとするのをミーシャは腕を掴み引き留める。こんな状態で村に飛び込むような自殺行為を妹にさせる訳にはいかなかったのだ。


 本当なら父と母の無事を確認したいのはミーシャも同じ、だけれどもそれより……姉として、妹の命だけでも守らなければという一心だった。


 たとえ妹を引き留める事になり、その事で一生恨まれる事になろうとも。


 どこからか声が聞こえる。一体どのような言葉が発せられたのかはわからない。急に起きた火災、そして混乱した頭では正確な内容を覚えていなかった。だがそれは恐らく、他に生存者が居る事に感づいたような内容だったと思う。


 ミーシャはセレーナの手を引き、懸命に走った。何者かが自分たちを追いかけている事は分かっていたものの、走って逃げる以外の選択肢はその場には用意されていなかった。


 だが幼い子供であったミーシャ、そしてそんなミーシャよりも幼かったセレーナが大人から逃げ切れる訳もなく、すぐさま2人に成人の男性らしき人影が迫り、手に持った剣を振りかぶる。


「お姉ちゃん!!」

「セレーナ!!」


 咄嗟にミーシャはセレーナを思いきり引っ張り、そのままセレーナを庇うように抱きかかえる。そして、そんなミーシャの背中を男の凶刃が切り裂き、背中に深く傷を残す。


――セレーナだけでも、守らなきゃ!!


 ミーシャはそのままセレーナを抱きかかえ逃げようとするが、背中を大きく切り裂かれまだ幼いとはいえ2歳しか歳が離れていない妹である。マトモにその場から逃げ切る事は出来ず、そのままミーシャはセレーナと一緒に道の脇の川に転がり落ちた。


 ミーシャは意識が朦朧とする中で川に流されながらも、その自分を切りつけた男の発言の断片を聞いていた。正確には記憶してはいないものの、特徴的な単語はミーシャの脳裏に焼き付き離れなかった。


「しま……勇者……いいか……」


――勇者、勇者が勇者が村を、皆を襲ったのだと。


 その後に川で流れているところを通りすがりの老人に救われ、その老人に応急処置をしてもらいミーシャたちは遠方の親戚を頼る事となったのだった。


 そして親戚にお世話になっていた間にミーシャは事件のあった日の勇者の行動予定について確認し、そして同日に自分たちの故郷の村の近くを勇者が通った事を確認したのであった。


 未だに背中の傷は鏡で見る事が出来る。あまりに大きな傷で、自分で見る度に悲しくなってくるのだが、どこかセレーナはその怪我が自分のせいであると思っているフシがあるようで、これまでミーシャは傷については表立って感情を出せなかったのだ。

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