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第十八話 復讐者達の日常

 街外れの一軒家には3人の美少女が住んでいる。街は今そんな噂で持ち切りであった。


「ほらセレーナ、動きが緩慢よ。もっと腰を入れて! ミーシャ、魔力がちゃんと流れてないわよ、もっと集中して! 戦闘中はそんな隙だらけの集中をする余裕もないからね! これくらいは何も考えずに出来るようにならないと!」


 3人の美少女たちは朝からよく家の庭で武芸や魔法の特訓をしており、やってる事は非常に勇ましいのであるが、美少女を拝む事が出来ると一部の男連中は良く仕事をサボってはその特訓の様子を見に来るのだ。


「仕事の前にこんな美女のたわむれる光景を見る事が出来るとは……生きててよかった……」

「ふぉっふぉっふぉ……儂もあと50年若ければあの間に入り込むのじゃがな。ああ、心だけは50歳は若返る思いじゃわい」

「うわー……無粋な爺さんだな。美少女同士が仲睦まじくしてるからいいんだろうが」


 ちなみに美少女たちは隠れて3人を見ている男たちの存在に気が付いている。だが気が付いていながらも美少女3人は放置している。


 美少女が男たちを放置しているのには訳がある。それは決して男達を気にしていないと言う訳ではない。


「あんたぁ!! こんなところで何油売ってるんだい!!」

「げぇ!! お前!!」


「お爺さん、貴方も何やってるんですか?」

「げっ!! とほほ……婆さんや、折角心が50歳は若返ったと言うのに、無粋な婆さんじゃのぉ」


 男達が同年代の女に詰め寄られる。どうやら男の奥さん達のようだ。


 こうやって男達の縁者――大体は奥さんや恋人だが――が連れて行くので殆ど無害なのだ。むしろ都合が良い。


「ねえミリー。流石にこの状態だと……落ち着かないんだけど」

「私も気が散って集中出来ないです」


 気が散っているようなミーシャとセレーナに対し、ケイヴ改めミリーがそんな2人を叱咤する。


「何言ってるの! 今はまだ危険は無い街の人からの視線しか感じないけれど、戦場ではいつ飛び掛かられてもおかしくないのよ!!」


 ミリーは思う。この程度で気を散らして実力を発揮出来ないようではダメなのだ。そういう意味では周囲に気配があり、そしてそれを感じながらの訓練が出来る今の状態は逆に都合が良い。


 とはいえミリーもその視線に思うところが無いわけではない。


――汚らしい視線を姉さんに向けるな、と言いたいのを必死でガマンしているのだ。



 さて、別にミリーはミーシャとセレーナを暗殺者に仕立て上げたい訳ではない。勇者などの特殊なものを除き戦士、スナイパー、ヒーラーなどの職業区別に特に意味は無いのだ。


 だからこそ職業などほとんどが自称の域を出ない。そしてその道のスペシャリストとして育てるには時間が掛かる。故に広く浅く教えているのであるが、師匠の元で特訓するしか無かったミリーでも何度も心折れそうになったレベルの特訓をさせる訳にもいかない、だからこそ息抜きも必要だと考えている。


「ちょっとこのドレス、いいじゃない!! ミーシャに似合うんじゃない?」

「ええ? 私はこっちの方がお姉ちゃんに似合うと思います」

「ちょ、ちょっとあんたたち! 私を着せ替え人形みたいにして遊ぶのやめなさい!!」


 こうして空いた時間に3人で買い物や食事を楽しむのだ。


「ほら、このドレスなんかいいんじゃないかな?この赤いドレスなんて似合いそう!!」

「ちょ、ちょっと!! だから私を着せ変え人形にしないで!!」

「わっ!! こ、このドレス、背中がパックリで大胆……」

「い、いやよ!! そんな背中が丸見えのドレスなんて!!」


 それなりの息抜きになっているようで、ミーシャとセレーナも楽しそうだということもありどうやら息抜きを適度に挟むのは正しかったようだ。


「ねえ、ところでミリー。貴女そもそも持ってる服が少ないわよね?」

「え?」


 元々暗殺者として生きていたミリーである。そんなに荷物を持つような暮らしはしていない。ただその中でもミリー用の服は多い方である。


 ターゲットに近寄るのには女性として近寄った方が相手の懐に早く深く潜り込めたので、その場その場に合わせた服装は一通り持っているだ。


「いやいや、私はいいから!!」

「ダメです!! 私も師匠であるミリーさんに何もお返しを出来てません!! ここは是非とも、ミリーさんの服を買いましょう!!」


 セレーナがミーシャの発言に大きく同意する。というか、目がものすごく爛々と輝いている。実はセレーナとミーシャは思っていたのだ。


 ミリーを着せ替え人形にしたいと。


「ちょ、セレーナ、やめなさい!! ミーシャも何手をワキワキしてるの!! もし私を着せ替え人形にでもしてみなさい!! ミーシャのご飯にニンジンを、セレーナのにはピーマン入れるわよ!!」


 食事の用意はミリーが担当しているため、混入も容易なのだ。そしてこれまでの数日で2人の好き嫌いも完全に把握している。どうだ参ったか、とミリーはホッとするが


「え? ニンジン食べたら着せ替え人形にしていいの?」

「ミリーさんの着せ替えのためなら、ピーマンでも食べられます」


 2人から帰って来た反応は、ミリーの期待した反応とは違ったものであった。ミリーは不思議に思っているが仕方ないのである。


『2人とも今日はちゃんとニンジンとピーマン食べられたわね!』

『え? ニンジン入ってたの?』

『ピーマン入ってたの気が付かなかったです』

『まあ、姉さんも私が嫌いだった野菜をこっそり混ぜ込んで料理してたからね』


 以前にこのような事があったため、2人は信用しているのだ。こんな意地悪な事を言っていながらも、きっと2人が食べられる形にして出してくれるのだろうと。ミリーがニンジンやピーマンを食べさせたのも、自分たちを考えてくれたからであろうと。


 実際は信頼関係を結ぶのは良い事のはず、なのであるが……今はその信頼関係がミリーを苦しめる形となってしまった。


「い、いやぁぁぁぁぁ!!」


 今この瞬間、暗殺者の着せ替え人形が誕生した。

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