第十七話 【スクープ】勇者レヴァイ、王女と密会か?
国王との謁見が終わったレヴァイが王城から退出しようとしたところ、廊下にてレヴァイに声を掛ける女性の姿があった。
「勇者様、よろしければ私とティータイムなどいたしませんか?」
勇者として国王に召し抱え、というか、国宝の「魔王を打ち倒す事が出来る聖剣」を国から貸与され、そのために国王より行動を制限されるようになってはや10年以上、その間ちょくちょく顔を合わせていた王女であった。
「ええ、レディからお誘い、喜んでお受けいたします」
最初に会った頃は子供だという印象が強かったものの、時の流れによるものか今や立派なレディである。緩くウェーブのかかった銀の髪は同じく色素の薄い肌と相まって、青い瞳の蒼を際立たせる。だが全体的に寒色でありながらも、冷たい感じは受けない。逆に薄い色合いが柔和な表情を際立たせている。
「レディ、エスコートいたします、お手を」
「ええ、喜んで」
2人が向かうのは城内中庭。中庭には色とりどりの花が咲き誇り、その花を眺めながらティータイムを過ごすのが王女の楽しみなのである。そして、何度もそのティータイムを一緒に過ごしてきたレヴァイはその場所を完全に覚えている。
とはいえ、レヴァイがティータイムに呼ばれる時、それは休憩の意味合いのあるティータイムだけでは無いのだが……
◇
いつも王女がティータイムを行う場所にはテーブルが1つ、そして向かい合うように椅子が2脚。王女とレヴァイが椅子に座ると、数名のメイドがお茶をテキパキとセッティングする。そして一通りセッティングを終わると1名が傍に控え、その他のメイドは一礼をし席から離れる。
「貴方もしばらく外してもらえるかしら?」
王女が傍に控えるメイドにも席を外すように伝えると、メイドはペコリと一礼の後その場を外す。
「さて、しばらく人払いは出来ましたわ。いつものご報告ですわ、レヴァイ様」
先程までの気品あふれる穏やかな笑顔は変わらない、だがその言葉を告げた瞬間、王女の顔がどことなく、イタズラっ子のような無邪気さを含んだようにも見える。その表情は人の上に立つというよりも、年相応の女性の顔といった感じだ。
「よろしくお願いいたします、ティナ様」
レヴァイは秘密裏に王女ティナに調査のお願いをしていた。勇者として国王との契約に縛られている以上、自由に動けない事も多いレヴァイ。自力の調査では限界もあった所に王女からの申し出があり、甘える形となっている。
もちろん王女もただレヴァイの希望を叶えるためだけに動いているわけではない、見返りを期待しての事である。そしてレヴァイもその事で王女を利用する形になっている事は自覚している。それでいてもレヴァイには頼れる相手が王女しか居ないのだ。
「とは言っても前回の報告から大きく変わった訳ではありませんが……周囲の村にてレヴァイ様の故郷である村と同様の焼き討ちによる無差別殺人事件が発生していたようです」
「!! な、なんという事か……それでは、そこにも……?」
「ええ、目撃証言と言っていいかも分かりませんが、その現場にも魔王らしき人影が訪問したのではないかという証言もありました。ただその……片田舎の村での出来事のため、断定できるような証言ではなく、あくまでそのような噂話ですので……」
「ええ……分かっております、それでも……」
もう十年以上前の事になる。勇者レヴァイの忘れられない過去、それは久しぶりの帰省をしたら、故郷の村が焼け落ち見るも無残になっていた光景。
全てが焼けてしまい、もはや生存者が居たかどうかすら不明であった。だが故郷の消滅で勇者としての活動を止める訳にはいかない。内心は生存者を必死で探したい気持ちなのを必死で押さえつけ、レヴァイは勇者として振舞って来た。
ティナが年頃になり、かつてより好意を寄せていたレヴァイに対し好意を伝えた際も「私を故郷で待っている婚約者がいる」と断ったほどには、故郷の村に思いを残していたのだ。
ティナは当初それに相当腹を立て、レヴァイの婚約者に一度文句を言ってやろうとレヴァイの村の事を調べ、そして知ってしまった。
レヴァイの村は謎の火事で消失してしまい、生存者が1名も居ないと思われている事を。
ティナはもはや生存していないだろう婚約者をダシに自分の申し出を断ったレヴァイに怒りの感情を抱き、そして罵った事を恥じている。
罵られながらもレヴァイが言った、その時の言葉を今になってもティナは忘れられないのだ。
「村が全滅したのは、私が勇者だったからでしょう。きっと魔王軍が私への見せしめとして村を襲撃したのではないかと私は思っております。私はそんな残酷な事をした魔王を許さない。必ず魔王を倒し、その後は残りの人生を村の生き残りの捜索と村の皆への償いに使いたいのです」
ティナはレヴァイに文句を言った自分を恥じた。そして、レヴァイの希望である生き残った村人の捜索を申し出た。
国王である父親にもその協力を願い出たのだが、片田舎の滅んだ村の生き残りの捜索など国にとって何の得にもならないと断られたため、今の捜索はティナが秘密裏に進めている要件であった。
◇
王都の城下町の片隅の常に日が当たらず年中無休で影を作り出している薄暗い一角、そこに3人の人物が密談をしていた。
「さて、首尾はどうだ?」
「はっ!! 問題はありません。これ以上の人材の登用、その必要は無いと国王も判断したでしょう」
身長2メートル近い大男らしき人影が問われた内容に対し回答をする、それはとても楽しそうに。
「こちらも問題ありません。懸念であった強すぎる回復役ですが、無事パーティーからの追放に成功しております。上級回復術師など連れて行ってもキュアを使う魔道具など持ち運べませんし、はっきりって戦闘能力も村人を連れて行った方が戦力になるレベルです」
そうか、と話しかけられた人影が反応し、そしてその後クククと笑う。
「その元回復役も強く勇者を憎んでいたはずじゃが、魔王討伐後まで待つ決断が出来る程は冷静だったようじゃの」
「笑いごとではありません、我が君。奴のせいで四天王の皆様が全滅したと言っても過言ではないでしょう。最後の四天王様の戦の際、隙だらけの勇者にけしかけた魔物3体を奴が撃退さえしなければ……」
「そうじゃったな、その落とし前を付けさせる必要はあるじゃろう。だが……」
「はっ!! 最後の玉座の間にて勇者を討ち取り、聖剣を我らが手中に納める。聖剣を持った勇者ですら歯が立たず、頼みの聖剣を奪われたとあっては……人間どもはもはや抵抗の意志を持ちますまい」
報告を受けていた方の人影が「うむ」と首を縦に振ると
「さて、それでは我は立ち去ろう。2人とも、期待しておるぞ」
「「はっ!! 我が君のため!!」」
2人の人影が恭しく頭を垂れると、次の瞬間報告を受けていた人影が、まるで最初からそこに無かったように消えた。
その人影を見送った後、その大小デコボコな人影が日の光の射す所に移動しながら互いに言葉を交わす。
「さて、僕達も最後まで気合を入れないとね、ナックル」
「おう、頼りにしてるぞチェイス」




